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3. 悪友


 あらかじめ設定していたアラームで目が覚める。時刻は午後3時、集合時間の二時間前だった。

 

 くぁぁ、と短い欠伸をかみながら腕を真上に伸ばす。

 

 

 「あーよく寝た」

 

 洗濯を終えたのが9時半なので睡眠時間は五、六時間といったところか、二度寝にしてはやたらに長すぎる時間である。

 

 

 「さて、顔作りますか」

 

 顔を作るとはメとを意味する。ちなみに琳のメイクには一時間ほど時間を要するので、まだ二時間あるといっても駅に向かう時間を考えればさほど猶予があるわけではなかった。

 

 「ちょい急ぎめでやっていきますかー」

 

 

 そう言いながら化粧台の椅子に座り、いそいそと慣れた手つきで作業を進めていく。

 

 

 一時間後、化粧台の鏡には厚い化粧で塗り固められた立派なギャルへと変貌した琳の姿が映っていた。

 

 「よし!いいかんじ!」

 

 風呂上がりのときと同じように、鏡に映る自分をビシィ!と指差して軽くウィンクをしながらどや顔を決める。

 しかし先程のさわやかな雰囲気はなく、濃いメイクのせいで端から見ればまるでレスラーが相手を挑発しているかのようになっている。

 

 ぶっちゃけてしまえば素材を台無しにするような残念メイクであるが、当の琳本人はこれに満足していた。

 

 

 

 「それじゃそろそろ行ってくるね、お母さん」

 

 身仕度を整え、若く美しい女性の写真に挨拶を済ませると、琳は静かに玄関のドアを開けた。

 

 

 

 見た目の緩さに似合わず琳は時間にはタイトな性格をしていた。事実、待ち合わせの時間に遅れたことは一度もない。今日も集合時間の10分前に駅前に到着した。

 

 

 

 それにしても男は架純の知り合いか~、こりゃ期待はできそうにないなぁ。

 

 架純といえばバリバリの肉食系で、彼女の知り合いの男はヤンキー的な雰囲気の厳ついお兄さんのイメージしかない。昔から琳の好みとは合わなかった。

 

 

 

 

 そういうことがあるので、ぶっちゃけてしまえばコンパという意味では今日の琳にやる気はない。

 

 恐らくそれは、古い付き合いである架純も容易に知るところではあるのだろう。

 

 知っている上で架純は誘ってきた。その理由はもちろん琳が時間の都合がつきやすい人間ということもあるが、それだけではない。

 

 

 

 自分と男の好みが異なる琳は、コンパ的イベントで対立しづらいのだ。

 なので、安心してターゲットを狙うことができる。架純は打算的な性格をしていた。

 

 そしてそんな架純の思惑も琳はよく分かっている。ならなぜ、都合よく利用されているのをわかっていて琳は今日の肝試しに参加したのか、それは彼女の所属している部活が関係している。

 

 

 

 「いやーそれにしても肝試し大会とはタイミングがいい。これで課題も済ませられるなー」

 

 課題とは、授業で出されたものではなく、彼女の所属している部活で科されたものである。

 

 どのような課題かというと、夏休みのうちに個人で霊的スポットの現地に直接赴き調査してくるというものだ。

 

 これはお遊びの罰ゲームなどではなく、本人達は大真面目に真剣に課題に取り組んでいる。ただ一人を除いて。

 

 そう、このどうしようもないダラダラギャル堂島琳は、なんと所属している部活動にも消極的で、調査レポート提出日二日前の今日まで一切手をつけていなかった。

 

 理由は現地までの移動費が勿体なかったから。しかし、今回は大学生の車で行くということなので、かかる費用はゼロ。行かない理由がなかった。

 

 「ちょっと早かったかな?」

 

 辺りをキョロキョロ見渡し、誰かいないか探す。しかし、それらしき人物はいないようだ。

 

 

 

 もう少し待ってみるか、そう思った矢先。

 

 「おーい!りーん!」


 どこからか、久しぶりに聞いた友の声が聞こえる。

  

 「え、どこどこ?」

 

 「こっちー!」

 

 声がするほうへ振り向いて見ると、小麦色に焼けた腕を振りながら駆け寄ってくる一人の女性がいた。

 

 「うわ架純久しぶり~!」

 

 「琳も久しぶり~! 会えて嬉しいよぉ~! 」

 

 「私もぉ~! 」

 

 一秒もかからずに声の高低を切り替えるのは、古来より女子に伝わる必須スキルだ。きゃっきゃウフフと話す二人の女子の周りには異様な雰囲気が漂っていた。

 

 しかし、旧友との再会に喜んでいることに、琳も架純も偽りはない。

 

 「それで? もうみんな集まってるの? 」

 

 「あ、うん駅の裏側に車止めちゃってねーみんなそっちのほうに集まってるんだー」

 

 「そうなんだ。私勘違いしちゃった」

 

 「気にしないで! 連絡してなかったんだし仕方ないよ。それじゃ行こっか」

 

 こっちだよ。と皆が集まっているであろう方向を指差し架純が先導する。

琳はそれに後ろから着いていく。

 

 琳は架純の後ろ姿を眺めながら、そのファッションを考察してみた。

 

 薄い金に染めた髪はミディアムショートに切り揃えられ、垢抜けた印象を与え、服装はショートパンツにヘソ出しダメージシャツ。

 

 一見動きやすさを重視した手抜きコーデと思うかもしれないが、断じてそんなことはない。ダメージシャツの空いた穴から見える焼けた肌の色はセクシーな印象を与え、ショートパンツは彼女のチャームポイントである形の良い尻をさらに引き立てている。

 

  まぁ、尻だけでなく彼女は全体的にスタイルがいいのだが。

 

 イメージを一言で表すなら、ワイルド&セクシー。姐ギャルファッションを着こなすその様はとても17歳とは思えない。

 

 「架純ちょっと雰囲気変わった?いい感じじゃん」

 

 純粋に、ありのまま、琳は架純を褒める。

 

 「え、そう? えへへ、ありがと!そういう琳は相変わらずだね!」

 

 含みのある言い方に琳の心が少しざわつく。

 

 ん?相変わらず?なんかの皮肉か??などと勘繰る。

 

 なんか変かな?と今一度自分のコーデを見直してみる。 しかし特別おかしいところは見受けられない。

 

 奮発して買った有名ブランドの膝上丈グレーカラーのワンピースは、夏感と若々しさを存分にアピールしているし、それに合わせた幅の色い黒のメトロハットだって子供っぽくなりすぎないようにいい働きをしている。

 

 ブーツだって手を抜いていない。シルエット重視でチョイスしたが、結果的にいい感じに全体的にパリッとした雰囲気を持たせてくれてメリハリが出来てる。

 

 総評として色味こそ大人しいものではあるが、決しては地味なコーデにはなっていないはずだ。

 

 キュート&シック。完璧なコーデでありなにもおかしいところはないはずだと琳は首をかしげる。

 

 あははーそうかなー。と多少モヤモヤしながらもそう返事した琳は、架純が指摘しているのは己の顔面に施されたガングロギャルメイクがせっかくのコーデを台無しにしていることだということに気づいていなかった。

 

 「いや、メイクよメイク」

 

 琳の勘違いを察したのか、架純が後から付け加える。

 

 「メ、メイク?」

 思わぬ指摘を受け、困惑する琳。

 

 「琳いっつも濃いメイクしてくるじゃん?特に目元。琳せっかく可愛い顔してるんだからもう少し薄くしたらいいのに」

 

 そんなことを言われ、琳はすぐさま反論する。

 

 「またまた~! そんなこと言ってぇー! 架純私の事情知ってるでしょー? 私はこれでいいの! てかこっちのほうがカワイイし! 」

 

 可愛いといわれて満更でもないが、琳にとってはそういう問題でもないらしい。

 

 「勿体無いと思うんだけどなぁ……」

 

 架純は少し不満気な顔だ。 

 

 

 「あ、その腕輪今もつけてるんだねー」

 そうして、琳の右手首につけている物に気づき架純がそんなことを言う。

 

 「あ、これ? 」

 

 琳はそう言って腕をあげてみせる。

 

 「いやーシンプルなデザインだからさぁ、ついついなんにでも合わせることが多いんだよねー」

 

 「そうなんだ、それっていつからつけてるの? 」

 

 「これをもらったのが13歳のときだから、もう四年くらい経つかな」

 

 「四年!? 私そんなに物がもったことないよぉ」

 

 「アハハ、私もそんなに物持ちがいいほうじゃないんだけどね。死んだお母さんの形見だからこれだけは大切にしてるんだ」

 

 「...そっかぁ。そんなに大切にしてるならきっと琳のお母さんも喜んでるね!」

 

 「そーかなぁ」

 

 「そうだよ!」

 

 男に目がないのが玉にキズだが、昔から架純は純粋で思いやりのある優しい女の子だった。男の趣味が悪いだの打算的だのと悪くいうこともあるが、そういうところも含めてなんだかんだで琳は架純のことを気に入っている。

 

 架純はああいってくれてるけど、たぶん、きっと、お母さんは嬉しくなんか思ってないと思う。だって、私はお母さんに何一つ親孝行出来なかったんだから。今も、昔も。

 

 琳は、かつて母と過ごしていた頃の記憶を思い返した。

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