異様な光景
「これはこれは……御挨拶もせずに申し訳ありません。私の事はフォンセとお呼び下さい」
別にナズナは名前を知りたかった訳では無いのだろうが、フォンセは深々とお辞儀をしながら自分の名を名乗った。
「む。これはこれはご丁寧にありがとうございます。私はナズナ。ナズナ・スタルリードと申します。以後お見知りおきを」
ナズナはフォンセの放つ独特な空気に感化されたのか、それとも癖のようなものなのかナズナもフォンセと同じように深々と頭を下げて自分の名を名乗った。
「……」
「……」
その異様な光景をジニアとリリィは只々黙って見ている事しか出来ない様子だった。それかもしかしたらナズナ達の緊張感の無さに呆れて何も言えないのかも知れない。
『フォンセ……タ、タスケテクレ……カラダガ。カラダガシビレテウゴカナインダ……』
そんな緊張感のない状況を打ち破ったのはローランのそんな切ない声だった。
「はいはい。私がわざわざここに来たのは貴方を助ける為ですからね……はい。これでしばらくしたら身体が動くようになるでしょう。そしたらまずはあの二人から殺りなさい。ナズナは私が相手をして時間を稼いであげますから」
フォンセはまるでゴミでも見るような視線をフードから覗かせそう言うと、そっとローランに手を翳した。
「……フォンセ、と言ったな。お前に乗せられるような形にはなったが、折角自己紹介も済ませたんだ。そのフードを外して顔を見せてくれても良いんじゃないか? それとも何か俺達に見せる事の出来ないくらい醜い顔なのか?」
ナズナはフォンセの正体を薄々勘付いているのか、まるで挑発でもするかのようにそう言った。
「はっはっは……流石はスタルリード家の血を引いている人間だ。相変わらず面白いなぁ……」
フォンセは笑いながら、少し気になる事を言いながらフードを外した。
「……天使か? いや、角の色が黒って事はまさか、堕天使か?」
流石はナズナ何でも知っているようで、フォンセが堕天使だという事に気が付いたようだった。
「ほぉ……流石ですね。まさか私達、堕天使の存在を知っているとは、正直な話ここ数百年の間私以外の堕天使には一人しか逢っていませんから、まさか知っているとは思いませんでした」
フォンセはまさか自分が堕天使では無いか何て言われる日が来るとは思っていなかったようで、かなり驚いた表情をしている。
「まぁ、昔から本を読むのが好きで特に魔女やその歴史に関係する本を良く読んでいたんだ。そこで読んでいた本にそんな記述があった事を思い出してな……」
ナズナはそう言うと、ローランの麻痺毒が切れて来たのを悟ってか、一瞬でローランの前に移動して刀を振り下ろした。




