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第4話 プレミ屋の安楽椅子異世界探偵

「すまない、そのパラドックスと言うのは一体?」


ソフィアが柊の言葉に疑問を投げかける、困惑と解明への期待が含まれた力強い視線が彼を貫く。

それに対し柊さんは言葉を続ける。


「パラドックスと言うのは正しそうに見える前提と、妥当に見える推論から、受け入れがたい結論が得られる事を指す言葉です」

「えっ・・・?」

「簡単な話をしましょう、例えばそこの壁に『貼り紙禁止』と言う貼り紙をするとします。この貼り紙は禁止されている貼り紙なので貼ってはいけないのか?こういった矛盾をパラドックスと言うのです」

「・・・なるほど・・・だがそれがこの剣のエンチャントと一体どういう関係が?」


そう私と同じ疑問を問いかけたソフィアの前に、柊さんはテーブルの上のメモ紙に先程の数字を記載して彼女に見せた。


火 50%

氷 25%

氷 25%

浄  0%


「では問題です。この4つをランダムに選んだ時にそれを選ぶ確率は何%ですか?」

「そ、それは書いてある通り・・・」

「そう、この確率結果を知っているからこそ書かれている数字になるのです。それを知らないと仮定して見て下さい」


思わず私は口元に手をやって驚いた。

そう、こうして記載して見てみれば一目瞭然である。

火が起こる確率は4分の1で25%、だが表記された確率は50%である。

氷が起こる確率は4分の2で50%、浄が起こる確率は同じく4分の1で25%。

これら4つの確率は結果を知るからこそ出ているものなのだ。

そして、全てが違う答えとなっている・・・


「シュレディンガーの猫と言う話があります。箱の中の猫は生きているか死んでいるか箱を開けるまでは分からないという話です」


それは私も聞いた事があった。

つまり柊さんが言いたいのは・・・


「このエンチャントは確率を確定させている全能の存在がパラドックスによって答えを出せなくなっているから実現しないのです」


その言葉にソフィアは目を見開いて唖然としていた。

柊さんは彼女の世界を観測している全能なる存在を証明したと共に、その原因を突き止めたのだ。


「もしも一度でもそちらの世界で発動させる事が可能であれば結果は変わる事でしょう・・・」


イスに深く座り直した柊さんの言葉にソフィアの目から涙が零れた。

彼の言っている事は簡単である、結果を出さなければ成功しないが成功させる為には結果が必要・・・

つまりパラドックスにより不可能なのだと告げているのだ。


「つまり・・・無理って事ですね・・・」

「いえ、こうすればいい!」


そう言って柊さんはソフィアに見えないように剣と先程の短剣を重ねて1枚のティッシュを貫いた!

その瞬間何かが割れるような音が響き紙は燃え上がった!


「な・・・えっ・・・あっ・・・」


ソフィアが口を開けたまま震える・・・

そう、こうすれば私達にとってもそれは分からないのだ。

剣で火が付いたのか、短剣で火が付いたのかが・・・


「どうぞ・・・」


そう言ってソフィアに手渡した剣は先程までと違い輝いて見えた。

それを手に取ったソフィアは満足したように柊さんに頭を下げて何かを呟いた・・・

いや、そう見えたのだろう。

気付いたその時には既に彼女はそこに居なかったのだから・・・












「お疲れ様でした柊さん」

「真由美ちゃん、ありがとう。大分と慣れてきたみたいだね」

「えぇ、今回もお見事でした」


テーブルの上のお茶を片付けながら、いつもの眠そうな顔に戻った柊さんに微笑みかける。

これはギャップ萌えと言うのだろうか、先程のキリっとした顔との差が私の鼓動を高める。


「でも最後のあれ、一体どういうことなのですか?」

「ん?あぁ、あれはね・・・コペンハーゲン解釈って言うやつさ」


そう言って柊さんは饒舌にそれを説明してくれる・・・

半分くらいは良く分からない話だったけど、それは非常に興味深い話だった。


「結果を観測する事で対応する状態に変化するという粒子力学の考え方なんだ」


つまりあの剣はパラドックスによって結果が導き出されない状態だった。

それを火が発生したという結果を発生させ、その世界の住人であるソフィアに観測させたというのである。

観測する前はAと言う結果とBと言う結果が両方発生していた、それを観測する事でAと言う結果しか起こらなくさせたというのは良く分からなかった。

だけど、ソフィアは解決して喜んでいた、それで十分なのだ。


「えぇっ?!」

「っ!?」


突然柊さんが大きな声を上げたので驚く。

何事かとシンクの方へ向かう私が振り返ると・・・


「マジか・・・こっちには魔力が無いからなのか・・・ちくしょう・・・」


あの短剣を握る柊さんがガックリと肩を落として沈んでいた。

おそらく電池の様な力が尽きたから燃えなくなったのだろう。


「はぁ・・・骨董品としての価値あるかなぁ~」


そうションボリしている柊さんに新しいお茶を入れて持っていく・・・


「元気出してください柊さん」

「真由美ちゃん、ありがとう」


そう言って受け取った湯飲みを口元へ持っていく柊さん。

そっと彼の唇が私が唇を付けた所に触れるのを見て嬉しくなってしまう。


「うん、今日も美味しいよ」

「よかったです!」


私の想いに気付いていつか彼の方から・・・





ここは都内の某ビル8階、そこに事務所を構えるプレミ屋。

普段は異世界の不思議な物と共にネットで変わった品々を販売する変わった店。

月に一度だけ安楽椅子探偵として異世界からお客さんが来るお店・・・

異世界で困った方がいらっしゃいましたら是非頼って見て下さい。

きっと店長の柊さんが解決してくれますよ。



最後までお読みいただきありがとうございました。

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