早朝の訓練
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自室に戻ってベッドで横になっている内に、気が付くとナズナはいつの間にか眠りについていたようだった。
目を覚ましたのは夜が明ける少し前。相変わらず規則正しい生活をしている事に呆れたのか、起き上がったナズナは少し自嘲気味な笑みを浮かべている。
「全く、すっかり士官学校の生活リズムに慣れてしまったようだ。まぁ、折角早く起きたんだし、剣の素振りでもしようか」
ナズナは自分に言い聞かせるように、そう言ってベッドから降りると着替えを済ませ、二振りの剣を腰に携えて自室から庭へと向かった。
「さて、久しぶりに気兼ねなく『二刀』の訓練が出来そうだ。これは出来れば誰にも見られたくないからな……」
秘密にしている理由は分からないが、どうやらナズナは『二刀流』を人に見せたくはないようだった。
「ふっ、はっ、せい」
小気味良い掛け声と共に剣が空を切る音が辺りに響き渡っている。こんな音を出していれば他の誰かが気付いてしまうだろうと思っていたが、それは杞憂に終わった。
「よしっ、こんなもんか。あまり続けていると誰かに見られてしまう恐れがあるし、ここまでだな……」
ナズナはそう呟くと腰から剣を一振り外し、一刀で素振りを始めた。
「ふっ、はっ、せい」
ナズナは二刀でしていたのと同じように繰り返し剣を振り続けた。これだけ見ていれば何ら不思議は無いだろうが、一区切りつくと逆の手に持ち替えてまた素振りを始めた。
「ふっ、はっ、せい」
二刀と両手での素振りを終えタオルで汗を拭っていると、そこにプラタナスが現れた。
「随分と早い時間から訓練をしているのだな。本当に良く似た兄弟だよ。お前とシオンは」
丁度今起きたばかりの様でガウンを羽織った姿でプラタナスは声を掛けて来た。
「父上、おはようございます。それはそうでしょう。『鬼神』と呼ばれた父上の強さに憧れ、追いつきたくて、兄も私も訓練しているのですから」
プラタナスは既に退役した身ではあるが、全盛期は『鬼神』と呼ばれ他国から恐れられていた男だった。今もまだ時折、訓練をしているようで全盛期と比べて体つきもあまり遜色が無い。
「はっはっはっ。懐かしい名だな。だが、私はもう退いてから十年以上も経つ、今ではただの老いぼれだ」
プラタナスは懐かしむように遠くを見て、笑いながらそう言った。
「まだまだ、私なんかでは父上には敵いません。兄上にすらまだ遠く及ばないのですから」
ナズナが苦虫を噛み潰したような表情をしていたのは、別の場所を見ていたプラタナスには見えていないようだった。
「次、家に戻って来る機会があれば、久しぶりに私が剣の稽古をつけてやろう」
プラタナスは少し気を良くしたのか、ご機嫌そうにナズナにそう言った。
「ありがとうございます。その時を楽しみにしています。それでは父上、私は一度自室へ戻り支度を整えてまいります」
敬礼を一つした後、そう言ったナズナは少しだけ嬉しそうな表情をしていたのが印象的だった。




