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第ニ話 狭い更衣室に男女二人

「え?」


「いや、『え?』じゃないよ。私の装備一式を譲ると言ったんだ」


 ナルセは改めてアケミの女勇者装備一式を、靴の先から頭のてっぺんまで、まじまじと見直した。


「装備一式って……勇者さまの、それを?」


 ナルセはアケミを指差して、空中でグルグルと彼女を囲む。


「ああ、もちろん。今私が着てる装備全部だ。当然君が着るんだよ?」


 するとナルセは首をブンブンと横に振る。


「いや、要らないですよ。そんな高貴なもの! それに僕、男だし装備できないですよ」


「良いから良いから!」


 アケミはナルセの腕をグイと掴み、そのまま武具屋に連れて行った。武具屋は武器と防具を扱う店だが、アケミの狙いは更衣室だった。


 バタン!

 不躾に武具屋の扉を開けるアケミ。


「オヤジ! 邪魔するぞ!」


「おお! いらっしゃいアケミちゃん。戻ってたのかい。ん〜、いつ見ても良いおっぱいしてんなぁ」


「うっせーよ」


 此処、商業都市アネモスには大規模冒険者ギルドがあることから、武器と防具の需要が高い。故に、広い売り場面積を持ち、品揃えが豊富で、沢山の客が捌ける大規模武具量販店が人気だ。

 しかしアケミが入った武具屋はそれとは真逆の小さな武具屋。

 店内は古臭く、所謂いわゆる今風いまふうの作りでは無いが、清潔感があり整理整頓が行き届いていた。何気無く置いてある短剣一振りを見てみても、店主にしてみれば意味のある配置なのだ。品揃えは決して多くはないが、代わりに手に入れ難いレアな武具を取り扱う。アケミはこだわりの武具を薦めてくれるオヤジが好きだった。──エロい性格なのは除いてだが。



「オヤジ! 更衣室借りるぞぉ!」


「お? おう」


「ちょっ! 勇者さま⁉︎」


 驚くナルセの言葉を置いて、アケミは店の奥に有る更衣室にナルセを連れ込み、シャーっとカーテンを閉めた。程なくシュルシュルと布が擦れる音が聴こえてくる。店主は興味有り気に聞き耳を立てた。


「ほら……いいから脱げよ!」


「ああ、勇者さま。そこは! あ!」


 アケミはナルセの服をひっぺがす。

 狭い更衣室に男女が二人。

 怪しくもぞもぞしていると、堪らず店主が声を掛ける。


「おいおい。何か楽しそうなことやてんな? 俺も仲間に入れとくれよ!」


 するとシャーッとカーテンが開いて、アケミが顔だけをひょこっとだした。


「なーに考えてんだよ。エロオヤジ!」


 そう言い捨てて、再びシャッっとカーテンが閉まる。

 ──勇者の考えることはよくわからん。

 店主は肩をすくめて一呼吸。成り行きを見守ることにした。


 女勇者のリードする声と、それに従う青年の声のやりとりが何度かあって、カーテンが再びシャーっと開きアケミが姿を現した。


「ふー。この更衣室狭いな〜」


 ──そ、そりゃそうだろう。

 アケミが言い放った言葉にズッコケながら、しかし店主は女勇者の姿を見て目を細めた。先程一緒に更衣室へ入った青年の服を着ていたからだ。


「おや、珍しいな。アケミちゃんがビキニアーマーを脱ぐなんて」


「ん? そう言えばそうだな。ああ見えてビキニアーマーは伝説の鎧。凄まじい法力で体を守ってくれる。軽くて防御力も高く、慣れれば快適なんだけど」


 男性にしては体格が少し華奢きゃしゃなナルセ。そのため彼が着ていた服は、筋肉質のアケミにとって丁度良いサイズの服だった。いや、アケミのバストサイズは最胸さいきょうサイズ。青年の服だと胸部がキツく、へそが見えてしまうことだけは丁度良いサイズとは言えないか──。だがビキニアーマーを着慣れたアケミにとって、ヘソ出しの服など気にもならないことだった。


「おーい、ナルセ君。そろそろ着替え終わったかな?」


「いや、ちょっとこれ。収まりが……」


 ナルセは着慣れぬビキニアーマーに時間がかかっているようだった。


「ええい! さっさとしなさい!」


「うわあぁぁ!」


 アケミは辛抱堪らず、カーテンをジャッと開けてナルセを引っ張り出した。


「ほ〜っ。イケルじゃん青年よ」


「お⁉︎ オヤジもそう思うか? 意外と似合うもんだよな」


 恥ずかしさからか前屈みにいろんな部位を隠す青年は、女勇者の装備を見事に着こなしていた。もちろんビキニアーマーも着てはいたが、それを好んで着た訳ではない。ビキニアーマー以外の服はアケミに奪われてしまっていて、実質着るものはそれしか無かったからだ。何も着ないよりはマシだという判断だ。

 それよりも、青年の華奢な体はビキニアーマーを違和感なく着こなした。童顔の顔と相まって、女装した青年というよりも、『ボーイッシュな女の子』という印象を二人に抱かせた。


「アケミちゃん。以外と……こりゃこの青年、イケルかも知れねえぞ。惜しむらくは男であるが故に、胸が全然ないことだろうか。いやそれでも物好きは沢山居るからな、立派にやっていけるだろう」


「まったく、このオヤジは……一体ナルセを使って何を妄想してるんだか」


 そう言いながらも、アケミはここまで着こなすナルセに内心驚いていた。衣服として着ることは想定していたが、これは最早装備(、、)のレベルで着こなしているのではないかと。

 ──ひょっとすると……。


「ほら、勇者さま。もう満足されたでしょ? 早く僕の服返してくださいよお」


 半べそを書きながら、ナルセは訴えるもアケミはかたくなに聞き入れない。


「いいや、その装備は今日から君の物だ。言っただろ? 装備一式を譲るって」


 初めてその言葉を聞く店主が横から割り込む。


「お、おい。アケミちゃん何言ってるんだ。伝説の装備一式が無きゃ、一体どうやって魔王を倒す……」


 アケミは手のひらを店主に見せて、話を遮り本題を切り出した。


「ただ今をって、私は勇者を引退する。元の世界に帰るんだ」


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