第6話 血濡れの白姫。
◇◇◇
王立プロスキール学園に入学したリコリー・ブランシュ・ド・ベルジュは学園の一年A 組だ。
クラスは学科毎に別れては無く、座学の成績順なのだ。A組20名が学年のトップである。
新入生総代のリコリーが一位。次席はルーセル王子であったのだから、彼的に心穏やかであるはずも無く……。
絡む。
「おい!白髪!」
「そのように稚拙な悪口でわたしをお呼びしても、貴方のようなお可哀想な殿方に向ける顔を当方は持ち得ません。喧しいので、スッ込んでろっ。とは言いませんので、話し掛け無いようお願いいたします。」
「き、貴様ぁー誰に対してその…」
「殴りますよ?右手で!」
「!」
「おい!リコリー嬢、無礼であるぞ!」
「煩いですわ。学生間の会話に割って入らないで下さいませ。それに無礼はそちらでは?辺境伯令嬢ですわよピカード様。」
「ピカードなどでは無い。私は『ジャン』だ!
―――因みに私は侯爵家嫡男だが?」
「も、ももも申し訳ございません。どうか平に平にぃぃぃ」
「ふん。平たいのは白髪頭の胸だっ!」
―――ゴッ!
「で、殿下ぁぁぁーーーっっっ!」
一発、反省房行きのリコリー嬢。
そんな日常の学生生活も一ヶ月立ち、すっかり仲良しになったリコリーとルーセル殿下。
今日も学食で、ブレ公爵家のベルナールを含め三人、昼食を取るのであった。
子どもが友達になる切欠なんて何時でも簡単なことなのだ。
関わる時間が仲良くなる時間なのだ。何せ齢13の子ども達、悪口を言い合っても、それはそれで『会話』なのだ。
「で、提案なのだがリコリー嬢、『狩り』に行かぬか?」
「え、狩り?行く行きたいです殿下!」
「あのなあ、リコリー嬢。その『殿下』呼び、止めては貰えぬか?ベルナールも私を『ルー君』と呼ぶのだぞ。」
「や、流石に『ルー君』は……、ではルーセル…様、と。」
「ん、まぁそれで良い。でだ、狩りだが、明日の安息日に行かないか?」
「あー。ああ残念ですが、実は、街の鍛冶師様に、そのぉ、右腕のメンテナンスに行く予定なのです。わたし、こんな身体で、す、からぁ………(もう、何で涙出るのだろう。)もう、傷物だって、自覚しているのに……」
「ぅあ、お、おい泣くな!泣くなリコリー嬢!」
「ルー君ルー君!アレ見せて貰いましょう!あのリコリー嬢の剣!カッコイイですよね?」
「つか、空気読めよベルナールぅ。私は今、リコリー嬢を慰めているのだぞ?」
「剣?いいですよ!さあさあ、外、中庭へ行きましょう!学食の中では危ないですから…、」
「オマエ今、泣いていたであろう?立ち直り早くない?」
そんな感じで中庭へと歩き出した三人。その内の一人はこの国の王子だ。何れ立太式を行い王太子になる人間なのだ。お妃様になりたい、と考えている女生徒は多いのだろう。
粉掛けたいのに邪魔なリコリーが何時も傍に居る。と言う事実。苦々しく思う生徒の視線をリコリーは知っているし、今も感じている。
(全く……、わたしがお妃様になれる訳無いのに…。白髪頭だし右腕無いのよ?こんな傷物、王子様どころか、何処の殿方だって望んで下さることなんてあり得ないのにね!)
――――無自覚。
残酷な罪である。そう、リコリーは自分自身の容姿が他人にどう写っているのか分からないのである。
ルーセル王子も「肌が白磁器のように…」と言ったではないか。同室のグレース先輩も「白銀の髪」と褒めていたではないか。
まあおっぱいについては言及せぬ方向で……。
兎に角、美少女なリコリーであった。それだから辺境伯は自分の養女として囲ったのだから……。
「へえー、前腕にグルグルって巻いてあるのだなあ。」
「リコリー嬢、触るよ?―――って、何?軟らか。何で?」
「だって、コチコチに固かったら巻け無いでしょう。――――で、見てて、わたしが魔力を込めるとぉー」
――――シャキーン!
「「おおおーーー!!!」」
―――あ!
「取れた。」
「剣、落ちたね。壊れた?」
「……うん。明日、鍛冶屋に行ってくる。。。」
◇◇◇
「何か解ったのかしらマリー?『血濡れの白姫』について…」
女子学生寮の五階。第二王女エステルの居室の中に王女エステルとお茶を給仕している侍女マリーの二人。
「マリー、遮音して。」
「はい殿下。」
スゥっと何か水面の波紋のように空気が広がる。
「かなり確実に解りました。ほぼ、確定かと思います。おそらく帝国の…」
「帝国、ですって!マジ?」
「はい、マジもんです。
―――名前はミセリコルディア・ロクサーヌ・ド・ソレイユ。ソレイユ公爵家の長子、次期女公爵であったようですね。」
「『だった』とは?」
「ええ、七年前の芽月の30日未明、その公爵邸…帝都本宅で襲撃事件があったのだそうです。
これは不確定な情報なのですが、まあ確定でしょう。襲撃犯の首謀者は、公爵の弟君のソレイユ子爵だと思われます。」
「根拠は?」
「根拠もなにも、子爵から公爵に上り詰めたのです。それに横恋慕していた兄の公爵夫人を娶ったそうで、誰が一番特をしたのか…、更に言えば、寝室で一緒にお休みであったはずの奥方様に一切、怪我が無かった。おかしいでしょう?にも関わらず、長子であるミセリコルディア様が害された可能性があるのですよ?
どう考えても主犯です。まあ、証拠が無いようで、その事件の後で次の公爵になりましたが……。」
「そのご令嬢、ミセ…リコル……、ああ、ミセ、リコリー、リコリーは愛称なのね?」
「おそらくは…。先程、害された。と言いましたが、ミセリコルディア様のお部屋には、特に親しかった侍女の遺体…メッタ差しの遺体と、子どもの右腕のみ残っていたそうです。もしご令嬢が生きていらっしゃれば、現在12歳。これは確定でしょう?只、髪色が……ミセリコルディア様は、見事な金髪だったと言うのですが、同室のグレース様が暴いた髪色は、白髪。せいぜい『白銀色』と言ったところです。
―――それと、そのミセリコルディア様なのですが、五歳で聖人…癒しの『聖女』と認定されております。」
「『聖女』?なんだか面白いことになって来たわねぇ。もうワックワクが止まりませんのっ!」
「こいつ、不謹慎過ぎんだろぉ」
「マリー、何か言った?」「いえ、特には……」