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12. 小さな一歩

 病院で倒れたはずなのに、気がつけば自室のベッドに横たわっていた。時計を見ると時刻は午前11時28分、日付は八月十一日と表示している。つまりは、あれから一日経過したということになる。

 

 脳裏に昨日の出来事が思い浮かぶ。福田に襲われそうになったこと、化物が出てきたこと、自らを〈カンナビ〉と称した謎のアプリが突然ダウンロードされて、言われるがまま走っていたら母との思い出の場所に着いたこと。

 

 さらにはそこで神だのなんだの言われて化物と戦う武器を得たこと。

 

 もう少しで勝てるってところで油断して、架純を死なせてしまったこと……。

 

 架純のことを思い出して、やり場のない感情が襲う。昨日のことが信じられなくて、信じたくなくて、もしかしたらあれは夢だったのではないか。そんなことを考えてしまう。

 

 だから私はボソッと呟いた。あれが夢だったのかどうかを手っ取り早く確認するために、《神》の名を呟いた。

 

 「《アルテミス》……」

 

 すると右手に着けていた腕輪が光ったかと思うと、無慈悲にも一丁の散弾銃に姿を変えてしまった。

 

 やはりあれは夢などではなかった。

恐らく架純も、もうこの世にはいないのだろう。

 

 鏡を見ずとも自分の顔がひどく疲れているのが分かる。それは友人を失った絶望。これから先のことに対する絶望。様々な絶望が、不安という姿に形を変えて私の衰弱した心を襲ったゆえの結果だった。

 

 正直言ってもう何もする気が起きない。このベッドから出ていく気すらも起きない。

 

 しかし、なにもしたくない私の意志に反して、ぐぅぅぅぅとお腹が鳴る音がした。私の胃袋は食料を求めている。

 

 はぁ、なんだよもう、そういや昨日の朝から何も食べてないっけか……。

 

 このままほっとけば餓死出きるのかなとも考えたが、色々現実的じゃないだろう。しかもこうグルグル鳴られては落ち着きたくても落ち着けない。

 

 私は短く溜息をついて、のそりと身を起こして台所へ向かった。

 

 適当にパンで良いか、そんなことを考えがさごそと食料を漁っているときに、せめて父に連絡しなくてはと思い当たる。

 

 とりあえずは連絡するために携帯を充電器に設置した。この時代の携帯は5分もあればフルで充電することができてしまう。

 

 パンを口に加えながら、充電の完了した携帯を手に取って電源を入れる。

 

 驚いたことに、画面に表示される通知には、父から何度も何度も電話がかかってきた履歴が残されていた。

 

 何事だろうと少し焦る。

 

 もしかしたら、自衛隊員である父の職場で何かあったのかもしれない。あんな化物が日本に出たんだ。もし向こうで存在が発覚しているなら今頃対応で大忙しだろう。

 

 そんな推理をして、私は父に電話をかけ直す。

 

 仕事中だから出ないかもしれないと、私は父が応答するとはあまり期待していなかった。

 

 しかし、数回のコール音が鳴った後、渋い男性の声が電話の向こうから聞こえてきた。

 

 「もしもし? 琳か?」

 

 父の声にはえらく切迫したような雰囲気が漂っていた。

 

 「うん、私。どうかしたの?」

 

 「あぁよかった無事みたいだな。その様子じゃ何も知らないのか、とりあえずテレビを見てみろ」

 

 父が何に安心したのか私には分からなかった。まさか昨日の出来事を父は既に知っているというのだろうか。

 

 

 言われるがまま、テレビをつける。

すると、どこのチャンネルも臨時のニュース番組が放送されていた。

 

 

 「んん?強盗立てこもり事件?えっうちのすぐ近くじゃん」

 

 

 「そうだ。今日の朝から起きてる事件で人質もいて危険な状況だ。それでもしかしたら事件に巻き込まれてるんじゃないかと思って電話したんだ」

 

 そう言われて、私の中で合点がいく。どうやら昨日のことが知られたわけではなさそうだ。

 

 

 「大丈夫、家だから無事だよ。……あの、それでさお父さん」

 

 

 そこで、私は思いきって打ち明けようとした。昨日のことを、化物のことを、架純を死なせてしまったことを。もしあの化物のことを自分以外に知らないのなら、きっと後々大変なことになる。そう思って言おうとした。

 

 しかし、私が言いかけたところで父がそれを制止してしまう。

 

 「ん?あぁちょっと待ってくれ」

 

そう言って父は電話から離れた。どうやら、職場の人と話をしているようで、父の遠い声が聞こえてくる。

 

 「おう、おまたせ。それで?どうかしたか?」

 

 すぐに父は戻ってきたが、私は再び話そうとして自分の思考がまだ整理出来ていないことに気がつく。とても人に説明できる状態ではない。

 

 「う、ううん、なんでもない。仕事頑張って」

 

 私は歯切れ悪くそう言うことしか出来なかった。

 

 「あ、あぁ?そうか?なにかあったらすぐに連絡しろよ。あと事件が解決されるまでは無闇に出歩くな。いいな?」

 よっぽど私の様子がおかしかったのだろう。父は少し不思議がっていたが、それじゃあ、と言ってそこで通話は切れる。

 

 まぁ、わざわざそんな忠告されなくても外に出るつもり無いけどね。

 

 父の声を聞いて少しだけ元気が湧いた私は、何を思ったのか携帯を操作してカンナビのアプリを開く。

 

 先程説明がつまってしまったのは情報が不足しているからだ。だから私は一番知ってそうなやつから説明を請うことにしたんだ。

 

 『おはようございます。琳様、いかがされましたか?』

 

 アプリが起動されるなり、まるでとぼけたようにそんなことを言う。

 

 「いかがされましたか?じゃない、昨日のこと全部説明してもらうからね」

 

 『かしこまりました。それでは何からお話ししましょうか……』

 

 

 私はそれからおよそ一時間の時間をかけてアプリの話を聞いた。

 

 中にはとんでもない情報があったりもして、とてもじゃないがこの先の人類の未来は決して明るいものではないことが分かった。

 

 アプリが言うにはそれでも抗う手段はあるらしい。

 

 私はその話も熱心に聞いた。

 

 

 今聞いた話をいち早く、より多くの人に伝えるのだ。それがきっと、今の私に出来ること。

 

 架純や他の人の犠牲を無駄にしないために、私がやらねばならないこと。

 

 そういった使命感とかが良い方向に働いたのだろうか。気づけばもう、起きたときよりかは幾分か活力を取り戻していた。

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