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『罠』上


七島防衛陣地東島。


ひねりの無い名前ではあるが、砦のある中央島に次ぐ土地面積を持つ。


平坦な地形と相まって、東島は木々を伐採し飛航艇の発着場として利用されている。


発着場を見渡せば二隻、それぞれ『踊り子』だの『古いの』などと勝手に呼ばれている飛航艦の他、飛翔艇の群も分散されて着陸停泊している。



そんな中にいつもは見馴れない重飛航艦が停泊していた。



「んだよ、随分ゴツいのが来てんじゃん?」



先程、哨戒警備を引き継いだ桃色が、上空から重飛航艦を見下ろした。


左右両舷からそれぞれ十五基の魔導砲が突き出ている。


砲撃区画の上、銃兵区画には備え付けの銃座があり、また、今は扉を閉じているが、直接敵艦へ乗り込む為の突入口が見える。


甲板には銃兵が立哨していた。



「……なぁんか、いけ好かねぇな」



それは重飛航艦の威容からか、立哨の兵の物腰からくるものなのかは解らなかったが、桃色は鼻を鳴らすと共に哨戒していた翔挺兵の娘とその場を飛び去っていった。




────────



「……という事で、一つよろしくお願いしたい。御愛妾殿」


「なるほど…解りました。では長旅でお疲れでしょう、部屋をご用意します」


「いや結構。我輩ばかり休む訳にも参りませんからな、では失礼」



初老の貴族が立ち上がり、隊長室を後にした。


今の男がどうやら重飛航艦の持ち主であり艦長らしい。


暫し後、貴族を見送りに行った小姓が戻ってきた。



「御愛妾様、見送って参りました」


「お疲れさん、悪いけどお茶煎れてくれるかい?肩ぁ凝ッちまッたよ」



タラ族の小姓は自分の主人に茶を差し出しながら言った。



「やろうと思えばちゃんと話せるじゃないですか、いつもそうして下さい」


「ゴメンだね!今のは面倒そうな相手だッたからだよ、それより今の話だけどさ…」



先程の貴族は、主戦場への敵増援隊が小規模ながら集結しつつあり、これを協同して叩く旨を打診してきたのである。



「…まずはあの御貴族様は何者だい?」


「…そこからですか。あの御方の家は先王陛下御側室を輩出……出された家ですね、あの御方の妹君が御側室様でした」


「なぁ?愛妾と側室と何が違うのさ?」


「………御児を産んだら側室。そう覚えていればよろしいです」



小姓は面倒臭そうにそう言った。かなり乱暴な説明ではある。


側室は第二夫人という位置である。愛妾はそれより格下にあたるが児を産めば側室に格上げ、という事を言っている訳だ。



「んじゃあ、ダンナの親戚かい」


「ダンナって……あの御方の妹君が産んだのは陛下の妹君にあたります。腹違いですよ、親戚というには…微妙ですね」



『陛下の妹君』と聞いて赤毛の目が細くなる。



「……じゃあ、姪ッ子は死んだのかい、可哀想にね」


「まぁ、そうですが、陛下の兄君がお亡くなりになったのはあの御方の仕業との噂です」



それを聞いてから暫くの間、赤毛は机の上に足を投げ出し、憮然とした表情で腕を組んでいた。


なんともはしたない、と小姓は思いながら茶のお代わりを煎れていた。


への字口が更にひん曲がり、眉をしかめている。赤毛が考え事をする時の姿だ。



「なぁ小僧、つまりあの爺ぃはダンナの敵なんだな?」


「まぁ、そうなりますかね?貴女の考え方で云えば。今は陛下に自分の娘を売り込んでいる様ですから、どちらかと云えば『貴女の敵』でしょう」


「アタイの敵かよ?…お互い子供を産みゃあそうなるかい」



それで、と彼女は続けた。



「あの爺ぃ、何を狙ッてると思う?」


「御愛妾様はもう考えに到ったのでは?」


「答え合わせさ、言ッてみな」



やれやれと小姓は思った。


この赤毛の主人は読みが鋭い。しかし王宮や貴族に関しては知識が足りない為に、こうして小姓の言葉を訊こうとする。


小姓にしてみれば言質を取られる様で厭なのだが。



「………集合地点に敵は居ないでしょうね、恐らくは」


「だろうねェ」




────────



「補給艇をいじくるのかよ?儂らは船大工と違うんじゃぞ?」


「なぁに、難しい話じゃ無いのさ。すげェ簡単な図面で悪ぃけどコイツを見ておくれ」


「………ふぅん、要は中の仕切りを取っぱらやいいんだな?」



図面とは名ばかりの雑な絵を見て、工房の老技師は唸った。


この絵は赤毛の描いたものである。


かなり乱暴な図面と云えたが、老技師には伝わったらしい。



「しっかし、お前ぇさんも変な事を思い付きやがる。だがまぁ、理屈だな」


「爺さん、どんくらい掛かるね?」


「なぁに、大した細工じゃ無ぇ。二日もありゃ終わる」


「助かる。じゃあ頼むわ」



赤毛は工房を出ると遊戯室へと向かった。


煙草の煙が濃く漂う遊戯室に三人の艦長が卓を挟んで談笑している。


兵達がカード遊びに興じていたり、軽食を摘まんでいる間を縫って赤毛は艦長達の許へ着いた。



「おぉこれは我等が隊長殿、珍しいですな?こちらにお越しとは」


「ちょいとアンタ等に用があってね、今いいかい?」



それから暫くの間、四人が頭を突き合わせる様に何事かを話し合っている姿が見られた。



「おや?皆さんお揃いですな。何かありましたか?」


「先任さん、丁度いいアンタも交ざッとくれ」



更に時が過ぎ、話し合いが終わる。



「……そんな訳なんだが一応訊こう、アンタ等どうする?抜けるッてんなら仕方無ェ、他のテを考えるけどさ」


「いや、それしか無いでしょうな」


「左様、むざむざやられる訳にはいきません」



先任と『踊り子』の艦長が言い、他の二人も同意する。



「…悪ぃね、アタイの下に付かされて貧乏クジを引かせちまッた」


「そんな事はありませんぞ?私の飛航艇が陽の目を見れるのですからな」



補給艇の艦長は笑いながら答えた。




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