ナズナの覚悟
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ナズナ自身自分がこのように感情に任せたような行動をした事に驚いていたようで、走っては止まり走っては止まりを繰り返していた。いくら自分に言い聞かせたとしても、所詮は自己暗示に過ぎない。長い間、自分の感情を隠して生きて来たのだ、そんなに簡単に割り切れるものではないのだろう。
「っ痛、頭の痛みも酷くはなってはいるが、こんなに体が重いのは……俺はまだ迷っていると言うのか……」
ようやくジニアの姿をとらえた頃には、ついにナズナは立っている事も出来ずその場に倒れ込んだ。
その音で気が付いたのかジニアは振り向き、倒れているのがナズナだと気が付くと大急ぎで駆け寄った。
「おい大丈夫かナズナ! どうしてこんな所にいるかも不思議だが、それよりも倒れるまでしてどうしてこんな所まで戻って来たんだよ?」
駆け寄って直ぐにナズナを膝で抱えるように持ち上げるとジニアはナズナにそう訊いた。
「……ジニア、先輩? すみませんご迷惑をお掛けしたみたいで、迷惑ついでにもう一個だけ迷惑を掛けても良いですか?」
ナズナはゆっくりと目を開けると、力無くジニアにそう言った。
「……何だ?」
ジニアはそんなナズナの様子を見て何か悟ったのか、何も聞き返すことはしなかった。
「……無理を承知でお願いします、今からあいつに、リリィにもう一度逢わせて貰えませんか?」
ナズナは先程の力無い声とは一変して、はっきりとした声でジニアの目を真っ直ぐに見てそう言った。
「……分かった。だがその前に一度ドクトル先生に体を見てもらってからにしよう。プラタナス伯爵達には俺の方から連絡をしておくから心配はするな」
ジニアは一瞬考えるような素振りをした後、何処か覚悟を決めたようにそう言った。
「……色々無理を言って本当にすみません。ジニア先輩が『俺』の先輩で本当に良かったです」
ナズナはここで初めてジニアの事を『友人』と認めたようで、一人称を『俺』と言った。
「ナズナ……お前、覚悟を決めたんだな。俺はそれを他の人間が否定しても俺は絶対にお前の味方になってやる」
ジニアは一瞬驚いた表情をした後、力強くナズナにそう言った。
「ありがとうございます。そんな事を言って貰ったのはジニア先輩が初めてです。こういうのって嬉しいものなんですね……」
ナズナはそう言ってジニアに支えて貰いながら、ゆっくりと立ち上がった。
「無理はするなよ? これからナズナがしようとしている事はこの国を、いやこの世界を敵に回すような事なんだからな……その前に体を治す事も大切なんだからな」
ジニアはナズナの考えを見抜いているようにそう言うと、ナズナの歩幅に合わせてゆっくりとドクトルの診療所へ向かおうとした。
「待って下さい、ジニア先輩。やっぱりこのまま行かせて下さい。あいつが、リリィが呼んでいるような気がして……それと何か嫌な予感がするんですよ」
ドクトルの診療所へ向かおうとしている、ジニアを手で制しそう言った。
「分かった、ナズナのそういう直感は昔からよく当たっているからな、その直感を信じてみよう。ただ、繰り返すが無理だけは絶対にするなよ? 何かあっても俺だけで守りきれるとは言い切れないんだからな」
少し悩むような仕草をした後、ジニアは仕方が無いと言った表情をしてそう言ってきた。
「それでは、改めてよろしくお願いします」
ナズナはジニアにそう言って頭を下げると、今度はジニアの手を借りず自分の足でしっかりと立ち、ゆっくりと歩き始めた。




