十年前の日常
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―――時は約十年前に遡る。
シオンが十歳、ナズナが八歳の頃の出来事だった。シオンもナズナも今よりもずっと可愛げがあり、シオンの後ろをナズナは毎日のように追い掛けているのが印象的だった。
「ナズナ。今日もやるか?」
そんな追いかけっこにも似た遊びに飽きたのか、シオンは急に立ち止まり、ナズナに笑い掛けた。
「うん。やるー」
シオンのそんな言葉に対し、ナズナはまるで天使のような笑顔をしながらそう言った。
「よしっ、じゃあ父さんに木刀を借りてこよう」
シオンはナズナの返事を聞いて頷くと、駆け足で屋敷の奥へと向かっていった。
「あっ、兄さん待ってよー僕も一緒に行くってばー」
ナズナはもう既に見えなくなりかけていたシオンを慌てて追いかけて行った。
――――――
「父さーん。木刀貸してー」
シオンが書斎に勢いよく入りながら、椅子に座って仕事をしていたプラタナスにそう言った。
「はっはっは……全く。私が仕事中だというのにも関わらず騒がしい奴らだ。よしっ、気分転換も兼ねて久しぶりに私が相手をしてやろう」
手に持っていたペンを机に置くと、少しだけ呆れた様子のプラタナスは笑いながら椅子から立ち上がった。
「よっし! やったー今日は絶対に一本取るからな。父さん」
シオンは思いっきりガッツポーズをすると、その場でくるりと一回転した。
「はぁ……はぁ……はぁ……やっ、やっと追いついた……」
ナズナはようやくシオンに追いつくことが出来た。全力で走ってきたのか息絶え絶えにそう言った。
「随分遅かったじゃん、ナズナ。今日は父さんが相手をしてくれるってさ。練習の成果を見せる為に……さぁ、早く行こうぜ?」
肩で息をしているナズナにそう言うと、さっさとの書斎から出て行った。
「え? そっ、それは嬉しいんだけど……流石にちょっと休憩、させて……」
ナズナは驚いたような表情から嬉しそうな表情へと徐々に変わっていったが、今は息を整える事の方が大変みたいで、その場に座り込んでしまった。
「全く、相変わらずシオンはせっかちなんだから……もう少しナズナのように落ち着きがあってもよかろうに……さて直ぐに休めるようにルピナスに言っておこう。きっと今のナズナのようにシオンも疲れ果ててしまうだろうからな……はっはっは……」
そう言ったプラタナスが纏うオーラが一瞬だけ変わったような気がしたが、直ぐに元の空気に戻ったので気のせいだったのかも知れない。
プラタナスはその様子を座り込んだまま見ていたナズナを持ち上げて自分の肩に乗せると、シオンの待つ庭へと向かった。




