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第一話 女勇者はビキニアーマーを青年に譲る

平行してもう1作書くことに。できれば週一話以上のペースで投稿し続けたい。

 ボスン。

 青年は何かにぶつかった。そして視界が奪われた。

 暗闇に不安がぎる、なのに柔らかくて落ち着く……。

 息苦しいのに、良い匂い……。


「うぷぷぷぷ……。ブハッ」


 息ができなくて、堪らず上体を反らし空を仰ぐ。


「おお⁉︎ 随分と堂々私の胸に突っ込んできたねぇ君は。……っと、どうしたんだい? この世の終わりのような顔しちゃってさ。なんかあったの?」


 聴こえて来たのは、大人の女性の声。


「すすす、すいません! 考え事しててぶつかってしまいました」


 慌てて反射的に謝るも、そうなったのには理由があった。

 青年は、余りの絶望に肩をがっくりと落とし、顔を伏せ、とぼとぼと街を歩いていたからだ。そこに丁度、たわわな胸がやって来たという訳だ。


「私の胸に顔をうずめるなんて、中々できないことだよ? だからさ、ちょっとは元気だしなって」


 励ましてくれるその声に、青年は一旦冷静になって状況を見直すことにした。

 目の前には二十代前半だろう女性が一人。

 長く伸びた髪は美しい亜麻色あまいろ。およそ名のある戦士でなければ装備できないであろう、気品ある重装備で手足は包まれていた。立派な装飾が施された盾と、斬る以外にも効果がありそうな剣を携えて、真紅のマントが風になびく。だが重厚に守られた四肢とは裏腹に、最も守らなければならないであろう、胸と腹は肌をさらしてガラ空きで。ツンと上向いた豊満な胸を、辛うじて隠すだけの小さな面積の甲冑は、否が応にも青年の目を惹いた。──いや、目を惹いたのはもう一度、(うず)めたくなる谷間の方か。



「……っていうか、あなたは!」


 ちぐはぐに見える眼前の装備に、青年は心当たりがあった。

 聖なる装備を身にまとい、女性にも関わらず果敢にも魔王に立ち向かう勇者が居ると。聖なる装備一式の、中でも特徴的なのは甲冑で、正中線を守る気がなく、胸と下腹部を隠すだけのまるで下着の様なビキニアーマー。颯爽と活躍するその姿は、可憐かれんに舞う真紅のマントと相俟あいまって、戦場を共にした冒険者の、専ら自慢話の種だった。他人の自慢話だけは数多く聞かされて来た青年だったが、実際に見るのは初めてだった。

 なるほど冒険者のゴロツキどもが『如何いかに勇者のバストに魅了されず、鼓舞されるか?』と、蘊蓄うんちくを語りたくなるのも頷ける。ここが戦場であれば尚更だろう。

 目の前にある二つの山には魅了魔法チャームの効果でも有るのかと、錯覚しそうな眩惑げんわくを払いつつ、青年は女性に向かって言葉を続けた。



「あなたは、もしや……勇者さま?」


 言いながら、青年の目線はどうしても下がってしまう。否、それではイカンと目線を上げる。

 ──男は上下に目線を泳がせるもの。若い男なら尚更だ。

 アケミは体を見られるのに慣れていた。


「ん? まあ、この世界では私の事を皆そう言うね。私の名はアケミ。君は?」


「ぼぼぼぼ、僕の名前は……、ナルセです」


 ──顔を真っ赤にしちゃって、よっぽど女に慣れてないんだな。若いねぇ。

 恥ずかしさをこらえながら、必死に答えるナルセにアケミはほくそ笑む。


「ふふ、そうか。じゃあナルセ君、何故そんな絶望した顔をしてるのかな? この街は世界でも有数の商業都市。皆に仕事が行き渡り、外で闊歩かっぽする魔物にも高い防壁に守られるこの街中で、そんなに悲壮感ある顔をしてるのは君ぐらいなもんだよ」


 アケミが話題にしたこの街は、商業都市アネモス。豊かな河と海の資源に恵まれて、他国との貿易を中心に栄えて来た。この都市の経済を支えるのが世界有数の港である。港が有るからこそ、この街の住人には仕事が絶えない。青年ナルセと女勇者アケミが出会ったこの場所も、港のすぐそばの通りである。行き交う漁師や貿易商の表情は皆一様に明るい。

 しかしナルセはアケミの言葉に、絶望した理由を改めて思い出し、少しだけ鼓舞された精神を、あっさりとリセットしてしまう。


「いや、もう良いんです。勇者さまに言ったところで、どうにかなるもんじゃないし」


 青年は再び顔を伏せ、そしてドズンと肩を落とす。


「ハハ。おいおい、言ってみてもいいんじゃないか? こう見えて救って来た人は少なくないよ?」


「じゃあ、言いますけど……」


「ああ、言ってみな」


「僕は、冒険者ギルドから免許を剥奪され、登録抹消されたんです。冒険者でいることは僕の誇りでもあったのに……なのに!」


「ほぅ。そりゃなんでまた?」


「僕が悪いんですよ。ギルドから支給された装備も満足に使いこなせず、斡旋されたパーティーでは足手(まと)い。結局何一つ成果も出せず、冒険者不適合の烙印を押された迄です」


「ふむ……」


 ──おかしいな。

 アケミは腕を組み、顎に手を当て考えた。冒険者免許の抹消はよっぽどのことがない限り行われない。パーティーを裏切ったり、人を大量に殺したりして、逆に追われる立場になるか……。あるいは何らかの罪を犯し、国家レベルで損失を計上した場合などが主な理由だ。いくらこの青年がポンコツだとしても、それで冒険者免許が抹消されるなんてことは聞いたことが無い。此処、アネモスに有る冒険者ギルドは大規模なもの。杜撰ずさんな査定が行われたということも考え難い。

 ならば、ナルセの言っていることが虚言なのか? この若者はこう見えて、極悪非道の殺人鬼? 国家犯罪者? ……いや、女の胸を見るだけで顔を赤らめる青二才にそんな度胸はなかろう。


「うん。でも丁度いい」


「へ?」


「君に私の装備一式を譲るよ」

縦書きPDFはこちら

https://ayano-narou.blogspot.com/2019/04/blog-post.html

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