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白姫さまの征服譚。  作者: 潤ナナ
第一章 一節。
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第16話 怒れる聖女白姫。


◇◇◇


 神月(ディユ)とは12月である。

 神月の中旬、前期末試験があるのだ。座学の試験だけでは無く、実技の試験も合わせてある。


 王立プレスキール学園は、四年制。13歳になる年から16の成人になる年までの学舎だ。


 入学は、望月(リュンヌ)と呼ばれる9月である。12月、神月(ディユ)の下旬から、1月の雪月(ネージュ)。2月の寒月(フロワ)と冬期休暇を挟み、3月芽月(プールジョン)から後期の始まりなのである。


 リコリーが『公爵』様だと発覚したが、特別名乗り出てもいないので、変わらず辺境伯令嬢であった。

 なので、変わらず、グレース先輩と同室のまま過ごしていた。


 ところで、王子であるルーセル殿下と何時も仲良く昼食を取っていたり、仲良く教室でお喋りをしているので……(そう見えるらしい)……一部の女子から反感を持たれているリコリーであった。


 教科書を捨てられたり、落書きされたり。体操服を濡らされたり、とまあ、思い付く限りの嫌がらせが続いていた。

 今日は、教科書がインクだらけになっていた。


「仕方ないわね。ルーセル、教科書一緒に見せて下さる?」

「またあ?まぁいいよ。じゃあ机寄せるよ。」

 と、ぴったりとくっつけたものだから、きっと主犯の令嬢は面白く無いのだろう。

 リコリーを非難し始めた。


「ちょっと貴女、リコリー様、殿下に近寄り過ぎではなくって?淑女の嗜みとしてどうなのかしら?」

「まあ!淑女ですの?どうも貴女の言う淑女とわたくしの知っている淑女に齟齬がありそうですわね。フレデリーク・エマ・ド・ル・フォール様」

 言いながら、リコリーはインクで汚れた教科書を左手で持ち上げると、「灰と化せ!」と唱えた。

――――ブオォォォ!

 一瞬で教科書は灰になる。


「次は貴女の番よ?それが嫌なら、首謀者と共犯者、一切合切お喋りして頂くわ。3つ数えるわね。っと言うのが、わたくしの淑女としての矜持よ?では、いち。にぃ。さん。はいお仕舞い。」

 そう言うが早く、フレデリークのブラウスの襟を掴むリコリー。


「覚悟はよろしくて?」

「すすすす、すいません!ごめんなさい!許してお願いよぉ!」


「あら?謝ってお仕舞いになるの?貴族たるもの直ぐに頭を下げるものでは無いですわよ?やはりわたくしの知る淑女と貴女は違うのですね。早くお名前をお言いなさい。でないと、こんがり焼いてしまいそうですわ。」

「ジャクリーン様とエレーヌ様が共犯で、主犯はわたくしです!」

「では、貴女を含む三人でわたくしのダメになった教科書三冊を直ぐに買っていらっしゃい。午前中のうちに、よ?もし、お昼休みになっても教科書が無かったら……」

「ど、どうしますの?」

「貴女のお部屋は、真っ黒焦げになってます。駆けあーし!」



「リコリー。オマエ怖いよ。」

「ルー君の言う通り、僕、チビりそうでした。」

「お漏らし……かぁ。何もかも、みな懐かしい…」

「ねぇ。何時までそれ引っ張るのかしら?わたし、自制とか自制とか…って、頑張っているの。お願い、ルーセル様、殴らせ無いでぇぇぇ!」


「ところでルー君、リコリー嬢。あの『狩り』って何時行くのですか?」

「ベルナールぅ、オマエって凄いなっ!何故この流れで『狩り』になっちゃうの?」

「うん。流石のわたしもビックリしたわ。普通ここは、ルーセルがわたしに殴られて、学園長に通報され、反省房。と言った流れが基本ルートなのだわ。」


「前期末試験が近いので、早く行きましょう。ルー君、リコリー嬢?」

「尊敬する。」

「わたしも殿下に合意。」

 そんな訳で、次の安息日。狩りに行く約束をする三人であった。

 勿論、お付きの……護衛のジャン=リュック以下二名のお供も付いて行くのだが、


「リコリー嬢居れば、俺等要らねぇんじゃね?」

「ああ、過剰戦力だよなー。なあジャン。」

「………面白く無い。侯爵令息の私が、嫡男だぞ!偉いのだぞ!」


「ジャン……。あまり拗らすなよ?なっ。相手はまだ12歳のお嬢様だぜ?」

シュヴァル侯爵令息ジャン=リュック・ド・シュヴァル。

 彼は面白く無い。自分の思うように物事が進ま無い。何としてもあの女『リコリー』を貶めたい。何としてもどんな手を使ってでも。



◇◇◇


 昼休み前。

 フレデリーク嬢、ジャクリーン嬢、エレーヌ嬢の三人が、涼しい冬の始めに汗だくで走って来た。


「フレデリーク様、淑女たるもの何時も心穏やかになさいませ?廊下を走るものではありません。」

「はい。申し訳ございません。」


「貴族たる者は、無闇に人に謝るものではありませんよ?」

「ぐっ……。」

「もう貴女方の所為で、二科目もルーセルの教科書見る羽目になったのです。屈辱ですわ!はい、教科書下さる?」


「に、二冊はございましたが、一冊は見付からず………」

「どなたのお部屋から焼きましょう……、ああ、ジャクリーン様とエレーヌ様のお部屋は一般の…でしたね?それでは同室者の方の迷惑になりますから、フレデリーク様のお部屋を燃やしましょう。」

 そう言うと、リコリーは教室を出て女子寮方向に歩き出す。


「ま、待って!ねえ待ってって!待ってリコリー様ぁ。。。お願いお願い待って欲しいのっ!」


「…申し訳ありませんが、何故わたしが、貴女などの『お願い』をお訊きする必要がございますの?」

「お願い!何でも何でも言うこと訊くから、お部屋焼かないでぇぇぇ!!!」

「もう一度言います。何故わたしが、貴女ごときの『お願い』をお訊きする必要がございますの?必要ありません。当初の約束を実行致します。勿論、泣いても『無駄』です。」

――――うわあんんあんあん。うううええーーん!


「泣いても無駄だと言うのに……。」

 フレデリークは必死だ。ズンズン歩くリコリーの腰にしがみ付き、何とかリコリーを止めようと……。だが、辺境伯領で、足腰を鍛えたリコリーに敵う訳も無く、女子寮のフレデリークの居室に到着してしまった。

 ドアをノックして、



「侍女、その他の方、いらっしゃいますか?」

「はい。」

「貴女はフレデリーク嬢の侍女ですの?」

「そうですが………お、お嬢様!」

 侍女の見た主人(フレデリーク)はリコリーに引き摺られスカートは土にまみれ顔は涙でぐしゃぐしゃな状態であった。


「わたしは、フレデリーク様と同じ一年A 組のリコリー・ブランシュ・シュヴァリエ・ド・ベルジュと言う者です。貴女の主人、フレデリーク様にわたしの私物、教科書数点などを破損、若しくは破棄され、物理的精神的に多大な損害を被りました。本来であれば然るべき場所で然るべき処分を公平に裁いて頂くことなのです。しかし、期末試験の近付いている今、流暢に裁きを待つ。などと言う時間がありません。よって、私的に制裁致します。侍女の貴女、怪我などの被害を被りたくなければ、即刻退去をお奨め致します。」


「――-はっはい。」

「では、爆炎!」

―――――ブオオオオオオォォォォシュゴォォォォーーーー!

止ぁ――――めぇ――――てぇぇぇ―――!


 全てが灰に帰す。


「グズッウウゥッ。グズッグズッ。うわああああんうわあんんあんあん!!!」

「後、一冊。買って来なさい。」

「…もう、もう許してよぉもう許してぇぇぇ!お願い!」


「重ねて言います。何故わたしが貴女のような人間の『お願い』を訊かなければならないのでしょうか?さあ、後、一冊です。例えば、貴女の『お下がりの』教科書は要りません。わたしに教科書をお返し下さいませ。」

グズグズ泣きながらフレデリークは焼け焦げた自室を後にするのであった。


「貴女方もフレデリーク様に付いて行きなさい。わたしの教科書を持って来なさい。次は貴女方の私物を焼き払いますわ。」

――――ヒイィィィッ!

 女子寮から教室へと戻ったリコリーは、開口一番ジャクリーン嬢とエレーヌ嬢にそう言ってのけた。

 もう、これ以上ルーセルと机を並べたく無いのだ。


(やり過ぎたかしら?いいえ、妬み、嫉み、恨み。全部全部嫌いですの。わたし何故そのような感情を向けられて要るのかしら?嫌、だわ。もう嫌。)

夕方近くにフレデリーク、ジャクリーン、エレーヌの三令嬢が女子寮に戻って来た。


「教科書、買って参りました………。」

「ご苦労。……では無いですね。遅過ぎです。只今から、ジャクリーン、エレーヌ両名の私物及び教科書類を焼き払います。先ずジャクリーン様のお部屋へ参りましょう。」

「ええっ!何でぇ?ちゃんと買ったじゃない!」

「ハア?わたしは、『昼休み前までに』そう言った記憶がございますの。それともわたしの記憶違い、とでも?」


「いえ、そうでは無く―――。」

「何が違うのです。約束を違えたのです貴女方は……。わたしは約束を守ります。信用、に関わることですから、、、」

 そして、二人の私物及びお部屋の机、ベッド、衣類全てを焼き付くしたリコリーであった。

 本日、眠る場所すら無くなった令嬢三人は、寮を後に王都の自宅である王都本宅(タウンハウス)へ非難した。


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