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『翔挺兵』上


営庭に飛航艦が地面すれすれに浮いている。


その脇に飛翔艇が並んでいた。



「新鋭の飛航艦です。速力を重視した造りになっとります」



先任曹長はニヤニヤとしながら飛航艦を見上げた。新造艦が配備されるとは思ってもみなかったらしい。


現行の軽飛航艦よりやや小型だ。艦首下部に顎の様な開閉部が有り、今は半ば閉じた形になっている。


これは大気の魔素を吸引する為の開口部だ。速力を上げる際には、この『顎』を開いて大量の魔素を吸い込むつくりになっている。


艦首上部、左右に短砲身の魔導砲が有り、下部の『顎』と相まって魚竜の顔を想わせる。


艦橋は低い。速力重視の為か、艦中央から後ろへ流れる形になっている。大気の摩擦を減らす目的だろう。



「横ッ腹に大砲が無いんだねェ。アタイが相手したヤツはズラッと並んでいたけど」


「説明書によりますと、甲板の『砲塔』を旋回…回して左右に撃ちわけるとあります、御愛妾様」


「…その御愛妾様ッてのは止めとくれ、皆が笑うんだから」


「失礼しました『御愛妾様』」


「軽くムカつく餓鬼だわ」



タラ族の小姓は意に解さずといった顔で、説明を続ける。



「側面…横ッ腹に…」


「側面くらい解るよ!」


「…側面に砲が無いのは推進噴射口が有るからです、場所を取られるので」



小姓の指差す場所、艦の中央に大きな円盤状の突出部が有り、円盾の様だ。


その円盤の後方に噴射口が半ば隠されている。



「あれが回転します。左右の噴射口を上もしくは下に向ければ急上昇・急降下が、左右の片側を前方に向ければその場で旋回…艦がくるりと回ります」


「踊り子みたいだねェ」


「……艦尾に御回り下さい」



つるつる頭の子供の後ろを、将校姿の赤毛と下士官姿の曹長が続く。


艦尾は胴体を真っ二つにされた魚の様だ。


上部に砲が一門、銃座が二門。


下部は魚の腹の様に今は開いている。蓋が有るが開いていた。



「あの開いている場所に飛翔艇を格納…仕舞います。そこの飛翔艇ですね。この為に噴射口が側面に付いている、と」


「つまり飛翔艇を入れる場所に押し出されて横ッ腹に噴射口が来た、それで更に押し出されて甲板に『砲塔』だッけ?…が来たッて訳かい」



赤毛の隊長は腕を組んで暫し瞑目していたが、小姓に胡散臭げな目を向けた。



「…コレ、駄目なんじゃ無ェの?」


「どうでしょう?私は兵器には詳しくありませんので」


「…先任さん?」


「口に出すと実も蓋もありませんが、結果としては良好ですよ。この艦を叩き台にして大型艦の建造予定が出来とります」


「ま、王様が寄越したんだ。がらくたッて事は無いんだろうけどねェ…」



続いて脇にある飛翔艇の説明文をタラ族の子供が読み上げる。


営庭に並んだ飛翔艇は十艇、じきに赴任する飛翔兵は先任曹長を含めて六名。四艇は予備だ、戦が始まる前だからこそ予備が手に入った。


涙滴型の胴体の両脇に魔素吸入口と噴射口が一体化した推進器が付いている。


操縦席は腹這いに寝る格好。推進器の横に折り畳み式の翼が有る。



「コレを広げて飛ぶのかい?」


「いえ、翼は減速用でして。浮遊紋で浮きますから飛ぶ際には翼を使いません」


「はぁ~ん?んじゃあ、このまんま飛ぶのかい…」



けッたいな代物だ、と赤毛は頭を掻いた。いまいちピンときていないらしい。


飛翔艇の前面には魔導銃が、下部には長砲身の砲塔が付いている。


説明ではこの砲塔は爆裂紋が刻まれた弾を撃ち出すという。


火力は有るがその代わり弾数が少ない。三発しか積めないらしい。



「これがこの前言ッてた『爆装』ッてヤツかい?」


「その通りであります隊長殿」


「でかいけど…敵の飛翔艇には当たらないよね?飛航艦にぶち込む用?」


「それもありますが、対地にもいけますな」


「対地…地面に撃つのかい?なんで?」


「………軍用施設、飛航艦の建造工房などを壊す為では?御愛妾様」



タラ族の小姓が口をはさむ。


それくらい解りそうなものだ、軍事に明るくない自分でも気が付く。小姓はそう思った。



「…なぁ、小僧ッ子。なら工房だけじゃ無くて要塞だとか…いッそ敵の王宮にぶちかましたらいいんじゃないの?」


「小ぞっ…要塞や王宮を抜くには火力が足りません。それをするには弾数を増やすか、もっと大口径の…大きな弾が必要です」



赤毛は少しの間飛翔艇の周りをうろついて、操縦席の中を覗き込んだり、しゃがんで船底にある砲塔を触ったりしていた。


興味自体はあるらしい。


飛翔艇は、謂わばチベ族と競合する代物である。


チベ族の女達は生活の為に飛んでいる訳だが、飛航艇が全盛となれば、自ずと先細りになる。交易で運搬出来る量の桁が違う。


飛航艇の最たる物が飛翔艇だ。巨大な軍用飛航艇──飛航艦──に群がって攻撃する戦法は、赤毛以下チベ族部隊──翔挺兵──が行おうとしている戦法とかぶる。


現行では一般的な白髪のチベ族相手でも速力で負けている飛翔艇だが、何らかの技術革新があればチベ族の優位は失われるだろう。


そして戦は技術革新を易々ともたらす…



「…アタイ等、必要なのかねェ?」



思わず口をついた言葉に、曹長が答えた。



「飛翔兵科の者としましては、相手にしたくないのがチベ族ですな。隊長殿にこう云ってはナンですが、チベ族は無茶苦茶です」


「…そうかい?アタイ等にしてみりゃ、『地べた民』が空飛ぶ方がよっぽど無茶苦茶だけどねェ」


「はっはっはっ!『地べた民』とは、なかなかの表現ですな」



『地べた民』という言い回しはチベ族だけで使われている。要は迫害されているチベ族が、他部族に少々の優越感を味わう為のものだ。


多分にひねた感情からくるものではあったが、曹長は気に入ったらしい。



「明日中にこの飛航艦の乗り手と飛翔兵が来るんだね?」


「はい隊長殿」


「じゃあ一つ、度肝を抜いてやるとしようか…小僧!皆を呼んどくれ。歓迎会の準備をするッて言いな!」



また小僧と呼ばれ、憤慨しながら営舎に向かう小姓の後ろ姿を、赤毛はニヤニヤしながら眺めていた。




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