リリィの魔法
「ここは私に任せて、ナズナはジニアさん達をお願いします」
リリィはそう言うと何やら詠唱を始めた。
「水晶眼の魔女リリィが命じる。かのものをあるべき姿に戻せ……『レストア』」
リリィの詠唱が終わると、今にも爆発しそうだったイーヴァは見る見るうちに小さくなり、元の人間の姿へと変化していった。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
魔法というものはここまで体力を消耗するものなのだろうか? 先程のダメージもあってか、リリィは自分の足で立っている事が出来なくなりその場に崩れ落ちてしまった。
それに気付いたナズナは慌てた様子でリリィに駆け寄り、リリィを抱き止めた。
「おい? 大丈夫か?」
半ば気を失いかけていたリリィの肩を軽く叩きながら、ナズナはそう言った。
「……あ、ありがとう……自分の意思で魔法を使うのかなり久しぶりで……それにこれのせいもあって」
リリィはそう言うと、首に着いた鎖を力無くじゃらじゃらと動かした。
「……なるほどな、ちょっと待ってろ。良いと言うまで動くなよ? はぁぁぁー」
ナズナはそう言って眼を閉じ、刀をリリィに向けて斬りかかった。
一瞬だけ怯えた表情を見せたリリィだったが、ナズナの意図を理解したのか、ゆっくりと眼を閉じた。
―――「ギャィーン」―――
先程のジニア殿鍔迫り合いの時よりも大きな音を立て、リリィの身体中に着いていた鎖は音を立てて崩れ去った。
「……やっぱ流石に堅いな……もっと粉々になると思っていたが俺もまだまだだな……」
ナズナは粉々になった鎖だった物を見下ろしながら、少しだけ渋い表情を浮かべた。
「……ありがとう、ナズナ。ナズナはやっぱり強いんだね」
リリィは少しだけ頬を赤く染めると、ナズナに対して満面の笑みを向けた。
「ま、まぁな……俺の方こそ助かったよ。リリィ、俺の力ではどうする事も出来なかった……魔法って凄いんだな」
普段は表情を表に出さないナズナでも、流石に年頃の男の子なのだろう。女の子のそれも美少女といっても過言ではないリリィから満面の笑みを向けられ、少しだけ慌てた様子を見せた。
「ぐっ、はぁ、はぁ、まだ、まだだ。死ねぇーーー!!」
いつの間にか気が付いていたイーヴァはナズナ達に向かって、魔法のようなものを放った。
「……はぁぁぁー」
流石というべきか、イーヴァがナズナ達の方に攻撃を仕掛けていた事には、ナズナは気が付いていたようで、振り向く事もせず刀で飛んできていた火の玉を斬った。
「イーヴァ……これで終わりだ……」
ナズナはそう呟くと一瞬でイーヴァの前まで移動し、心臓目掛けて刀を突き刺した。
「ぐふっ……まさか、こんな所で死ぬ事になるとは……ふはははっ……良いでしょう……貴方もいずれ絶望して私と同じようになるだけです……それが早いか遅いか、それだけです……」
イーヴァは笑いながらそう言うと、そのまま動かなくなった。
「その忠告はありがたく受け取っておくが、俺は例え絶望したとしても、絶対にお前のようにはならない……どれだけ良い事をしてきた人間だろうと、どれだけの罪を犯した人間だろうと『死』は平等に訪れる。だからせめて、安らかに眠れ……」
ナズナはそう言うと、イーヴァに刺した刀を抜き、刀についた血を払い鞘へと納めた。




