未来への道しるべ
「すみません……それでは少し語弊がありますね……リリィ様。最期にこれだけはお伝えしておきます……」
泣き崩れてしまったリリィに対して、バツの悪そうな表情をしながらそう口にした。
「……えっ?」
謝られるとは思っていなかったのか、それとも『最期』とディアスが口にした事に驚いたのか、普段は水晶のような綺麗な瞳を真っ赤に染めディアスの方を向いた。
「……分かっているとは思いますが『星の記憶』はあくまで未来の可能性の一つでしかありません。この意味分かりますね?」
優しく笑い掛けながらそう言ったディアスの表情はまるで父親のようだった。
「……それは……」
リリィもそんな事は始めから知っていた事だろう。だが、度重なる不幸や境遇が『星の記憶』で見えた通りに進んでいく世界を目の当たりにし続ければ、それは揺るがないものと思ってしまっても仕方が無い。
「……ナズナ様は私が命を掛けて救います。ですからリリィ様……貴方も無限に広がる未来を、明るい未来を信じて下さい」
そう言ったディアスは何か覚悟を決めたような目つきだった。
「……もしかして……ディアスさん……貴方は……」
リリィにもディアスが何をしようとしているのか、理解出来てしまったのだろう。リリィは何も言えないようだった。
「……さて……そろそろいきますか……今まで世話になりましたね……『クロノス』」
ディアスがそう呟くと、そこには時の精霊『クロノス』の姿があった。
『……良いのか? 我が主よ……』
表情までは伺えなかったが恐らく、困ったようなような表情をしていたのだろう。
「貴方が私の事を主と呼ぶ何て初めてじゃないですか? 何処が具合でも悪いんじゃありませんか?」
まるで、これが最期になるなんて思えないほどの和やかな会話だった。
『……』
「本当に今までありがとうございました。これからはナズナさんと共にこの世界の行く末を見届けて下さい……」
『……了解した……」
二人はそれ以上言葉を口にする事無く、そのままディアスは集中し始めた。
「っ……」
先程まで脈も無かったはずのナズナがほんの少しだけ動いた。
「ナズナ!?」
それに気が付いたリリィは慌ててナズナの元を抱きあげた。
「はぁ……はぁ……はぁ……もう少しだけ……もって下さい……私の身体……」
息絶え絶えになりながらもナズナに手を翳し続けていたディアスだったが、ついに倒れてしまった。
「あはあは……情けない、ですね……すみません……後はリリィさん頼みましたよ……リリィさんとナズナさんならこの世界を、変えられると信じています……それを見届けられないのが、唯一の心の残りです……」
ディアスにはもはや立つ力も残っていないようで、地面に寝そべったまま呆れたような表情をしていた。
「それとジニア……貴方にも迷惑を掛けましたね……ですがここでは死なせませんよ?」
いつの間にか直ぐ近くまで来ていたジニアに対してもそう言葉を口にした。
「……」
「……」
リリィとジニアにもディアスがもう永く無い事が分かったのだろう……二人は何も口にする事が出来なかった。
「……最期の最期に……貴方達のような若者に出逢えて……嬉かっ……」
ディアスは最後まで言葉を口にする事無く、そのまま息を引き取った。




