『菊』という花
「ところで、この花は何という花なのでしょうか?」
ナズナは短剣を見ながら、未だ遠い目をしているダリア王にそう尋ねた。
「それはな『菊』という花らしい。ナズナが知らないのも無理はない。この辺りには咲かない花のようじゃからのう。その刀と同じ、東の国の花のようじゃ」
ダリア王はナズナが背負っている刀に視線を向け、顎髭を触りながらそう言った。
「『菊』ですか……初めて見たはずなのですが、何故か懐かしい感じがします……」
ナズナは見た事の無いはずの『菊』という花の装飾が施された短剣を見つめながらそう言った。
「ふむ……不思議な事もあるもんじゃの……確かにその短剣は普通の短剣には無い何かがあるとは思ったのじゃが」
ダリア王も少し考え込んでいるようで、天井を見上げながらそう言った。
「そうですね。何だか私は東の国に縁があるようですね。一度行ってみたいものです」
ナズナも同じように天井を見上げながら、見た事の無い東の国に思いを馳せていた。
「実は昔一度だけ行った事があるのじゃよ。ただあまりにも昔の事過ぎて、恥ずかしい話あまり覚えてはおらんのじゃよ。ただ、つい数日前、東の国の調査の為、騎士団を派遣したのじゃ。その中にはナズナの兄シオンもいたはずじゃ。気になるのであれば帰って来た際、話してみてはどうじゃ?」
ダリア王はまるで今思い出したかのようにそう言うと、ナズナの方に視線を向けた。
「そうなのですか? そうですね、気になっているのは事実ですし、機会があれば兄上に連絡してみる事にします。何か分かった時には、必ずダリア王に報告致しましょう」
ナズナはダリア王から思いもよらない事を聞かされ、少し驚いた様子だった。その後、少し考える素振りをした後、プラタナスとルピナスを待たせている事もあり、ナズナはそこで話を切り上げた。
「他は見なくとも良いのか? もう何個か持って行っても構わんのじゃぞ?」
ダリア王は満足そうに頷いた後、ナズナにそう問いかけた。
「いえ、この短剣だけで十分過ぎるくらいです。それに父上達を待たせておりますので、本日はここで失礼させて頂きます」
ナズナはそう言うと敬礼を一つした。
「そうか、残念じゃが仕方あるまい。ただ、そうじゃの。時間ある時にいつでも訪ねて来ると良い」
ダリア王は少し残念な表情をした後、ナズナにそう言った。ダリア王の言葉を聞いた後、ナズナはもう一度敬礼をし、頭を下げてから武器庫を後にした。




