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『軍港』下

────────


隣国大陸南側。


この海岸線には軍所有の停泊地──軍港──があった。



規模は然して大きくは無い。


位置的に南側から直進した場所には国家が存在出来る規模を持った陸地──浮遊大陸──が無いのだから軍港としては利便性に欠ける。


しかしながら地形的に悪い訳では無く、この一帯が国王の直轄地でもある為、軍港が作られた。


もっと利用価値の高い港は貴族が重飛航艦を停泊させている、という側面もある。



軍港はかつて無い程に賑わいをみせている。


現在停泊中の艦は九隻。


それぞれに日夜補強改修がなされていき、物資が山の様に軍港に届く。



「十隻目が来たぞ」


「整備の済んだ艦はもやいを外して海上に停泊させろ。港があふれる」



飛航艦がゆっくりと移動する。そうして桟橋を空けた。


桟橋から移動した艦はそのまま投錨して止まった。乗組員は小舟を使って往き来しなくてはならない。



「やっと半分か……まだまだかかるぞ」


「なんともゴツい眺めじゃないか、これが倍になるんだからな」


「これだけ艦が並ぶのは、この港始まって以来だ」



忙しく港で働く男達は、静かに並ぶ艦の姿を時おり眺めてはまた仕事に戻っていった。


この倍の数が一斉に七島諸島へ進攻する。


敵国『陛下御愛妾様』なる人物は、古式ゆかしい戦の作法を無視して、蜂が群がる様に艦隊を全滅させた。



ならばこちらも数で圧す。



城砦等の攻防は地の利・城砦の堅牢さを加味すれば防衛側有利である。


とは云えそれは砲の無い時代の話であり、飛航艦をこれだけ並べて魔導砲を撃つならば、城壁を崩すのは容易い。


喩え敵が蜂の様に群れて来ようとも、この数は抑え切れまい。



やはりあの全滅戦は戦の転換点であった。




────────



「皆に言ッておくよ、今度の戦いじゃあアタイ等翔挺兵に損害……平たく言や死人が出る。よほど上手くやらなけりゃあね」



翔挺兵の女達がズラリと並ぶ前で、赤毛はそう言った。



「ギリギリまで飛ぶな、銃の回転もだ。使うのは煙幕弾じゃない、爆裂弾だ。扱いに注意しとくれ」


「こいつが上手く行きゃあ、敵さんは大打撃だ!気張って行くよ!」



桃色が全員に発破をかける。



「先任さん、頼んだよ」


「お任せ下さい。きっちり送ってみせますよ」



赤毛は先任の乗る飛翔艇、その上に張り付く様にしがみついた。


改修され、もはや補給艇では無く『翔巣艦』の第一号と呼ぶべき飛航艇、その発着扉が開く。その向こうに空が広がる。



真っ暗な夜空が。



先任の操る飛翔艇が発進した。


更に彼の部下達の飛翔艇が次々に飛び立つ。


その背中にチベの女達を乗せて。



全飛翔艇が隊列を組むと、眼下にある目標へ向けて急降下を開始した。




────────


軍港の灯は消えていた。


いや、幾つかの灯は点っている。それは当直の兵や軍港の夜番の為であり、大多数の者達は寝静まっていた。



ズラリと並ぶ飛航艦。


港に備わった補修の為の工房。


幾つも並ぶ倉庫。


倉庫に入り切らず港のあちこちに山積みとなった物資。



闇のなか、それらが一斉に火を噴いた。



爆発音。爆発音。爆発音。爆発音。爆発音。


倉庫が燃える。


工房が燃える。


そして軽飛航艦が燃える。


山積みの物資が噴き飛ばされ、更に炎をばら蒔いていく。



「なんだ!?」


「何が起きた!?」



寝惚けまなこの男達が兵舎から現れた。


深夜の港は既に火の海に包まれている。



「火事だ!」


「火を!火を消せ!」



フイイイイイ…

 ドゥルルルルル!



兵舎から出て来た男達に、“サイレン”が唄いかける。


海の底、地獄の炎へいざなう唄を。



ドムッ!…ドムッ!…ドムッ!



遠く響くのは停泊している飛航艦へ撃ち込まれる爆裂弾の音、“サイレンの唄”の伴奏だ。


炎に照らされた夜空に飛翔艇の姿が映し出される。旋回しては尚も飛航艦へ爆裂弾を撃ち込んでいく。



チベ族の光の翼は夜には目立つ。


その独特な飛翔音もあって夜間戦闘に向くものでは無い。



それ故に考えられた飛翔艇との連携攻撃であった。




────────



「損害は?」


「翔挺兵は三人、飛翔艇四隻…帰って来て無い」


「……そうかい」



仕方無い。赤毛はそう割り切るしか無かった。


大軍で襲われたら七島防衛陣地がもたない。


それ故逆にこちらから出向き、敵の艦が結集する前に叩いた。


その判断に誤りは無い、現に砦防衛で出るだろう損害の試算からははるかに少ない。


しかしやはり損害はうまれる…



「おい!一艇戻って来たぞ!」



誰かが叫んだ。見れば飛翔艇が一艇、その背中に一人翔挺兵の姿もあった。



「……ありがてェ。着艦準備!急げ!」



損害は翔挺兵二名、飛翔兵三名となった。




────────



「なんだ……これは?」



軍港に着いた軽飛航艦の乗員達は惨状に目を疑った。


彼等の艦は十一隻目として到着したのである。



朝日が差す軍港は煤煙に包まれている。


未だ沈み切らぬ飛航艦の残骸が海上に顔を出している。


波間を漂うのは破片、艦の一部だったものだろう。



桟橋に停泊をした十一隻目から乗員達が降りていき、港を偵察する。


倉庫群、兵舎、工房……


全ての建物が、或いは焼け落ち、或いは噴き飛んでいた。


辺りにもうもうと立ち込める煙、あちこちに未だ火がちらちらと燃えている。



銃撃されたらしい兵達がそこかしこに転がっていた。



「……夜襲?」



報告を受けた艦長はすぐさま軍本部へ伝令を出した。


艦橋からの眺めでも判る。集積された大量の物資が燃え尽きている事が。



「作戦は………無理だな」



作戦の為に集結命令を承けた艦は二十隻、その半数が海に沈んでいる。


港入りをする順番が一つ違っていたなら、この艦もああなっていたであろう。


残りの艦が集まっても、もはや作戦は不可能だ。


集積されていた物資は全て灰になった。艦を更に集めてみたところで物資が無ければ行動不能だ。



「ここまでやるか……」



艦長は戦慄と共に呟いた。




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