10. 一撃必殺
それはあまりに凄惨で、受け入れ難い展開だった。
琳に背を向け立ち塞がった架純が、化物の触手の攻撃を受けていたのだ。
後ろからでもわかるほど琳の腹部からは血がどくどくと流れ出している。
明らかな致命傷、生身の人間がまともに受けて助かる傷ではなかった。
いらぬ邪魔が入った。まるでそんなことを言いたげな様子で化物が触手を引っこ抜くと、その弾みで架純がこちらに倒れかかってくる。
琳は呆気にとられていたが咄嗟に立ち上がり、架純を受け止める。
そうして、架純の顔を覗くと、痛みに苦しむ表情を浮かべていた。
「架純ッ!」
たまらず、呼びかける琳。
「りん……?はは、よかった。無事みたいだね……」
絶え絶えの息遣いで架純がそんなことを言う。
「なんもよくない!どうして庇ったりしたの!?」
「そりゃ、友達のピンチ助けるのは当たり前でしょ……?」
「それで架純が傷ついていたら意味ないじゃん!!!」
琳の言うことはもっともで、霞はそれに何も返すことが出来ず、ただ笑うことしかできなかった。
そうしてる間にも、架純の容態はどんどん酷くなっていく。
「琳……」
弱々しく、架純が震える手を琳の前に差し出してくる。
琳はそれをぎゅっと握り返した。
手をつたって、架純の肌の温度、震えた鼓動。死への恐怖が伝わってくる。
「琳、私たちは、ずっと友達だ……」
言い切る前に架純は力尽きた。
がっくりと項垂れてしまい、途端に琳が支えていた体がズシッと重くなる感覚を覚える。
琳はその、動かなくなった架純の顔を見つめて、ただ茫然とすることしか出来なかった。
ぽつりぽつりと、架純の頬に温かいものが落ちる。親友の死を前に、琳は悲しみを抑えることが出来なかった。
だが、泣いている暇などない。琳は涙を拭い払って視線を化物の方へ戻す。
この間、化物は敢えて攻撃しなかった。彼はいったいどれだけの知能を有しているというのだろうか。琳は仕留め損なってしまったものの、むしろ友の死によって琳から負の感情が再び沸き出すのを期待していたのだ。
架純の体を優しく床に置いて、静かに立ち上がる。静かな怒りがエネルギーとなり、琳の周囲を渦巻いた。
「よくも……」
「よくも架純をッ!!!!」
琳は呪った、今日一日の出来事を。思い出の場所を汚した挙げ句、友の命を奪った憎き化物を。
琳は呪った、普段は心配性なくせして、肝心なところで油断してミスをして、挙げ句の果てに友の命を犠牲にした己の迂闊さを。
私に架純の死を悲しむ資格なんてない。涙を流すことは許されない。こんなもの、私が架純を殺したようなものじゃないか。
ベンチを壊されたときと違い、琳の瞳には落ち着いた色が見られる。琳は静かに、ただ冷徹に化物を睨みつけた。その凄みをまともに受けとめてしまい、化物が一瞬たじろぐ。
琳はゆっくりと銃口を敵に向けて構えようとした。
この時、琳は二つの結論を出していた。一つは感情のエネルギーについて。アプリが言うには、《神》は人間の強い想いを求める。それはどうやらあの化物も同様らしく、これらから言えることは人間の感情というものは想像以上のエネルギーを有している可能性があるということ。
そしてもう一つ、これは戦い方についてだ。
戦いが長引けば、疲れが溜まる。
疲れが溜まれば、謝った判断や油断を呼ぶ。
そして万が一敵を仕留め損なえば、周囲に思わぬ危険が及ぶ可能性がある。
それらを解決する、たった一つのシンプルなアイディア。その答えを琳は見つけ出したのだ。
琳の放つエネルギーが化物に吸われることはなかった。一切を余すことなく自身の銃にエネルギーが注ぎ込まれていく。
「一撃必殺!!!だぁぁぁぁ!!!!」
琳が放った弾丸には、それまでとは比べ物にならないほどのエネルギーが込められていた。眩い光を放ちながら、敵に向かって駆け抜ける。
化物はそれに対抗して見えない壁を貼るが、まるでそんなものなど最初からなかったかのように、銃弾が壁を突き破って見せた。そしてそのまま無数の鉄球が化物を襲う。
「ガァァァァァァァァッ!!!!!」
鳴り響く断末魔、激しくしぶきをあげる鮮血。
それは戦いの終演を意味していた。
化物の最期を見届けると、琳は力尽きたのか、眠るようにその場で倒れた。




