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白姫さまの征服譚。  作者: 潤ナナ
第一章 二節。
18/87

第18話 侍女と聖女白姫。


◇◇◇


 リヴィエール王国第二王女エステルのお傍付き侍女マリーと聖女様と持ち上げられた白姫ことミセリコルディア。

 若しくは辺境伯息女リコリー・ブランシュ・ド・ベルジュは、王都プレスキールを離れ、駅馬車で北の港町『サン・エレオノール』を目指す。


「あのですね、リコリー様…」

「マリーさん。わたし今は、『ミリディア』ですの。」

「ミ…セ…リ…コル…ディア………。成る程ミリディアですか。そのミリディア様…」

「ミリディア。只のミリディアです。平民なのですから。」


「では、平民のミリディアさん、ご自分の会社のお金だからと言って、支店の金庫からお金を持ち出すのは犯罪なのですよ?」

「やはり、悪いことでしたかしら?」

「ええ、犯罪です。」

 ガタゴトガタゴト馬車は揺れる。

 駅馬車は、主要都市間を繋いでいる。とは言え、一日で行ける距離に都合良く主要な都市がある訳でも無い。

 半日から一日程の距離、移動出来る場所に『駅』が設置されている。

 『駅』のある場所では、細やかかもだが、商売が出来る。商品があるなら人も集まる。

 そうして出来た町にリコリー改め『ミリディア』が降りた。


「ミリディアさ…ん。御者から、『明日七時出発』とのことです。明日の昼過ぎには『サン・エレオノール』に到着です。」

「エレオノール…かぁ。」

「ああ、義妹様がエレオノールと仰いましたね。」

「エリィ、わたしの可愛いエリィ……。今どうしてるのかしら。」


「お帰りになられますか?」

 その日、宿を取った。リコリー改めミリディアは大はしゃぎ。初めての庶民の『宿』なのだ。

 普段の言動があのように粗暴………。いいや、リコリー……、ミリディアの行動も言葉も普段乱暴では無かった筈。寧ろ美しい所作、華麗な立ち振舞い。貴族令嬢の中の令嬢然と、観覧していたのでは無いだろうか。但し、第一王子がのあれが絡まなければ、であったのだが………。


 そのような訳で、ミリディアがどんなに武闘派令嬢であっても所詮、お貴族様のご令嬢。庶民の空気に浮かれているのであった。


 マリー、花も恥じらう乙女な18歳のお姉さんから見れば、ミリディアの浮かれっぷりは、『可愛い妹』のようなものである。


 なんせ、露天の焼き菓子を持たせれば、「お茶とお椅子が…」。串焼きを食べさせれば、「カトラリーがございませんの?」。と、終始この調子なのだ。


 宿の食堂で、マリーはエールを呑みながら、「ふぅ」っと小さなため息を付くのであった。


(…烏滸がましい、とは思うけど、実際この()可愛いわよね。あんなに強くて、あんなに凛々しいのに、結局まだ13の少女なのだわ。)

「どお?お口に合う?ミリディア。。。」

「はい。大丈夫、です。よ?このお肉ベチャァー感がありますが、スープが塩味しかしませんが、結構無理にでも食べられ無くもありません。と思います。」

「…………。」


「おい、ガキィ。ウチのメシにケチ付けんなら、出てってくんないか?」

「ケチ、など付けておりません。辛うじてたべられます。と、感想を申し上げただけです。」

「それをケチって言うんだ。ほら、出てけ!」

「この()の振る舞いは無礼でしたが、ですが、この集落で泊まれるところはここのみです。出てしまうと、泊まれる場所がありません。」


「こっちの知ったことか!」

「わたしの不用意な言葉使いが過ぎる、と言うのなら、この通り謝る。ですので………。」


「リコリー様!頭をお上げくだs………ハッ。。。」

 タイミング悪く、ミリディアのかぶりが食堂の床に落ち、白銀色の長い髪が、サラサラッと顔の横を流れた。


「お、お、あ、貴女様は、聖女姫神子様!」

(え?『神子』?姫よりランク上がってない?)


「お願いだぁ。かーちゃん、オレの妻が、病気で死にそうなんだぁー!何とか何とかしてくれ。下さい!」

「何を言いますの?わたし達は出て行くよう、貴方に言われている真っ最中ですのに。」

「出ていかなくていい。宿代だって、タダでいい。診てくれ、妻を、お願いだ!」


「わたしは聖女などではありませんし、まして見ず知らずの貴方の奥方様に、お会いする義理も義務もありません。

 お代はテーブルに置きました。それでは出て行きます……。」



「よろしかったのですかミリディア………さん?」

「大方、栄養の偏りか、疲労による体調の変調でしょう。少し多めにお金を置いたので、滋養の付く物でも召し上がれば良いのですわ。」



 宿の主人は感謝していた。テーブルに金貨が三枚もあったのだ。


「マリー。何処で寝ましょう?」

「ミリディア様が、変な意地を張るのがいけないのです。」

 そんなこんなで、『駅』に戻ったリコリー、ミリディア達。

 御者達は、何時も駅小屋で休むのだそうで、「うら若い少女がいて良い場所では無いですよ。」とは言うのだが、宿を追い出された。と言うミリディア達に快く場所を開けてくれるのであった。


「いけすかねえ野郎だな。あの宿の親父。」

 と、少し宿の評判を落としちゃう原因となるミリディア達であった。


 翌朝、御者達にマリー考案のスープを振る舞った。

 単純に、干し肉と乾燥野菜に保存の効く根菜をお湯で煮たのだ。

 炎は、火力のあるミリディア担当者だ。

 とても喜んでくれた御者達であった。


 馬車はサン・エレオノールの町を目指し街道をパカパカ走る……。寧ろ歩いている状態。

 盗賊にも魔物にも遭遇すること無く、無事にサン・エレオノールへと入る。街の名前が長いので皆、『サンレノ』と呼称しているのだと言う。

 そのサンレノの南門、身分証の提示を求められた。


(どうしよう。身分証無い。。。)

「大丈夫ですよ?」

 そう、マリーが言うのだ。どう大丈夫なのだろう。


「おっちゃん!あたい『冒険者』なんだけど、この相棒が『冒険者証』失くしちまってよお。要は幾らだい?」

「おう、冒険者マリー、か?おお知ってる、マリーな。紛失したってんなら、このくれぇかなあー?」

 そう門兵は言って、指を三本立て「にぃ」っと笑った。マリーは通行料の大銅貨四枚と銀貨三枚を門兵に渡した。

「ありがとよぉー。」



「あのマリー、あれって所謂『賄賂』では無いのですか?」

「ミリディアさ…ん、世の中は、規則で雁字絡めになってしまう程に綻びが広がる速さが増す。そうローズ=マリーは思います。ですから、あの位の緩さは必要なのだと思います。」

「わたしって、ずっと国境警備の兵士様に囲まれて過ごして来ましたの。勿論門兵のように外から悪いものを入れさせないように、国から大事なものを出させ無いように、そうすることが辺境伯家の、延いては、わたしの矜持でもあるのです。ですから、今のやり取りに憤りを禁じ得ません。こう言うわたしは何か間違えているのであったしょうか?」


「まあ、あたいの言えることは、『結果、町に入れて良かったぜ』ってこった。」

「マリー、喋り方が変わった。」


「なんたって、庶民だからなっ!」


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