第四話 皆が僕をポンコツと
「えー⁉︎ 女性専用装備じゃないと力を引き出せない⁉︎ ……じゃなくて! こんな狭い所で短剣振り回したら危ないでしょう!」
ナルセは奇行とも思えるアケミの行動をツッコんだ。
「先程の魔法無効化に続いて私の不意打ちも完全に防いだ。これは君が装備しているヒーターシールド『女帝の聖域』のアイテムスキルだ。物理攻撃に特効があり、どんな攻撃も防いでくれる。まるで何人も踏み入れることができない聖域に守られているようにね」
アケミはナルセのツッコミに構わずアイテムとスキルの解説を続ける。
「いや僕の話、聞いてないし!」
「がははは、そう騒ぐなよ。武具ってのは性別以外にも、戦職、階級、適正、全てが合致していないと装備できないんだ。なのに『女専用』ってだけで、勇者の武具を装備できるんだから、お前は凄いスキルの持ち主なんだぜ?」
「オヤジさん……。うーん、そうかも知れませんが……」
頭では判っていたようだが、ナルセはまだ釈然としないでいた。
「さて。ナルセ君が活躍できないポンコツの理由が、『ギルド支給の武具のせい』と判ったところで、今度こそ私は地球に帰るとするよ」
「ポ、ポンコツって……、今、勇者さまサラっと酷いこと言いましたよね。だから教えたくなかったんですよ」
「おいおい。それを解決するために勇者装備一式を譲ったんじゃないか。君のその特殊能力があれば、最早ポンコツどころか勇者だよ?」
肩を竦めながらナルセを諭す。
そして何か思いついたようにポンッと手を打った。
「そーだ、オヤジ。私が元の世界に帰った後、ナルセ君をザインに紹介してやってくれないか?」
「ザインに? まあ、そりゃ構わんが……、何でまた?」
するとアケミは店主に耳打ちをする。
「こう見えてこの青年、冒険者ギルドから免許を剥奪されててね……」
「うっそ! こいつ剥奪者かよ!」
店主は驚いてナルセを見る。
「あーそうか! だから冒険者ガイド持ってなかったんだな。冒険者は常に携行を義務付けられているのに……。お前、何やらかしたんだ? 殺しか? 裏切りか?」
「なんもやってないですよ! なんでそうなるんですか!」
「そりゃオメー。免許の剥奪って言や、極悪人しか居ないだろうが」
「え? そうなんですか?」
「知らねえのかよ」
ここでパンパンと、アケミが手を叩いて話を遮る。
「あーはいはい、話はそこまでだよ。ナルセ君が無知なのは置いといて。私は帰るからね。じゃあオヤジ、後は頼んだよ?」
そう言うと、アケミはナルセが居る更衣室から、店の入り口まで移動した。今度はビキニアーマーのアイテムスキル魔法無効化の効力が及ばない様に、ナルセと距離を取ったのだ。
「じゃあ、今度こそ! バイバイ。ナルセ君、オヤジ!
空間を歪め、時をも超越せよ。光よりも早く、我思う果てへ。上位転移魔法」
ズウォン!
詠唱とともに現れた魔法陣に乗って、アケミは眩い光となり消えた。
「……行っちまったなあ」
二人はさっきまで女勇者が居た場所を呆然と見つめる。
「最後に乳でも揉ませてくれれば良かったのに」
「ちょっと! 何言ってるんですか! ……でも勇者が居なくなった。多分これは世界的大事件なんですよね」
「そうだよ……な」
すると店主は冒険者ガイドをめくり読み上げた。
「えーと。
第一条 一項 冒険者ギルド概要
冒険者ギルドは勇者が魔王を討伐するために、作られた助援機関である」
「それ……、勇者が居なくなっちゃったから、ギルドの存在意義が無くなっちゃいましたね」
呟くナルセの言葉を聞いて、店主は、うーん。と一度考えた。しかし考えるのが面倒臭くなったのか、冒険者ガイドをポケットにしまった。
「んまぁ……。とりあえずザインに会わせてやるよ。他ならないアケミちゃんの言付けだ。着いて来な」
本日閉店。
「これで良しと」
まだ昼下がりだと言うのに、店主は閉店の看板を掲げる。
「今日はもう閉店にするんですか?」
「そうだな。留守の間、店番する代わりの人間も居ないし。今日は仕事する気も失せたぜ」
二人がそう話す所へ声が掛かる。
「おやぁ? そこに居るのは剥奪者のナルセじゃないか」
ナルセは声を聞いて、眉をひそめた。
──その声は。
「……シュン!」
シュンと呼ばれたその男は、ナルセと同じ年齢であろう青年だった。
「オイオイ。お前、なんて格好してるんだ? いくらポンコツだからってな、勇者さまみたいな格好しても、強くは成れねえんだよ!」
言われてナルセは、そそくさとマントで体を隠す。
無礼な態度で接してくるシュンを、不快そうに見ながら店主はナルセに問う。
「なんだ? ナルセ。このウゼぇやつは?」
「いいんですよ。こんなヤツ。さあ行きましょう」
突き放すように答えるナルセ。もうこれ以上、関わりたくない様なそんなそぶり見せた。
「おいナルセ。そのオヤジがお前の新しい仲間か? だったら教えておいた方がいいんじゃないか? 『僕はポンコツで冒険者免許を剥奪されました』ってな」
「ねえ。さっきから誰に話しかけてんの? シュン」
挑発するシュンの傍から、女が姿を見せる。
「って、え? ひょっとして、ナルセ⁉︎」
ナルセを見るなり女は声を上げた。そしてマントから溢れ見えるビキニアーマーに目線が下がる。
「あんた……、なんでビキニアーマーなんか着てんのよ? あ〜さては、冒険者免許を剥奪されて頭イカレちゃったのね」
「ハハハ。おいおい、そりゃー困ったな」
シュンは、乾いた笑いと同時にナルセを睨む。
「いくら頭がイカレたとは言え、忘れることは許されねぇぞ? 明日の決闘をよぉ!」
ナルセは目をシュンから反らした。