表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/39

『魔導銃』下

────────


魔導銃には二種類ある。


一つは赤毛や桃色達が使っている形式。


吸引口から大気中の魔素を取り込み、圧縮魔素を弾として撃つもの。


この形式は弾を創るのみならず、飛航艦や飛翔艇の推進機構など利用方法は多岐に渡る。



今一つの形式は『条髪』の持つ実体弾を撃つもの。


魔導砲の機構を小型化したもので、金属の弾を撃ち出す形式である。


魔素弾と違い一度に携行出来る弾数や発射頻度に難があるが、魔素弾が発射後急激に融解する為射程が短いのに対して、より長射程を狙うのに適している。




条髪の娘は重みのある実体弾を、腰に着けた弾箱から摘まみ出し、銃身に差し込む様に入れた。


条髪の片目に魔力が集まり赤と白の光が多層の輪になって浮かぶ。


遠視の魔法だ。翼に比べてさほど使われる事の無いものだが、彼女のこれのお陰で部隊はいち早く敵艦や浮遊島の砲台などを発見している。


チベ族はなにも空を飛ぶだけが能では無い。


自前の魔力でそれなりの事が可能だ。ただしタラ族やレキ族の使う各種魔導紋の方が使い勝手が良いだけである。


当然、武器──魔導銃──に関しても、自前の魔力で攻撃魔法を使うより楽に当たる。


チベ族の攻撃魔法は例えて云うなら『爆弾を力一杯手で投げる』感覚だ。火力はあっても、飛ばず当たらずといった具合。



条髪が魔導銃を構える。


彼女の銃は特別製だ、工房の老技師謹製のそれは彼女の背丈にほぼ等しい銃身の長さがある。


構えた銃身に沿って片目に展開した光輪が一つ一つ前方に伸びていき、筒状になる。まるで銃身が二つになった様だ。


視界が狭まり、敵艦の側面に並ぶ砲門の一つが視野一杯に広がる。


口を開けた砲門とそこから顔をだす砲身、その間にある隙間…




タアァァ……ン!




条髪の銃口から実体弾が発射された。


銃口付近の空気が加熱で揺らぐ。


筒状に伸びていた光輪を元に戻すと、彼女はまた弾を籠める。



魔導銃を構えると、また光輪を伸ばした…




────────


それは突然の事だった。



飛航艦内部、砲撃区画での出来事である。



チィィ…ン!



金属を軽く叩く音がしたと思った時、同僚が急に倒れた。



「…ぅ、うわぁ!?」



誰かが叫ぶ。


倒れた同僚の、耳の辺りから上が消えていた。


天井近くが血に濡れている。貼り付いていた肉片が一拍置いて…ぺちゃり、と床に落ちた。



「な!?何が起こっ」


チィィ…ン!



声は途中で途切れた。


どさり。そいつが倒れる。今度は首から上が無くなっていた。



「て、敵襲ぅ!」


チィィ…ン!



まただ!


あの何か金属を軽く叩く音がして、また一人倒れた。


一体何が起こっている?



チィィ…ン!



その時見た…見えた。


砲門から伸ばした魔導砲、その砲身に小さな傷が出来るのを。



「跳……弾…!?」



まさか?砲身に弾を撃って、その跳ね返りでこちらに当てているのか!?



「砲門を、砲門を閉じろ!早く!」



ガタガタゴロゴロと砲台の車輪を押して砲身をしまい込む。



チィィ…ン!


「ぐえっ!」



しまう途中で一人が胸を撃たれた。


バタン!…バタン!


砲門の蓋が閉じられていく…



「た……助かった」



見渡せば、血の海だった。



そして気が付いた…


…砲撃が出来無い。



「敵襲!敵襲うぅ!」




────────



「敵襲!敵襲うぅ!」



伝声管から響く声。



「敵襲だと?どこだ!?」



艦橋は騒然となった。


艦橋の風防ガラスに覆われた視界には、敵艦の姿は何処にも見当たらない。


伝声管は砲撃区画からのもの。砲撃区画は視界が狭過ぎて通常は敵襲を発する場所では無い。



「砲撃、どういう事だ?何があった?」


「判りません!砲兵達が狙撃されました!右舷…右舷からです!」


「右舷だと!?」



艦橋に居る全員が右舷に目をやった。



空には厚い雲の天井。




「何処だ?……何処に…」




ピシリッ!




風防ガラスに小さな、小さな穴が開いた。



どさり……



艦長が倒れた。額から、目の上が吹き飛び、肉片や眼球が後方へ撒き散らかされる。



「ぅわああぁぁ!」



艦橋に悲鳴が響く。



その時だった。


雲間を抜けて幾つかの光が、『左舷』から現れたのは。



「は、反対側!?」


「いかん!砲撃、いや乗員、海兵部隊!甲板に上がれ!」



艦橋は艦長が突然戦死した為に指揮系統が一時混乱してしまった。


ぐんぐんと近付く翼。



「ふ、副艦長!右舷より敵艦!急速に接近!」


「ど、何処から!?…雲か?」



厚い雲を突き抜けて右舷上部より敵艦が現れた。



「砲撃、砲撃を!」



だが、右舷の砲門は全て閉じている。


例え砲門が開いていたとしても、既に砲兵を半数程も倒された砲撃区画はまともに機能出来無かっただろう。


ぐんぐんと近付く敵飛航艦、その姿は従来見る型とは違う。


正面砲二門が火を噴いた。


甲板が噴き飛び、大穴があく、敵艦がそのまま船底に潜り込む。


真下からの砲撃三斉射、震動が艦橋まで揺らす。



ギギギベキベギベキベキベキ……!



艦が割れる……割れていく…


敵艦は船底から左舷へと急浮上しながら抜けて行った。


艦橋にいた者、砲撃区画にいた者、甲板で抵抗していた者。等しく艦と共に海上に叩き付けられ、そして沈んでいった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ