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第21話 褒めるぞ、デレた王女のお姉さん


 半身を引き、オリビアさんを部屋のなかへ招く。

 僕としては『立ち話では申し訳ない』という自然な気持ちだった。

 けれど、なぜかオリビさんアの表情に軽い動揺が浮かんだ。


「あ……うん、そうだね。じゃあ、ちょっとだけ……お邪魔しようかな。ちょっとだけ」

「はい、どうぞ」

「ルカ君は……その、緊張しないの? 女の人を自分の部屋に入れたりして」

「? とくにはしませんけど……昨夜、セシルさんもこの部屋にいましたし、ネオンさんもたまに押しかけてくるので」


 途端、なぜかオリビアさんがジト目になった。


「…………ふーん、そっか。私は初めてなのに、ネオンやセシルはルカ君の部屋にきたことあるんだ、ふーん」

「オ、オリビアさん? 何か……怒ってます?」

「……や、ごめん。違うの。私、ちょっと今日変かも。ごめんね?」


 オリビアさんはぺちっと自分の頬を叩く。反省、というように。

 よく分からないけど、どうやら怒っていたわけではないらしい。


 言われてみると、今日のオリビアさんは確かにいつもと少し違っていた気がする。

 からかわれはしたけど、いつものように抱き締められたりとかはなく、体の接触がぜんぜんなかった。

 あと何回も目が合った。家事をしている時とか食事の時とか、まるでこちらをちょこちょこ見ているかのようだった。


 逆にそんなオリビアさんを見て、ネオンさんが『ほほーん? 王女様のあの様子、これはもしかのもしかして?』とニヤッとしたので、僕はその瞬間に考えるのをやめた。

 ネオンさんが楽しげな顔をしていたら関わらない、というのが最近の僕の処世術なのだ。


「ちょっと待ってて下さいね。僕、お茶を淹れてきます」

「あ、ううん。大丈夫。すぐに済むから」

「でも……」

「本当にいいの。今日はただ……助けてもらったお礼をまだちゃんと言ってなかったな、と思って。それできただけなんだ」

「お礼、ですか? そんなのいいのに」

「言わせて。大切なことだもの」


 オリビアさんはしゃがみ込み、僕と視線を合わせた。

 そして小さく、けれど丁寧に頭を下げる。


「危ないところを助けてくれてありがとう」

 ブロンドの髪をさらりと揺らして顔を上げると、オリビアさんは優しく微笑む。



「あの時のルカ君、とっても格好良かったよ」



「……っ」

 一瞬、鳥に変化したわけでもないのに舞い上がってしまいそうになった。

 鼓動が速くなり、足元がふわふわする。

 なぜかびっくりするくらい嬉しかった。大神官のおじいちゃんや他の神官のみんなに褒められた時でも、こんなに胸が高鳴ったことはない。


 あっ、でも……。


 高揚感から一転、僕は恥じ入るように目を伏せた。


「……オリビアさん、ごめんなさい」

「? どうして謝るの?」

「僕、本当はその……」


 俯き、ローブを掴んでぎゅっと握る。

 どう言えばいいだろう。いや、言ってしまっていいのだろうか。オリビアさんは昨夜、傲慢の悪魔に遭遇したばかりだ。不安にさせたくはない。


「んー……」

 僕が口を開けずにいると、オリビアさんは少し考える素振りをした。

「とりあえず、ちょっと座ろっか」


 促されたけど、この部屋には最低限の家具しかない。

 ソファーでもあればよかったけど、当然置いてないので、結局、ベッドに並んで座ることになった。

 これ以上、オリビアさんに気を遣わせるのも違う。そう思って、僕は意を決して口を開く。


「僕、本当は昨夜……」

「うん、昨夜?」

「ルキフェルをわざと逃がしたんです。あの場で祓うことは出来ないって気づいたから」

「そうなの?」

「はい。黙っていてすみません」

「そんなの全然いいよ。私はルカ君を信じてるもの。キミが逃がした方がいいって思ったのならそれが最善だったんでしょ?」

「……ありがとうございます」


 軽やかな笑顔をもらい、思わずほっとした。


「でも祓うことが出来ないっていうのは何か理由があるの? ……あ、そういえばあの悪魔、妙なこと言ってたね。ルカ君に欠点があるだとか」

「ええ、目ざとい奴です。あれだけ追い込まれておきながらそんなところに気づくんだから。ほんと悪魔って残飯に群がるハエみたいな存在ですよね。気持ち悪い」

「あ、やっぱり悪魔には毒舌なんだ……」

「ハエに悪いことを言っちゃいました。反省します」

「うん、ちゃんと反省できて偉いね。じゃ、話を続けよっか」


 なぜか微妙にスルーする感じのオリビアさんだった。

 一方、僕は視線を向ける。宝石のような美しい石の嵌め込まれた、一本の杖へ。


「実は……僕、まだ聖杖を使いこなせていないんです」

「でも昨夜は悪魔を圧倒してたよね? あの杖で」

「本来の聖杖の力はあんなものではないんです。伝承によれば、聖杖の光は大陸中を包み込むほどのはずだから」

「た、大陸中を?」

「でも僕はその力を引き出せてない。聖杖はすでに僕を選んでくれていて、本当ならいくらでも力を貸してくれるはずなのに……」


 だから、と言葉を続けた。

 

「……問題は僕の方にあるんです」


 そして僕は語る。

 聖杖フォーガリア。善神から授けられた、聖なる神器(レイアーク)のことを。


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