昔話
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それからまたしばらく月日が経ち、ナズナ達は次の目的地である寵陽の直ぐ近くまで辿り着いていた。
あれからジニアやローラン等の追っ手に襲われる事無く、無事にここまで来れたのはディアスが持たせてくれたこの書簡のお陰なのだろう。
「……ジニアは無事だろうか……」
宿屋の布団の上で休んでいる時にナズナはふとそんな事を呟いた。
ナズナは夜な夜なこうして、夜空を見ながら考え事をするのが日課のようで、度々こうして独り言を話していた。
「……ジニアなら生きてるよ? 結構近くまでは来てるみたいだけど中々追い付けないみたい」
直ぐ隣で横になっていたリリィはナズナの言葉に反応してそう言った。
ナズナは返事が帰ってくるとは思っていなかったのだろう。少し驚いた表情をしている。
「すまない……起こしてしまったか?」
布団から出てナズナの方に視線を向けたリリィに対して、ナズナは軽く頭を下げた。
「うんうん。大丈夫……何だか今日は寝付けなくて……」
リリィはそう言って首を振ったがリリィが寝付けないでいるのは今日だけでは無い。ほとんど毎日だった。例え寝付けたとしてもしばらくすると、悲鳴と共に起き上がっていたのをナズナは知っていた。
「そうか……なら少し俺の昔話でもしようか……」
リリィが嘘を吐いている事を知っているナズナはただ一言そう言うと、自分の昔話をし始めた。
「俺は知っての通り王族の血縁者、しかも『鬼神』と『戦姫』の子供の次男として生まれた」
そこで区切りを付けて一度息を吐いた。
「幼い頃から兄上や父上……母上の底知れぬ強さに触れ続けていた事……周りからの期待の眼差し……そのどれもに正直嫌気が差していたんだ……どれだけ訓練しても追い付くどころかどんどん離されていく……そんな子供時代を過ごしていたんだ……」
「そんな時に学校で戦争と魔女についての授業があった。戦争を終結させた本人達が語る事では無かったのか、それとも心の底から魔女を毛嫌いしているのかは分からないが、兄上も含め家で魔女の話を聞く事は無かった」
「学校で学んだ事歴史の中で初めて心の底から怒りが沸いてきた……何故かは分からないがどうしても許せなかった。もしかしたら何処か自分と重ねていたのかも知れないな」
「今思うと、俺なんかよりもよっぽど魔女の方が過酷な人生を歩んで来たというのに……あの頃の俺はそんな事も分からないくらい子供だったんだ……」
そう言ってもう一度一息吐いてからリリィに視線を向けた。
「……そんな事無いよ……誰かに期待されるのは嬉しい事だけどそれと同時に重荷になる……私もそうだったから……」
リリィはそう言ってナズナにそっと抱き着いた。この時だけは普段大きく見えるナズナが小さく見えて、小さく見えるリリィがとても大きく見えた。




