騎士団長ローラン
「ちっ、若造が舐めやがって、ジニア……下がっていろ。私一人で戦う。そうでもしないと腹の虫が収まらん」
ローランはそうとうご立腹のようで、ジニアを手で制すとナズナの前へと進み出た。
ジニアに取っては願ったり叶ったりだろう。一歩下がった後、ほっと胸を撫で下ろすような動作をしている。
そうは言っても、ジニアもナズナにいつまでも負けてはいられない訳で、ナズナの動作を見逃すまいと戦いに集中したままだった。
「ローラン騎士団長一人で俺を相手にするんですか? それじゃ俺も一本だけで良いや……」
ナズナはそう言うと使い慣れている刀を背負い直して、短剣を構えた。単に手加減をしたという事もあるのだろうが、短剣一本で戦ったのはリリィに見せる為でもあったのかも知れない。
「ナズナ、貴様……何処まで私を愚弄するつもりだ? 嫌でも本気を出させてやる!」
ローランはそう言うと大地を蹴り、物凄いスピードでナズナに斬り掛かった。
「……だから、攻撃が単調過ぎるんだって……そんな怒りに任せた剣は俺には一生届かない……もっと落ち着いて戦ったらどうですか?」
ローランが両手で持っている大剣を、細身のしかも短剣で軽々と受け止めたナズナは呆れながらそう言った。
「ふっ、敵であるナズナに言われて気が付くのは非常に遺憾なのだが、確かにそうだな……すぅーはぁー」
戦場でしかも敵であるナズナからの助言をあっさり聞き入れることが出来るのは、流石歴戦の戦を超えて来た人物なのだろう。ローランは呆れたように軽く笑った後、そう言って一つ深呼吸をした。
するとどうだろう、流石は騎士団長まで登りつめた人物と言うべきか、さっきまでの獣のようなオーラは消え、研ぎ澄まされた騎士のオーラを纏っていた。
「最初からそうしていれば良いんですよ……さて、これで少しは楽しめそうだ……」
ナズナはそう言うと、口元に悪役のような笑みを浮かべた。正直な話、どっちが悪だとか正義だとか特には無いのだが……このシーンだけを見るとどっちが悪役なのか全く分からないような状態だった。
「……では、騎士団長ローラン……いざ尋常に参る!」
ローランはそう言うと、もう一度ナズナに斬り掛かった。
―――「ギャイーン」―――
「あははっ……流石はローラン教官、いえローラン騎士団長ですね……こんなにゾクゾクしたのは三年前に兄上と手合わせをした時以来ですよ……さぁ、俺をもっともっと高みに連れて行って下さいよ!」
ローランの渾身の一太刀を軽々と受け止めたナズナは、このいつ斬られてもおかしくない戦闘状態にありながら、笑っていた。ローランはその表情に驚いたのか一歩後退った。
「……うーん。でも、兄上や父上程では無い……残念です。ローラン騎士団長、腕の一本くらいは覚悟して下さいよ?」
ナズナはそう言うと、短剣を胸の前に持って来て、ゆっくりと眼を瞑った。




