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『防衛戦』上


それに気付いたのは条髪と共に哨戒飛行をしていた翔挺兵の娘だった。



「姐さん、あそこ、なんか光りませんでした?」



条髪は『姐さん』と呼ばれて少し気分が悪かった。


どうにも隊のガラが悪い。自分達チベは田舎部族だから口が少々悪いのは仕方無いにしても、ガラが悪いのはどうかと思っている。


新兵がだいぶ増えたのだから、軍人らしくとまではいかなくても口の聞き方は気を付けてもらわないと。そんな事を一瞬考えた。



条髪の両目に紅白の光輪が広がる。


視野が拡大する。更に光輪を前方に伸ばすと逆に視界が狭まり遠景が目に近付いてくる。



「………見えた。飛航艦…軽飛航艦三隻、他に……飛翔艇?飛翔艇らしきもの多数、十艇以上。隊長に報告急げ」



普段喋らない条髪も、さすがに口から言葉が出た。


飛翔艇の数ならこちらが有利、翔挺兵も併せれば更に有利ではある。


しかしそのほとんどが訓練途中の新兵だ。戦闘に出すのは躊躇われる。



(隊長はどうするつもりかしら……)



独り空に浮かびながら条髪は待った。




────────



「じゃあ艦長さん方、手はず通りに頼むよ」



『踊り子』などと称された新鋭艦と工房の改修をなされた旧式艦が発艦準備に入る。



「陸戦部隊は所定の配置にお願いします。翔挺兵・飛翔兵の皆さんは『誘い込み』を。気を付けて下さい」



小姓が紙束を片手にそれぞれの確認にまわる。軍事は解らないなどと日頃口にしてはいるが、事務方としての仕事には余念が無い。



「小僧ッ子、弾の補給は大丈夫なのかい?」


「翔挺兵の何人かを伝令に回して下さい、補給線を確保出来る様に」



七島の防衛構想は出来ており、訓練に時間をかけていた。



「本格的にぶつかるのは初めてだな」


「小僧ッ子、ここは任せたよ。アタイ等は狙撃屋と合流するからね」




────────


「艦長、物見より伝令!島影を確認!」


「発光信号!『二番艦・三番艦は敵飛航艦を相手にせよ。我は砦に進む』復唱の要無し」



発進前に打ち合わせた通りの予定行動ではあるが、今一度確認させる為の信号であった。



『飛航艦一隻ごとに六艇ほどの飛翔艇を随伴し、事に当たる』


『一騎討ちという形で敵飛航艦を足留めし、残る旗艦で砦を攻める』



要約すればこの様な作戦であった。



「発光信号!『飛翔艇一艇を伝令として後方待機とする』復唱の要無し」



戦は何が起こるか解らない。


残した飛翔艇は、もしもの時に本部へ戦闘の子細を報告させる為に待機とした。



「物見より伝令『軽飛航艦一隻、右方島上部に見ゆ』」




────────



「どうだい狙撃屋、敵さんの様子は?」


「………三方に別れるみたい」


「やッぱりね。なんだッて男どもは一騎討ちが好きかねェ?」


「ま、こっちにしてみりゃありがてぇよ」


「………一隻づつに飛翔艇が何艇かついてくるわ……あ」



『あ』と言った次の瞬間、条髪は長大な銃を構えた。


背中のみならず、両足からもそれぞれ光の翼を生やす。身体のブレを減らす為だ。



「獲物が居たかよ」


「シッ、黙ッてな」




タアア…ン!




狙撃屋と呼ばれた娘が一度だけ弾を撃った。



「………後は大丈夫」


「何がだよ?」


「…………判らなければ別にいい」



条髪の娘は長銃を仕舞うと小振りの銃に持ち替えた。




────────



「一隻は居たが、もう一隻は…何処だ?」



旗艦の左方に位置した艦の艦長は、自分の相手を探した。


島はもう目の前である。当然迎撃に向かって来るはずの敵は、未だに見え無い。



「島の裏側かもしれませんな」


「うむ…旗艦へ発光信号『我、左方へ進軍、敵艦捜索に当たる』以上」



島の何処から来ても良い様に、艦は水上スレスレへと高度を下げた。


飛航艦は船底が弱点だ。船底の装甲が薄い訳では無く、下方への砲座が無いからだ。


その弱点を補うべく、水上スレスレの高度を取る。



「艦長!敵艦発見!島の下にいます!」


「馬鹿か?身動き取れまい!よし、飛翔艇!敵艦を攻撃せよ!」



天井がつかえる様な位置だ。そのまま進むよりも、小型な飛翔艇を先行させるのが良い。


艦の砲など当たるまい、飛翔艇は小型過ぎて大砲では狙えるものでは無いからだ。



六艇の飛翔艇が間抜けな敵艦へ突っ込んでいく。



ドッドッドッドッ!



敵艦のこちらに向けていた左舷から、魔導砲とは違う発射音が連続して響く。



「なんだと!?」



たちまちのうちに三艇が撃ち落とされた。


尚も発射音は響く。



「しまった!飛翔艇の対応策を既に…!」



敵艦は飛翔艇を誘引する為に、狭い空間を敢えて戦場に選んだのだ。


何一つ出来ず飛翔艇は全て撃墜された。




────────



「さて、一騎討ちといこう」



水上スレスレに滞空していた『踊り子』は、考え無しに突っ込んで来た飛翔艇を撃墜した。


赤毛達が使っている回転銃の大型版を新しく装備されていたのである。発射間隔は長いが、数を揃えていた。


敵艦が上下に狭い回廊へ入って来る。着水。艦橋を島の底に当てない為にはそれしか無い。



「さぁ!『踊って』みせろ!右舷噴射口逆転!敵艦を砲に捉えろ」



ぐるり。



踊り子が爪先立ちで回る様に、艦がその場で回転する。


通常の飛航艦は船の横腹に砲がある。しかし『踊り子』は艦首に有った。


正面から突撃する敵艦は、攻撃の為に弧を描かなければ砲がこちらに向かない。



「砲撃放て!敵艦を正面から外すな!」




……一方的な砲撃戦となった。




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