31歳、初恋の人を失った話
初めて投稿します。実際に会った話をもとに執筆。
ただただ気持ちを文字にしたくて、それを誰かに伝えたくてこうなりました。
結構淡々と進んでいきます。
誤字脱字、文章の矛盾などございましたら随時編集していきます。
誹謗中傷等は受け付けません。
なにとぞお手柔らかにお願いします。
31歳と1か月。月日が経つのは早いと年寄り臭いことを時々思いつつ、平凡なOLの私は、日々仕事に打ち込んでいた。
その日もいつも通り朝から出勤で、いそいそと書類の整理を行っていた。
あと5分で定時を迎える頃、電話が鳴る。出ようとしたが時すでに遅く、コールは鳴りやんだ。
18時。定時で上がり会社を出た私は、折り返しの電話をかけた。相手は、親友のあかねだった。
「もしもし? あかねちゃん? 電話出られなくてごめんね、仕事中で」
「ううん、こっちこそごめん、フツーに仕事だよね。あのさ、美緒にどうしても言いたいことがあって……」
「加瀬君が亡くなったって」
ーー31歳、初恋の人を失った話ーー
「……え? は、なに……」
オフィス街を歩きながら電話をしていた。その足が途端に重くなる。
あかねは続けた。
「私もさ、え? って感じなんだけど。信じられなくて。でもほんとみたい。加瀬君死んだんだって」
「うそでしょう? ちょ、えっ、いや、えー、はっ、あはは……」
乾いた笑いが腹の底から溢れてくる。意味がわからなくて、何言っているのか理解できなくて、笑ってしまった。
「武から、聞いたんだけど。訃報の紙あるじゃん? あれ町内で回ってるみたい。ね、私も信じられないよ。びっくりだよね……」
「うん……。え、いや、ごめ、なんていっていいかわかんない」
「うん、だよね。突然ごめんね、とりあえずまた何かわかったら連絡するから」
「わかった、連絡ありがとね」
一旦、そこで電話を切った。
そんなすぐに、思考が追いつかない。頭の中で加瀬のことが、あかねの言葉が、ぐるぐると回る。亡くなった、なんて、どういうこと? あかねは、冗談をいうタイプじゃない。そんな質の悪いことする子じゃないと信じている。じゃあ本当に、加瀬は……。
(わからない。意味がわからないよ)
少し肌寒くなってきたからだろうか、鼻の奥がツンとして、夜風がいつもより身に染みた。
◆
駅に着いた。電車通勤の私は、そのままホームに上がる。
いつもより人が多いな、と思いつつアナウンスを聞けば、電車が遅延しているらしい。なんでまたこんな時に、と思いつつ、少しでも人の少なそうな列へ並び電車を待った。
ずっと、頭の中をぐるぐる回る、あかねの言葉。ふとスマホを見ると、あかねから連絡が入った。
画像が一枚。訃報の紙が写真で送られてきたのだ。
『加瀬貴司 享年31歳 通夜、告別式×月〇日 葬儀・・』
(あぁ、彼は本当に亡くなったのか)
それでもまだ、何が起こっているのかわからなくて、いや、わかろうとしていないのかもしれないが、そのたった一枚の画像だけが、淡々と真実を突き付けてきて、人が多いホームで感情をさらけ出すこともできず、人知れず、私はそこで初めて、1滴だけ涙を流した。
電車の中でも、家に帰っても、その日はずっと加瀬のことばかり考えていた。感情は無に等しかった。
◆
私、美緒と、あかね、加瀬、あかねの友人の武は、小学校、中学校の同級生だった。
加瀬は、私の初恋の人。初めて同じクラスになった小学三年生。整った顔立ちで人気者、運動神経もよくて頭もよい。好きになるのに、時間はかからなかった。
授業中に勉強する横顔をちらっと見たり、教室でも廊下でも、たぶん、ずっと彼の姿を探していた。見つめているだけで幸せだった。目が合って、『なんだよ』っていじわるそうな顔をした後笑うのはずるい。
「あかねちゃんお願い! これ加瀬君に渡して!!」
ラブレターを書いたこともある。渡すのには失敗した。ほかのクラスメイトが加瀬とあかね2人を冷やかしたからだ。(今でもあかねには悪いことをしたと思っている)
そうでなくても、私は気持ちが顔に出やすくて、好きだったことは本人にバレバレだった。
ラブレターを渡そうとした後、彼は私の告白を断ろうとした。それが聞きたくなくて、その日は逃げ回った。吹奏楽部だったから、部室に逃げ込んだりもした。
彼は、”告白を断ろうとすること”を諦めた。そのせいか、その日以降彼から無視されるようになった。目も合わせてくれない。探していた彼の姿は、すっと消え去る。
他人からみれば自業自得なのだろうけれど……悲しくて、毎日毎日泣いた。当時流行った失恋ソングを聞いては泣き、あかねやほかの女の子と仲良くしているのを見て泣き、日記を書いてはまた泣き、しばらく目をはらして学校に通っていた。
高校は別になり、実らなかった初恋も心の中に閉じ込め、進学先の高校で別に好きな人ができのだ。思春期真っ盛り。恋愛脳。これは仕方ないことだ。初恋なんて、10代の頃なんて、きっとそんなものなのだろう。
7年間ずっと、加瀬のことが好きだった。笑って泣いて、たくさんの感情を知ったけれど。
実ることのない初恋など、忘れたいに決まっている。大好きで、大嫌いだったのかもしれない。
◆
訃報は同級生全体に、あっという間に広がったようだ。新聞の訃報欄にも掲載され、私も親に伝えた。
お通夜に行くかどうか、あかねと相談した。私は、悩んでいた。
彼は明るくてクラスの中心人物、頭もよくて運動神経も抜群で、きらきらして、対して私は地味で、よくあるクラスのグループでいうと正反対の位置にいた。だから、お通夜に来るのは彼と同じ目立つグループの子らだろうし、なんで美緒が、と思われたくなかった。もちろん彼の両親とも面識はなかった。
喪服も持っていなかった。近親者で亡くなったのは、小学校の時に、おじいちゃん。大学生の時に、同級生の真理子ちゃん。2人だけだった。
真理子ちゃん。彼女も小中学校の同級生だった。私は大学は県外に進学していて、訃報はまた違う県外へ進学した友人から電話で聞いた。自殺だったそうだ。
それは19歳くらいで、でも長期休みでもなくて、地元に帰ることができず、葬儀に出席することはできなかった。連絡をくれた友人も同様だ。友人と2人して、『信じられないね』と乾いた笑いを零した。真理子ちゃんとは高校進学を機に疎遠になり、近況も何も知らず、それこそ突然の訃報だった。
彼女の葬儀に出席した同級生に聞くと、『成人式前にこんな形で同級生と会いたくなかった』と話に出たようだ。あと少しで、私たちは成人式を迎える時だった。『どうして相談してくれなかった』『自分は彼女の力になれなかった』と泣き崩れた同級生もいたという。
私は、葬儀から随分日が経ってから、友人とお線香だけでも、と上げに行った。そこには彼女の母親がいて、心労からか、仏壇の前で布団を広げ横になっていた。
そこで、写真を目にした。遺影だ。化粧をして、着物を着ていた。
彼女は頭がよくて、美人で、背も高く、明るい子だった。写真の中の彼女は、私が知っているころより、さらにきれいになっていた。
悲しいはずなのに、涙の一滴も出なかった。自分で不思議だった。
ただ、フワフワと浮いていた。彼女はいないんだと、ただそれだけ、それだけが宙に浮いていて、心の中にぽっかりと空いた穴は、塞がることなく今も存在し続ける。それだけ、『死』を実感できず今でも受け入れいれられていないのかもしれない。
◆
お通夜の前日は、超大型の台風が上陸する可能性があると、天気予報で言っていた。また、なぜこんなときに、と思いつつ、停電でもしてくれれば、行かない言い訳になるのに、なんて思った。
明るいグループとか、ご両親と面識がないとか、台風も、半分は言い訳だ。本当は、心のどこかで、行きたくないと思っていた。人が亡くなったことを、実感するのが怖かったのかもしれない。なんで行きたくなかったのか、自分ですらわからなかった。
しかし、みんなが背中を押してくれた。あかねちゃんも一緒に行こうとずっと言ってくれた。親に相談もした。母は、『最後だから、行って来たらどう?』父も、『行ったほうが良い。後から後悔するより余程いいだろう』と。
(加瀬君と会えるのは、最後なんだ。あの時行けばよかったって思いたくない)
そうして、私は喪服や香典などを用意し始めた。訃報を聞いたのが金曜日。お通夜は日曜日。
しっかりと他人の葬儀に出席するのは初めてだったから、こんなにもいろいろ準備したり心構えが必要なのかと慌ただしく時間は過ぎ、お通夜の日がやってきた。
◆
お通夜当日。前夜、大型の台風はあっという間に過ぎた。地元では、大きな被害は報告されなかった。
喪服を購入する時間がなかったから、上はリクルートスーツ、下は黒のロングスカート、黒のストッキングやバッグ、数珠、ふくさなどは母親から借りた。化粧はよくないと聞いたので眉毛を整え長い髪を降ろして行ったが、同級生たちはほとんどが濃いめのメイクをしていて驚いたのはまた別の話だが。
あかねちゃんと、親交のあったあかねちゃんの母親、同じ同級生のるみちゃんと、あかねちゃんの夫が運転する車で、4人で向かった。
いざ葬儀場へ向かうとなると、緊張してしまう。初めて行く場所だから。
「服装大丈夫ですか? 髪結んだほうがいいですか?」
なんてあかねちゃんの母親に聞いた。大丈夫、大丈夫。と笑われてしまったが。
会場は、多くの人で溢れかえっていた。中には杖を突いたお年寄りがいたり、すでに泣いている人もいた。
香典を預け、親族以外の席へ座る。そこには何人かの同級生たちがいて、懐かしかった。
座る前に親御さんとお兄さんに挨拶をした。小中学校の同級生でした、と。『驚かせてごめんなさいね』と涙ながらに母親は告げた。
席が足りなくなって、椅子を追加するほどに人は集まった。60人、それ以上いたかもしれない。花も多く飾られ、見知った名前が書いてある。仕事や結婚で遠方にいる、来られない人からの花だった。
突然だが私の視力は0.1だ。しかも裸眼で生活している。(車の運転時以外)
大きな大きな、遺影が飾られていた。加瀬の、幼少期からのフォトムービーも流れていた。目が悪いせいでほとんど見えなくても、懐かしい顔ぶれやシルエットでわかる彼の笑顔に、少しずつ、少しずつ……涙が溢れた。花柄のハンカチを、そっと握りしめた。
お坊さんが入ってきて、挨拶も終わり、お焼香に入る。多くの人がいるから、7個もお焼香の場所が用意され、スムーズに進んでいった。
ようやく遺影がハッキリ見えた。お焼香するため少しだけしか見られなかったが、涙が溢れた。
それから何かぐっと心にくるものがあって、徐々にハンカチは濡れていった。
加瀬のお父さんは、とても賢そうで、実際家族揃ってエリートのようで、最後の挨拶もとてもしっかりしていた。
お通夜はあっという間に終わった。そのあと、顔を見たい人は並んでください、とアナウンス。
おそらく、会場にいたほぼ全員が、並んだ。
それぞれ彼の亡くなった姿を見ては、涙を流したり、手を合わせたり、懐かしそうにほほ笑む人もいた。だから、中々順番が回ってこず、とても時間がかかったのだ。
ようやく順番が回ってきて。手を合わせ、彼の顔を見た。
生気がないのだ。真っ白だ。温かみも何も、そこにはなかった。
生きてない。
生きていないんだ。
老けたなぁ。昔はもうちょっとかっこよかったのにな……
その後ご両親、お兄さんにお辞儀をして、会場を去った。
ロビーには、たくさんの人がまだ残っていた。思い出のアルバム、色紙や、いろんな写真がそこには所狭しと並べられていた。
同級生の姿もあったが、見知らぬ顔のほうが多かった。彼の大学の同級生だろうか。懐かしい、と写真に指をさしほほ笑んでいた。嘆くおばあさんもいた。
混雑していて、中々見られないでいると、あかねちゃんの母親がそばにいた。
「美緒ちゃんも悲しいでしょう。つらいね。好きだったでしょう」
何かが、ぐさっと心に突き刺さったようだ。
「なんっで、そんな……こと……おばさんだって……」
言葉が詰まった。おばさんだってつらいよね。会場にいる人、みんな悲しいよね。でもそれも言えなかった。
あかねちゃんたちとは、他愛もない話をしながら帰路についた。
「ちゃんと塩まいとくのよ!」とあかねちゃんの母親になぜか念を押された。
そういえば、そんなことするんだったっけ。家に帰ったらお母さんに頼もう。
ちょうど家にいたらしい父親に、玄関の前で塩を体にまいてもらった。
「ただいま」
「おかえり」
父は何も言わなかった。そのまま私は、仏壇へ向かう。
◆
香典返しを置き、仏壇で手を合わせる。
「おじいちゃん。行ってきました」
母方の祖父は小学生の時に亡くしたが、父方の祖父は私が生まれる前に亡くなっていた。
手を合わせたまま目を閉じて、私はいろんなことを思う。
徐々に涙が溢れて、止まらなくなってしまった。あぁどうしよう、苦しい。そんな中、お返しの中に紙があることを思い出した。それはご両親からみんなへ向けて書いた挨拶だった。読むなら今。目一杯涙が溢れている今、読もう。
”バスケが好きで朝早くから練習をし、運動も勉強もとても頑張る子でした。さよならは言いません。私たちの、皆さんの心に、彼の笑った顔がいつまでもありますように”
そうしてーー
おじいちゃんに語りかけるように。でもきっと、私自身に話しかけるように、心の中で思う。
加瀬君とね、さよならしてきたよ。
好きだったんだぁ。バスケ部でさぁ、シュートするときのフォームとか超かっこいいの。
最後に会ったのは成人式だったな。あかねちゃんの粋な計らいでね、みんなで一緒に写真撮れたよ。
彼を恨んだこともあった。だって告白失敗して、私が悪いけど無視してたじゃない。
なのにこんな時に浮かぶのは楽しかった思い出ばかりで。
修学旅行でめちゃくちゃ笑って話したなって。その笑顔がすっごく好きだ。
あかねちゃんと一緒に、加瀬君のこと話しては笑って泣いて、あの頃、加瀬君のことで毎日頭いっぱいだったんだよ。
どうして亡くなってしまったの。結婚してなかったし、奥さんや子供を残して逝ってしまったわけじゃないね、ってみんなと話したけど、私は正直結婚してなくてよかったって思ってしまったよ。
加瀬君の奥さんとか見たくないもん。
もしかしたら、限りなくあり得ないことだけどさ、私、加瀬君と結婚する未来だってあったかもしれないじゃない。
可能性はゼロじゃないでしょう。なのに、ゼロになっちゃったよ。
だってもう永遠に、加瀬君と会うことはないんだから。
生きていたらなんだってできたのにね。もう何にもできないね。
悲しい。苦しい。いかないで。いかないでほしかったよ。
まだ早いよ。お父さんもお母さんもまだ生きててほしかったはずだよ。先に息子が逝くなんて。
みんなだってそう思うよ。まだ30歳だよ。私のおばあちゃんはもう94歳だよ。たった三分の一しか生きてないじゃない。
人生これからじゃないの。いいよ、ほかの人と結婚したって。しなくたって。
生きててくれればそれでよかった。結婚してしまったら寂しいけれど、同じ世界にいないなんて、気持のやり場がない。こんなのおかしいよ。
ねぇ。まだこれから……、生きていてくれたらそれだけでいいのに……、
もういないなんて。もう一生会うことができないなんて。
好きだよ。好きだったよ。好きよ。
大好きで、大嫌いで、それでもやっぱり大好きな人。
私は嗚咽を漏らしわんわん泣いた。
ようやく泣けた。ようやく、彼の死を実感し、胸に受け止めることができたのだ。
私はこのときはじめて、『人の死』を悲しむことができたのかもしれない。
◆
彼の死からはや2か月。私は相変わらず仕事に追われる日々を送っている。あかねちゃんとも時折連絡を取る。
加瀬は、しょっちゅう人の夢に出てくる。三日三晩続けて出てきた時もあった。
いつも私の目は加瀬を追い続けている。ずっと、探している。夢の中の彼は、無視することなくこっちを見て、私と目を合わせて、キラキラしたまるで太陽のように、いつまでも笑っているのだ。
END
読み返しても文章下手くそだなぁ。
これからもいろいろな小説が投稿できるようがんばりますので応援よろしくお願いします!
何度も言いますが誹謗中傷辛口コメントも受け付けておりません。
彼の死から2か月は本当の話です。9割実話。
この話をかけてよかったです。覚えておきたかったから。訃報を聞いてから葬儀に出て大泣きするまでの話を。
どうか天国で安らかに……、ご冥福をお祈りいたします。