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第九話 食物連鎖

「あぁ……ははは。わかりました行ってきます」


 面倒ごとは新人の仕事──。ポンコツと罵られ、様々なパーティーを転転てんてんとしたナルセは、この手の『可愛がり』には慣れていた。

 苦笑いで場を取り繕う。


「で、モミタさんの部屋てのは?」


「204号室だ。二階の奥の角部屋になる。待合室ここを出て、ロビーの階段から行くと良い」



 † † †


 コンコン。

 204号室──。ユェンユェンに言われた通りにやって来た。その扉は、行きすがら目に入った部屋の扉となんら変わりが無い。竜刻館には変わり者が住む割に、作りは平凡な洋館である。ナルセは扉の前に立ち、ノックの後に呼びかけた。


「すいませーん? いらっしゃいますか?」


 すると……


「うーん。我が眠りを妨げるのは……モゴモゴ……誰……だ」


 扉の向こうからこもった声がする。寝起きの台詞にしては声量は大きく、内容もハッキリと聴き取れる。それに猛者もさの様な喋り方だが声色は若い女性の声だ。


「? 中にいらっしゃいますよね? 起きてくださーい」


「我の逆鱗げきりんに触れぬ内にねぃ……むにゃむにゃ……」


「……それもう、完全に起きてませんか?」


「むにゃむにゃ……邪魔をするな」


「モミタさーん?」


 と言った途端!

 バタバタ、ガン! 「っつぅ!」ドタタタタ。

 賑やかな騒音が部屋に響いたと思うや、扉が開く。

 ガチャリ。


「うう……その名前で呼ぶなぁ!」


 血相を変えて出て来たのは、やや幼顔の女性だった。年齢にして十六歳程度だろうか。肩までかかる赤髪一律長(ワンレン)ミドルヘア、前髪が顔に掛かる。ナルセが着るビキニアーマーに負けず劣らず、露出度の高いボンテージと、それに似合う褐色肌の胸は、美しく形が整った美乳タイプ。ユェンユェンよりも、やや小振りだが、一般的なサイズからすると大きい方だろう。

  

 モミタはナルセの手を取り強引に部屋に引き込んだ。すぐさま扉を閉め、壁ドン宜しくナルセを囲い込む。そしてズイっと顔を寄せた。

 ──ち、近い!


うぬの名を申せ」


「あ〜、はじめまして……ナルセと言います。今日から竜刻館ここに入居します。ヨロシク……です。あハハハ……」


「そうか」


 するとモミタはきびすを返し、それ以上喋ることなく部屋の奥へ進んで行った。


 ──暗い。

 締め切られたカーテンの間から漏れる日差しが唯一の光源だった。そこから見えるのは、栓の空いた瓶や食べ終わった食器。脱ぎっぱなしの服や下着が散乱する部屋。足にかかる洗濯物を引きずりながら、それでも気にせずモミタは奥へと進む。

 部屋の間取りはワンルーム。入り口のすぐ脇にキッチンがあって、奥にベッドが大きく場所を取る。その先にはクローゼット。彼女はその横にある机に向い、机上の文房具やメイク道具をぐいっと退けて小さくスペースを作った。


 カリカリ……

 ノートへ筆を走らせる。何を書いたのだろうか。


「来い」


 ナルセを呼んだ。


「あ、はい。お邪魔します」


 散乱する物を踏まないように部屋の奥に入る。実はナルセはこの時初めて女性の部屋と言うものに入った。彼は女の子の部屋に『秘密の花園』の様な淡い理想を抱いていた。しかし散らかり放題のモミタの部屋はナルセの描く『秘密の花園』を、いともあっさりと砕いた。



「見よ」


 モミタはノートを見せつける。


は呪いのノート。此れにうぬの名を記した。罪名は『我の眠りを妨げた罪』『我をモミタと呼んだ罪』だ。ヌハハハ」


「ちょ、ちょっと! 何ですかそれ! だってユェンユェンさんが『モミタ』って呼んでましたよ?」


 ガタン! モミタは突如椅子から立ち上がる。


「は? なななな何だと、あのヤロー! くぅー!」


 下唇を噛みながら悔しそうな顔をする。が、すぐに崩れた顔を取り繕う。


「ふ……ふん。我が名はマチ(・・)ファルド・モミタ・ルダ(・・)ツァルア。『†魔血流堕マチルダ†』と呼ぶが良い。モミタはミドルネーム。此の名はダセーから使うで無い」



 ぐーきゅるるる。

 モミタの腹が鳴る音。



「ユェンユェンの話をしていたら、腹が減って来たぞ……」


「あー、待合室ラウンジにお菓子が有りましたよ。持って来ましょうか? ──って、聞いてないじゃ無いですか!」


 モミタはナルセを無視して目をつむり、鼻をヒクヒクと動かす。


「くんくん……」


「? どうしたんですか?」


うぬから人間の匂いがするぞ。俗世にまみれるけがれた匂いだ」


「あ、はい。僕は人間ですが何か」


「いただきまーす!」


 がぶり。


「ひ、ひぃ! ちょっ、モミタさん⁉︎」


 猛者もさ風の台詞をは何処へやら。

 ニコニコ顔でナルセの首筋にかぶり付く。そして血をグングンと吸出だした。


「あ……あ〜力が」


 ちゅうちゅうちゅう


「うんま────────! く〜〜! やっぱり血は人間に限るナァ〜!」


 さらにガブ!

 するとバタンと扉が開き、部屋の入り口から威勢の良い声が掛かる。


「ハッハッハ。良かったぜ。私の代わりができてな」


 そう言うと躊躇ちゅうちょなく部屋に入ってくる影。


「ユェンユェンさん……助けて」


 ナルセの意識が飛びそうになったその時。


「ぷっは────久しぶりの人間の血だったぜ。満足満足!」


 片腕で口元を拭いながら、モミタはかなり満足気だ。対してナルセはげっそりと青ざめる。


「ぬははは。ちょっと吸いすぎかナァ、悪い悪い。竜刻館ここにはロボ・龍人・ハーフエルフ……と、ろくな血が無かったからな。やっぱり血は純度100%人間の血に限りる!」


「なー⁉︎ お前。誰が今まで毎日、血を分けてやったと思ってるんだ! その言い方は無いだろモミタ! なぁ、聞いたよなナルセ! コイツ、ハーフエルフは半分人間の血が入っているからって毎日私の血を吸ってたんだぞ! それをろくな血じゃ無いって!」


「は……はぁ」


 意識が飛びそうだったナルセはそう応えるので精一杯だ。


「ま。その役目も昨日までの話だ」


 ユェンユェンはくるりとモミタを見る。


「モミタ喜べ、今日からナルセがお前の餌だ」


「は……ハアァ──⁉︎」


 ナルセは飛び上がって驚く。


「なんで? どうしてそうなるんですか!」


 ニヤつきながら腕を組み、ユェンユェンはナルセの疑問に答える。


「すまんな、ナルセ。モミタは吸血鬼ヴァンパイアなんだ。だから……なんつーかコレは自然の摂理ってやつ?」


「ちょ、理不尽!」


「ぬははは、ナルセ。うぬの血の味、気に入った。喜べ、うぬを我専用のにえとする!」


 猛者風の言い回しを思い出すモミタ。



「ぬぉい! なんじゃお前ら、いつまで其処そこ駄弁だべっておるんじゃ! さっさとクエストに向かわんか!」


「「「ザイン!」」」「……さん」

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