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『対決』下

────────


爆発音が続けざまに起きた。


神殿の天井からバラバラと建材の破片が落ちて来る。



「な?何事…」



爆発音が収まると今度は天井を叩く様な音。


いや、叩いてるのではなく、蹴り付ける音だ。しかし建材が頑丈なのだろう、穴が開く事は無かった。



フイイイイイイ



あの甲高い音がまた聴こえてくる。



ドゥルルルルル!

ドゥルルルルル!

ドゥルルルルル!



建材の一部に風穴が連続して開き始めた。まるで円を描く様に風穴が繋がっていく。


ベキベキと天井に大穴が開いた。



そこから顔を出したのは…



「ピンク色!」


「ゲホッ…煙てぇな…よお!」



赤毛の副長である桃色がひょっこりと顔を出した。



「んだよ、まだ片付いて無ぇのかよ?アンタらしくも無ぇ」


「馬鹿!アレ見ろ、『魔力封じ』だ。弾が撃て無ェんだよ!」



桃色は赤毛の指差す祭壇を見た。


『魔力封じ』があっては“サイレン”は唄わない。桃色の位置から撃っても魔力弾はすぐに融けてしまうだろう。



その時、桃色の横からニュッと長い銃身が出て来た。



「ぅお!?ちょ、ちょっと待て」


「……待たない」



タアア…ン!



銃身から独特な発射音が響いた。



「…隊長?もう回せるでしょ?」



桃色に続いて条髪が顔を出した。


条髪の狙撃銃は…魔導弾では無い。



実体弾である。



発射された弾は『魔力封じの紋』を撃ち、その薄い石板には見る間にヒビが入っていく。



フイイイイイイ…



甲高い回転音が神殿に響き渡る。



「馬鹿な、いくら壊れたとはいえ、神殿内には魔素など…」



神官長が青くなった。


当然である。長期間『魔力封じ』のなされた神殿に魔素など有りはしない。


天井に多少穴が開いているとしても、そこから入る魔素の量などたかがしれている。



しかし現に魔導銃は回転を始めた。


見れば赤毛の背中から赤い翼が伸びている。



その光の翼の一端が、多銃身回転式魔導銃の吸引口に吸い込まれていた。



「まぁね。部屋に魔素が無くッても、こちとら自前の魔力があるからねェ」



赤毛はニタニタとソバカス面を歪ませながら、一歩足を踏み出した。



「で、だ。アンタ等、アタイの情夫マブにちょッかい掛けといて……タダで済むと思ッてんじゃ無ェよな?」



フイイイイイイ…



隣国の国王、神官長、衛兵と神官、裏切り者の貴族の一党……



全員が真っ青になる。


神殿の中には武器の類いは持ち込み禁止であるからだ。


赤毛独りに…いや天井の二人を数えても三人に二十人程が抑えられている。



「へ、陛下ぁ!一大事です!」



そこに神殿の脇の扉から衛兵が一人駆け込んで来た。



「ほ、報告します!敵襲!敵国飛航艦が王都上空に…」


ドオオオン!


ドオオオン!


ドオオオン!



衛兵の報告が終わらぬ内に爆発音が立て続けに起きた。振動が神殿まで揺らす。



「な…ここは内陸だぞ!?何故飛航艦が…」


「やッぱ頭固ェな、王族貴族ッてのは。使えるモンは使うだろ普通」



赤毛の言葉に若者は大声で笑った。



ドオオオン!


ドオオオン!



(これは…外は酷い有り様であろうな)



ひとしきり笑った後、若者は祭壇の誓約書を二枚纏めて持った。



隣国の国王と神官長の目の前で、ビリビリと破いて捨てる。



「さて、新しい誓約書が必要であろうな。申し訳無いが、この要求は呑めぬ……そうそう、其処な裏切り者の処断もせねば…」



ドゥルルルルル!



“サイレン”が唄った。



「…そなた、案外気が短いな?」


「国に連れて帰ッてもどうせ処刑するんだろ?運賃の削減ッてヤツさ」




────────


その後続けて起きた事象には、特筆すべき事はほぼ無い。



王都上空を制圧下に置かれた隣国は、屈辱的とも謂える内容での和議を結ぶ破目となった。


大陸の三分の一を接収され、責任を取らされた隣国の王はその後退位を余儀なくされた。


『陛下御愛妾様付部隊』は王を救出し、一路本国へ向かうと反乱分子を一掃した。


これにより、若き国王の兄弟姉妹を政争の糧として磨り潰した貴族達は全員政治の舞台から降りる事となった…永久に。




やはり愛妾は一種の狂人であったのだろう。


彼女によって本来なら小競り合いで終わるはずだった戦は、蓋を開ければ恐ろしい結果となった。


それは隣国のみならず、近隣諸国にも影響は波及し、その後行われた戦の様相を一変させたのである。



飛航艦はもはや海のものでは無くなった。が、同時に衰退を辿る。


飛翔艇の性能向上と『翔巣艦』の開発により、従来の飛航艦は消えていった。



“サイレン”多銃身回転式魔導銃は、製造コストの高さと運用の難しさ──主に重量面──により、レキ族一般兵には支給されなかった。


翔挺兵──チベ族の女──が扱えたのは高い魔力で重量を軽減していたからである。


チベ族の地位向上により翔挺兵は次第に縮小し、解散した。彼女等にとって戦の理由が無くなったからである。



その後、魔導銃の連続暴発事故をシステムに取り込んだ『連射機銃』が開発された事も“サイレン”が普及しなかった要因の一つであろう。


『連射機銃』はコスト面にも重量的にも優れていた。難を挙げるとすれば“サイレン”程の連射速度が無かったが、それは些末な事であった。



“サイレンの唄”は幻となった。




国王は生涯正妃をめとらず、チベ族の愛妾一人のみを侍らせた。


近隣諸国は国王と愛妾の二人が亡くなるまでの間、戦を仕掛ける事は無かった。





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