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花に惑いて虫を食い  作者: モトオ


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【ウジムシの挽歌】・3




 かつて正義は十五歳の少年だった。

 その事実を心から疎んでいた。

 いた、ではなく。きっと、今も。




 ◆




 確か、花座横丁の小さな娼館にまだ“ナカゴ屋”という名前が付いていなかった頃。

 ちょうど紗子を売り飛ばして半年、暖かな春の陽気に誘われた、酒でもかっくらいたくなるような日和のことだったと思う。

 弥太郎がふらりと藤吉のところへ訪ねた時、娼館の庭でなにやら作業している年若い男を見かけた。

 男……といっても、十代後半。いっても二十歳くらい。

 そいつは妙に暗い顔をしながら、けれど作業自体はマジメに。何冊もの本を抱えて、建物と庭を行ったり来たり。

 おや、あんな下働きいたっけか。

 知らない顔だったから、何の気になしに声をかけた。


『よう、そこの兄ちゃん。なにやってんだ?』


 紗子との一年にも満たない奇妙な共同生活を経て、弥太郎は蓼虫と揶揄されながらも、多少は落ち着いた女衒稼業を営むようになっていた。

 つまり余裕が出来たのだろう。

 そうでなければ話しかけようとも思わなかった。


『……本の虫干しを、頼まれました』


 だからその青年と交流を持てたのは本当に偶々。

 ちょっと知り合いのところを覗いてみれば、見知らぬ顔が働いていた。

 それを気にするだけの余裕があったから話しかけた。きっかけはごく些細なものだった。


『あぁ、藤吉さんのか。量多いから大変だろ?』

『ちゃんと給金はいただいていますので、それほど負担とは』

『そいつぁマジメなこって。ここで働いてんのか?』

『いえ、今日だけの日雇いです』


 話してみれば、なんとも面白味のない。

 淡々と問われたことだけを返すだけ。けれど彼に興味を持ったのは、そういう“つまらなさ”が理由だ。

 雑談をしている最中も作業は続ける。貰った金の分は働かねば、というところだろう。

 マジメというか融通が利かないというか。花街に出入りする男らしからぬ振る舞いが、違法に慣れ切った弥太郎には珍しいものと映った。


『丁寧だな』

『は?』

『虫干しなんだからそこまで整えて置く必要も無かろうに、きっちりと並べてある。いい仕事振りじゃねえか』

『そんな、大層なことでは』


 指摘されるまで意識もしていなかったようで、青年は何と答えればいいのか分からない様子だ。

 しかしざっと見ただけでも並べられた本にズレは殆どないし、置く際も痛まないようそっと優しく。

 無駄なところに拘って時間ばかりを食うならともかく、こうやって邪魔されていても手は止まらない。

 弥太郎としては、そういう誠実さは評価できる。 


『お前さん、普段は何処で働いてんだ?』

『定職には就いていません。藤吉さんには、こうして時々仕事を回してもらっています』

『ほぉ……なら問題ないか』


 つまり初対面の印象は、“融通は利かなそうだが金を払えば誠実に働くヤツ”。

 無職なら報酬に色を付けてやりゃ、しんどい雑務も押し付けられるかもしれない。


『俺ぁ、蓼虫の弥太っていう、くそったれた女衒だ。もし機会があったら、こっちの仕事も手伝ってほしいんだが』


 これが花座に流れてきた無職の青年、正義との出会い。

 最初は便利な日雇い程度の認識だったが、なんだかんだウマは合ったようで、交流は以後も続いていくことになる。

 

 弥太郎は当時十代の正義を“マサ坊”と呼び、よく気遣った。

 定職を持たず、ボロアパートで貧乏暮らし。生活も苦しかろうと割のいい仕事を回し、時折メシを奢り。

 次第に向こうの態度も崩れてきて、いつの頃から“弥太”と気安く接してくれるようになった。

 

 多分、友人と言っても差し支えのないくらいには、親しいと思う。


 ただ互いに踏み込みはしなかった。

 誠実で良識のある正義は、言葉にこそしないものの、人身売買に良い感情を持ってはいなかった。

 にも拘らず頼めば素直に仕事を手伝う。そこにどのような思いがあったのかを、今もって弥太郎は知らないままだ。

 だいたい彼の人柄ならマトモな生活だって望めるだろうに、定職にも就かず貧乏暮らしをしていること自体がおかしい。

 

 おかしいから、何も聞かなかった。

 花街に流れてきた男が、傷を抱えていない筈がないのだ。




 ◆




「断っておくけれど、僕もそれほど多くは知らないよ」


 正義との出会いは六年ほど前。

 ナカゴ屋で本の虫干しをしていたところに、声をかけたのがきっかけだった。

 よくよく考えてみれば、あれも虫にまつわると言えなくもない。

 ふと、傍らにいる神の娘へ視線を向ける。もしかしたら虫に縁があるのは、りるでなく自分の方なのかもしれないと弥太郎は微かに笑った。


「それに、弥太郎さんの方が彼とは親しいと思うけど。ねえ、りるさん」

「は、い。お二人は、仲良し、です」

「いや二人とも、そういう話じゃなくてな?」


 りると藤吉が結託して、こちらをイジりにきやがった。

 ただ、多分にからかいが含まれているとはいえ、その指摘に間違いはない。実際、正義と一番親しいのは弥太郎だろう。

 しかし詳しいかどうかなら、たぶん藤吉の方が色々と事情に通じている。


「藤吉さんは、昔っからマサ坊に仕事を回してたんだ。少しくらい事情は知ってんだろ?」


 花街に流れてくるような男なんぞ、なにか抱えたものがあって当然。

“だから”なにも聞かないのが弥太郎だ。

 あらゆるものを受け入れてこその花街。過去なんざ問う必要はない、傷があるのならば尚更に。


「まあ、僕は弥太郎さんほど優しくはないから」

「そりゃ、嗜虐趣味だもんな」

「別に趣味じゃないけどね」


 そして、“だから”問うのが藤吉である。

 普段は穏やかなのに、悩める若者には時々ひどく厳しい。彼は昔からそうで、人の痛いところ、心の奥深くを平然と突いてくる。

 本人曰く、「実は、痛みに苦しむ若者を見るのが好きなんだ」。そんな御仁が、隠した傷を見逃す筈がなかった。


「ともかく、ちょいと頼らせてほしいんだ。幽霊兵士と、それを追う正義。どうにかどっちも片付けたいんだが、いかんせん手詰まり。正直、あんま時間も無くてよ」

「でも本当に、僕に話せることは殆どない。彼から聞けたのは、昔はそれなりにいい暮らしをしていたこと。両親が死んで、知人友人も召集されて帰ってこなかったこと。戦争で全部失って、仕事も上手くいかず池袋に流れてきたこと、くらいかな」

「昔話でも聞けりゃあって思ったが、そうそう上手くもいかねえか」


 残念ながら、聞けたのは本当に触り程度。

 十把ひとからげ、一山いくらで売られている、ありきたりな戦後の不幸だ。

 それでも多少なりとも引っ掛かる点はある。

 藤吉の方もちゃんと相談に乗ってくれるつもりのようで、「頼られてこれで終わりじゃ格好がつかないかな」と前置きして再び言葉をを続けた。


「でも、分かることもある。こうやって僕に相談を持ち掛けるんだ。正義さんは、君を頼らなかったんだろう?」

「ああ。一人で深夜徘徊してるよ。俺が幽霊兵士を調べてるって、知っていた筈なのにな」


 初め、弥太郎は居酒屋『こまい』で聞き込みをした。

 その時、偶然正義は居合わせたのだ。

 情報を集めるにも、頭数としても便利な、ちょうどいい人手が転がっている。なのにこちらに接触はせず、一人で動いていたのはつまり。


「なら彼は幽霊兵士の正体に見当を付けている……そう考えるのが自然だね」


 やはり素直に考えればそこに落ち着く。

 では、追う理由は?

 知人友人の類だから。成仏してほしいから。なるほど、“いかにも”な話だ。


「その上で、一人で探しているのなら。何らかの因縁があり、他人には関わらせたくない事情もある。下手に首を突っ込んでも、いい結果にはならないんじゃないかな」


 たぶん藤吉の言う通り、正義は他人を排し、自分だけでケリを付けたいと考えている。

 だからこそ、弥太郎に何も聞かないでくれと懇願した。

 そこに横から余計な茶々を入れても、いい顔はされないだろう。

 件の幽霊も放っておいたところで実害はなく、任せてしまってもいいような気はする。


「俺も本音は放り出しちまいたいんだが、残念ながら、そうもいかないんだよ」

「それは、先ほど言っていた、“時間がない”というヤツかな」

「ああ。どうも今回の件、騒ぎになり過ぎたようで、警察も動いててな。なんと、岩本の旦那もマジメ……ではないが、仕事してる」

「へえ、そいつはよろしくないね」


 そう問題は、今回の件が岩本の依頼である点だ。 

 最初は噂を文書にまとめて渡せばいいと気楽に考えていた。

 ただし状況は、正義が出てきたことで変わってしまった。

 なにせ岩本は『幽霊事件』を解決したいのではなく、警官として『夜間徘徊する不審者騒動』を治めたいだけ。

 とすると、あの性格の悪いくそ野郎は、“鉄パイプ片手に夜の街をうろつく男”を、犯人にでっちあげる可能性が出てくる。

 普通の警官なら有り得ないが、あの不良警官ならやりかねない。

 だから時間がなく、ここで手を引くのもマズい。

 可及的速やかに。正義の話が岩本の耳に届くより早く事態を収束せねばならない。

 それは取りも直さず、弥太郎自身が幽霊兵士の正体を暴かねばならないのだ。


「ったく、厄介な話になったよ。戦後十年経ってんだぞ。その元軍人も今更化けて出なくてもいいだろうに」

「今だから、じゃないかな。犠牲の上の平和にあぐらをかいているのが気に入らない、という話だしね」

「志半ばに散った命にとっちゃ、平和ってのは、そんなに疎ましいもんなのかね」


 状況が状況だけに、理不尽かもしれないが、件の幽霊には文句の一つも言いたくなる。

 地方はともかく、東京の復興は進んだ。

 食べ物は溢れて、家電製品もそこそこに定着して。貧困に喘ぐ人たちも随分と数を減らした。

 せっかく街も人々も立ち直ってきたのに、わざわざ騒ぎを起こさないでほしい。少なくとも、弥太郎はそう考えてしまう。


「いいや。疎ましく思っているのは、本当は正義さんの方じゃないのかな」


 しかし藤吉の一言に、冷や水をぶっかけられたような気分になった。


「平和を憎む軍人幽霊の正体に見当がつくのはつまり、そういうことだろう?」

「……ああ。かも、な」


 僅かな空白の後、固い声で弥太郎は同意する。

二人とも余計な言葉は付け加えなかった。たぶん、心のどこかで同じように感じていたから、然して動揺もない。

 ただ、少しだけ寂しいとは思う。


「大丈夫、です、か?」


 胸の虫が鳴き声でもあげたのか。

心配そう、というには感情の色は薄いが、今迄黙っていたりるがそっと袖口を引っ張る。

 これも成長の証かなと、自然と笑みは零れた。 


「ま、なんとかなるだろ。というか、なんとかしなきゃないけねえよ、俺達みたいなクズはな」


 言いながら傍らの少女の頭を撫でる弥太郎に、藤吉は目尻を下げた。

 玉ノ井に住んでいた頃、戦時中からの付き合いである。未熟だった頃も知っており、そのせいか肩の力の抜けた振る舞いが殊更に微笑ましく見えたようだ。

 とはいえ、父性に満ちた生暖かい視線を送ってくるのはやめてもらいたいものだが。


「弥太郎さんは、根本的に世話焼きだね」

「そんなつもりは全くないんだが」

「にしては面倒見がいいと思うけれど」


 そいつはりるを指しているのか、或いは正義に対しての話か。

 藤吉の性格を考えれば多分『どちらも』が正しく、実際これから余計なお世話をしに行こうというのだから反論もし難い。

  

「否定できないのが辛えなぁ……。仰る通り、しっかり面倒を見てきますよ、っと」


 藁にも縋るつもりの相談だったが、ちゃんと得るものはあった。

 ぼやきながら弥太郎は腰を上げ、藤吉に感謝を告げると、りると共に部屋を離れようとする。


「ああ、そうだ」


 さて、マサ坊のヤツをとっちめにゃ。

 決意というには緩い感情を背負いつつ一歩踏み出すが、しかしその背中を呼び止められた。


「ん、なんかあんのか?」

「先程の話だよ。本を片付けたいから、何冊か貰ってくれないかな」

「そりゃ、タダで貰えるなら喜んで」

「なら、今回の件が終わった後、また寄って欲しい。勿論りるさんや、正義さんもつれて」


 ああ、こういうとこ、やっぱ年上なんだなと思う。

 当たり前のように最上の結末が訪れると疑わない、聞かされたこちらが恥ずかしくなるくらいの、無条件の信頼。

 それを向けられては返せる答えなんて幾つもない。


「そうさせてもらうよ。ついでに、メシの一つも奢るって言ってくれりゃ更に気合が入るぜ?」


 意識して口の端を吊り上げる。

 どうやらちゃんと不敵に映ってくれたらしい。藤吉は満足がいったと言わんばかりに大きく頷いた。


 これでお話は終わり。 

 なら後は、幽霊に、会いに行こう。




 ◆




 かつて正義は十五歳の少年だった。

 その事実を心から疎んでいた。

 いた、ではなく。きっと、今も。


“すすめ一億火の玉だ”


 第二次世界大戦中に掲げられたこのスローガンは、戦意高揚が目的の軍歌のタイトルとしても知られている。

 国民は一丸となり戦勝を掴むのだと、国家は高らかに歌い上げる。

 しかし次第に戦況は悪化の一途を辿り、若者は命を散らし、物資は滞り、大日本帝国は追い詰められていく。


 そういう時世にあって、幼い正義は比較的平穏な日々を過ごしていた。

 父親は戦争の初期に徴兵をされたおかげで、早くに兵役を終えてその後は内地で暮らせた。

 だいたいからして裕福な家庭の生まれ。

 戦時で物資が滞り、食べ物の質は悪くなったが、生活に困りはせず。空襲には怯えても、貧しさに喘ぐようなことはなかった。

 だからこそ申し訳なくも思う。

 もともと真面目な性格をしていた正義は、周囲よりも楽な自身の境遇に、言い様のない肩身の狭さを感じていた。


『兄さんっ』

『やあ、正義君か』


 そんな彼には、兄と慕う人物がいた。

 隣に住む幾らか年上の青年で、穏やかな性格で子供相手でも目線を合わせてくれる彼に、一人っ子だった正義はよく懐いた。

 

『実はね、砂糖が手に入ったから、ぜんざいを炊いたんだ。餅はないけど』

『いいの?』

『うん、美味しいものは分け合わないとね』


 物資の少ない時期に、しかし遊びに行けば快く歓迎してくれる。

 周囲に引け目を感じていたのも理由だろう。

 正義は同年代の友人よりも“兄さん”との時間を優先した。

 そういえば、ぜんざいが好きになったのも、彼にご馳走してもらったからだったか。

 兄貴分の左利きがカッコよく見えて、真似なんかもしたり。

 戦時中、戦況が悪化するにつれ国民も疲弊していき。

 それでも、“兄さん”と過ごす日常が正義は好きだった。


『今は苦しいかもしれない。でも俺達は、一丸になって戦わないといけないんだ』


 同時に、その日々が、少年の人格形成の一因となったのは間違いない。

 穏やかで真面目、誰にでも優しく接し、正直者が救われると信じ。

 努力は尊く、女性を傷付けるのは情けなく。赤貧に耐えるのは美徳で、なによりお国の為に努力せねばならないと強く意識していた。

 そういう“兄さん”の傍で、杓子定規な良識を得てしまったのが、幸か不幸かは分からない。


『僕も大きくなったら、みんなの為に頑張る!』

『うん、正義君はいい子だね』


 ともかくあれ、正義は『仕事はマジメに、他人には優しく、悪いことをしてはいけない』と。

 ごく自然に、正しいものは正しいのだと、誠実な生き方を旨とするようになった。


『お国の為に、行ってまいります』


 そうして流れる緩やかな暮らしは、唐突に終わりを迎える。

 戦況の悪化に伴い、各地で徴兵が活発に行われた。

“兄さん”の下にも召集令状が届き、戦地へ赴けとの命令が下ったのだ。


『……兄、さん』

『泣かないで、正義君。俺はね、死にに行くんじゃない。皆を守りにいくんだ』


 大好きな“兄さん”が戦場へ向かう。

 子供ながらに理解した。……もう、会えない。


『君達のこれからが平和なものとなるように。その為に命を使えるなら、こんなに嬉しいことはない』


 僅かな惑いもなく、振り返りもせず颯爽と、遠ざかっていくその背中。

 正義は見送るしかできなかった。

 終戦当時、彼はようやく十五歳だった。

 戦時中は徴兵制度に引っ掛からないほど幼く、その胸中に関わらず、戦うことを許されなかった。

 だから見送り……見殺しにした。

 結局、終戦後“兄さん”は帰ってこなかった。







 かくして敗戦の後に国民は知る。

 先の戦争において日本は被害者ではなく、敗北した侵略者なのだと。

 それでも、あの頃戦争に向かった若者は、確かに御国の未来の為に身命を賭した筈だった。

 しかし、その尊さも訪れた平和と与えられた豊かさに汚された。 

 敗戦の後、日本は歴史上類を見ない程の好景気、いわゆる数量景気を迎え大いに発展していく。

 皮肉なことに、敗戦してからの方が暮らし向きは良くなっていったのだ。

 勝って平和を求めたのに、敗けて豊かさと平穏を得た。

 ならば、あの戦争は。散っていった命はなんだったのか。


“兄さん”は、なんの為に死んだのだろう。


 勿論それは一個人の見方に過ぎず、戦争の功罪などいくら論じても明確な答えの出るものではない。

 でも幼く視野の狭かった子供には、それが理解できなくて。

 成長してからも、ただただ何も出来なかった後悔だけが正義を責め立てる。



 だから彼は、幽霊兵士の噂を聞いて思った。



“幽霊兵士”は大日本帝国の栄光のため戦地に赴き、しかし無残に戦死した青年の怨霊。

 戦後十年経ち、敗戦の屈辱も忘れ安穏と生きる国民に失望したそいつは、彼ら彼女らに憎しみを抱き軍刀で斬り殺すという。

 そこまで与えられた豊かさを憎むのはおそらく、誰よりも国の為にと願ったから。

 であれば───

 

 過った想像に、胸のざわめきに突き動かされて、正義は夜の花座へと向かう。

 誰にも知られないまま、幽霊兵士の正体を見極めたかった。

 そうすればきっと、胸の疼きの答えも、明確になるような気がしたのだ。





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