第2章 細川忠興「運命」
初夏の陽射しが頂点を過ぎ下り始めていた。
光秀の右にわたしと未来は庭に敷かれた毛氈に並んでいた。そして、私達の正面に知的な中年の武将と端正な面持ちの青年の武将が、涼しい顔で着座していた。
光秀は姿勢を正し、
「さて、厳しい戦の中、このような茶会を催すのは不届きと騒ぎ立てる者もあるやも知れぬが、殺伐としたこのご時勢こそ、自分を見直し、心を落ち着かせる為に、時間にゆとりがあっても良いのではないかと思いまする」
そう光秀が言うと、二人の武将は静かに一礼して、光秀の言葉に同意の念を表した。
「さりとて、礼儀作法に振り回されていても、つまらぬこと。この場に於いては、皆同じ友人として、楽しいひとときを過ごそうではございますまいか」
光秀は笑顔で言った。
そこで、二人の武将が、
「ごもっともでござる」
と、言って再び一礼した。
頭を上げたとき、すでに二人とも元の涼し良い顔に戻っていた。
「さて、まずは自己紹介からですな」
中年の武将が言った。
「それでは、私から各々方をご紹介申し上げまする」
光秀は珠緒と未来を武将達に紹介した。
「こちらの、方々は異国より参られた、五十嵐珠緒殿、仁科未来殿でござる。本日は、私のたっての頼みで、ご参加戴きました」
「よろしく、御願いします」
光秀の紹介により、私と未来は一礼した。
次いで、光秀が二人の武将を紹介した。
「こちらが、私の旧友の細川藤孝殿、隣が藤孝殿のご子息の忠興殿でござる」
「細川藤孝でござる。よろしく、お頼み申す」
「忠興でございまする」
二人は順番に挨拶をした。
忠興が一礼して頭を上げたとき、私と目が合った。
わたしは思わず視線を外してしまった。忠興は「あっ」と言いそうになって口を開けたが再び静かな表情に戻った。
私はその忠興を見て、ドキっとして肩をピクッと震わせた。
光秀は藤孝に、
「毛利軍との小競り合いは、藤孝殿もご存知でござろう」
静かに言った。
「聞くところによれば、ついに敵陣に食い込みなされたとか」
「はい、その口火を切ったのが 、珠緒殿、未来殿でござる」
「なんと!」
「それはそれは鮮やかでござった。逃げると見せかけて敵の騎馬を誘い出し、十分引き付けておいて爆音にて撹乱。手綱の利かぬ暴れ馬に崖道も手伝って、敵の指揮は乱れに乱れ、当軍勢は一気に敵陣に切り込めたのでございまする」
「お見事!」
藤孝は持った扇子で自分の膝頭をポンッと叩いた。
「い、いいえ。そんな・・・・・」
わたしは返答に困ったが光秀は笑っていた。
「明日は京にて、中四国の平定に向け信長様と軍議を行う事になっております」
「いよいよですな。信長殿は一気に西を攻め立てまするのか?」
「はい、なにせ、やると決めたからには、妥協はされませぬ」
「厳しい御方ですな」
「いやいや、和睦に応じさえすれば無益な殺生はされませぬ」
「巷では、比叡山の焼き討ちなど、些か不満を唱える者も存在するようだが・・・・・」
「お気の短い御方ですので、牙を剥けば串刺しにされるのです」
「そうでなければ、この世の頂点には立てぬのだろうか?」
「さあ、いかがなものでしょう・・・・・」
光秀は目を伏せた。
「せっかくの茶会で、わたくしも長話が過ぎましたかな。それでは、一服進ぜよう」
光秀は微笑んで膝の向きを変えると、支度を始めた。
抹茶を茶碗に落とすと、光秀の指は茶杓の柄をなでるように滑る。とても戦乱の世に生きる武将とは思えない手さばきに、私はうっとりと見とれていた。
クイクイッ。
未来が肘で私を突く。
「な、何よ!」
「しらばっくれて・・・・・」
意味深な表情で私を見る未来。
「何の事?」
「忠興さんって、珠緒のタイプでしょ?」
未来が言うと、私の頬は紅く染まった。
未来が呆れた顔で、
「珠緒って、超~判りやすいわね!」
「な、なんだか、暑いよね・・・・・」
そう言うのが精一杯の私だった。
茶碗が藤孝の前に差し出された。
藤孝は、茶碗を胸元に運ぶと静かに三度廻して一口飲んだ。茶碗を胸元に戻し一度廻して床に置くと、忠興の前に滑らせた。
忠興は、一礼して茶碗を取った。
次の瞬間、私と忠興の目が合った。
ゴトッ。コロコロコロッ・・・・・。
茶碗は忠興の手から滑り落ち、私の前に転がってきた。
「これは、とんだご無礼を!」
忠興は、初めての失敗に、。
「大丈夫ですか?」
私はポケットからハンカチを取り出して、零れたお茶を拭き取った。
忠興は茶碗を取ると、光秀の前に差し出し、
「ご無礼の段、ご容赦下さいませ」
と、詫びた。
「いやいや、お気にめさるな。先程、申しましたように、楽しい一時を過ごせればそれでよいのです。お気遣い御無用でござるよ」
光秀は、やさしく言葉を返した。
クイクイッ。
再び未来の肘が、わたしを突く。
私は眉間にシワを寄せて未来を見た。
「な、なに?」
「忠興さんに、何か言ってあげなよ!」
未来が小声で言う。
「何で、私が?」
「しらばっくれちゃって」
「何も思ってないわよ」
私は否定したが、紅く染まった顔では、無駄な言葉になった。
光秀は次の茶の支度にかかっていた。
「皆さんはどのようなご趣味をお持ちなのですか?」
未来は、少し首を傾げて可愛く質問を投げ掛けた。
藤孝が、チラッと光秀を見る。
「この藤孝と光秀殿とは趣味が合っておって、碁や詠、骨董など多くの共通した趣味がござる。時には、投扇や蹴鞠もしたものだが、歳を重ねてくると蹴鞠は少々身体に堪えまする。のう、光秀殿」
藤孝はそう言って笑った。
「これは心外。確かに私と藤孝殿は共通の趣味は多いのは事実でございますが、身体の衰えまで一緒にされては堪りませぬ」
光秀は悪戯小僧戯な表情で藤孝に言った。
「いやいや、光秀殿こそ軍師としての評価が高い分、近頃では城や戦場本陣にて指揮を取られ、めっきり運動不足になっておられるとのこと」
「これは参りました。藤孝殿、意地が悪うござるのぅ」
「悪くなったのは、足腰だけでござる。心は琵琶湖の湖面のように輝いておりまするぞ」
藤孝の流暢な言葉はとまらない。
「クスクスッ」
私と未来は、冷静なイメージの光秀が、タジタジになっているのを見て笑ってしまった。
「ごめんなさい」
と、私は慌てて繕った。
「いやいや、お気にめさるな。これがいいのですよ。これだから、藤孝殿との時間は楽しいのでござる」
光秀の言葉に、藤孝の存在がやすらぎのようなものを感じさせている印象が伺えた。
私が藤孝を見ると、彼は微笑んだ。
「珠緒殿、未来殿。はてさて、光秀殿は私の事をを過大に評価しているようだが、戯れ言を述べているだけで、これといって意味などないものばかりでござる。じゃが、このような戯れ言に意味があるとすれば・・・・・」
藤孝はそう言って軽く空を仰いだ。
「そうじゃのぅ、例えば、武士は刀を持っている。剣の道をどうのこうの述べたところで、所詮は人を傷付ける道具と誰もが解釈する。しかし、言葉はどうであろう。一言で、相手心を傷つけることも出来れば、和ませることも出来る。お解りかな?」
「は、はい」
私と未来は笑顔で返事をした。
戦国の世においては、領地や家督問題で親兄弟の間でも戦いがあった。同盟を結ぶ為に、婚姻と称して隣国に姉妹や娘を人質に送ることが当然のように行われていた。光秀と藤孝は、そんな殺伐とした時代の中で、本当の人としてやさしさや楽しさを忘れないようにしているのだと、私は思った。
「なんだか、とっても素敵ですね!」
未来が、光秀と藤孝を交互に見て言った。
「未来殿、からかうのは止めて下され」
藤孝は恥ずかしそうに言った。
「ところで、光秀さんと藤孝さんでは、碁の勝負をしたらどちらがお強いんですか?」
未来が意味深げに聞いた。武将に対して、わざわざ「勝負」という言葉を使ったところに未来の意図があったことに、私は気が付かなかった。
「碁の勝負では、どちらがお強いんです?」
念を押すように聞く未来。
「勿論、わたくしでござる」
「私の方が強い」
光秀も藤孝も自分の方が強いと主張した。
「忠興さんも、碁をなさるのですか?」
未来は、忠興にも話を振った。
「は、はい・・・・・」
忠興の返事は中途半端な者だった。
「なさるもなにも、忠興はまだまだ基本も出来ぬド素人。勝負になりませぬわ!」
藤孝はそう言って大きく笑った。
「藤孝殿。そのような言い方は、忠興殿にお気の毒でござる。忠興殿はいい筋をしておらるまするぞ」
光秀が言った。
「忠興さんがお得意な事は何ですか?」
未来は再び忠興に聞いた。
「そ、そうですね、得意と言うには大袈裟ですが、詠が好きです」
忠興は、控えめに言った。
「そうですな、忠興殿の句には我々でも一目置くところがござる」
「光秀殿、忠興が調子に乗りまするで、あまり持ち上げられては困りまする」
忠興は、光秀の言葉を否定はしなかったが、親としては一応謙遜しているようだった。
「忠興さんは、俳句を読むのがお得意なんですね。ヨカッタ~」
未来は満面の笑みで言った。
私には未来の考えが解らない。
未来は、
「私は碁が好きなので、是非、光秀さんと藤孝さんの勝負を見たいんですが、この珠緒ときたら碁に全く興味がないんですよ」
「ちょっと、未来何を言っているの?」
「いいから、いいから」
私を躱す、未来。
「それでですね。忠興さんに御願いがあるんですけど・・・・・」
「何でしょう?」
「光秀さんと藤孝さんが碁の勝負をしている間、珠緒に詠を教えて欲しいのですよ」
「未来、勝手に・・・・・」
「いいですよね!」
未来は、私に会話をさせないで、忠興に念押しする。
「は、はい」
忠興は、勢いで承諾をしてしまった。
カツッ。カツッ。
静かな庭園に、光秀と藤孝の打つ碁石の音だけが響く。私と忠興は、池に架かる石橋の上を歩いていた。
二人とも、未来の意図的な構図に乗せられてしまった事を理解しているために、お互いを意識して会話の切っ掛けが掴めなかった。
「あ、あのぅ。未来が・・・・・すみません・・・・・」
と、私が切り出した。
「はい・・・・・」
とりあえず、返事をする忠興。
「未来が強引で、ご迷惑をかけてしまって・・・・・」
「い、いいえ。私がこれまでに接してきた女性達は、控えめすぎて自身の意見を述べられようとはしません。自身の意見を述べられる女性は輝いている者です」
忠興は力強く言った。
「そうですか。未来が聞いたら喜びますよ。私なんか全然ダメですし・・・・・」
「そんなことは、ありません!」
「えっ?」
「あっ、いや、珠緒殿は未来殿よりは控えめではござるが、瞳の奥に真の心の強さのようなもを感じまする」
忠興は、そう言いながら珠緒の瞳をジッと見た。私と忠興は、そのまましばらく見詰め合っていた。
カツッ。
碁石の音が響いて我に帰り、二人は互いに視線を外した。
「あ、ありがとう・・・・・」
私は素直に返事をした。
「た、珠緒殿」
「はい」
「光秀殿と質問が重なるかもしれませんが・・・・・」
「何でしょう?」
「お二人は・・・・・。珠緒殿はどこから参られたのですか?」
「どこ?どこからとは、非常に説明しにくいところです。しかし、私達は、遭難者で自分達の力では帰る事が出来ないのも事実です」
「いずれ、お迎えが参られるのか?」
少々不安気に問い掛ける、忠興。
私は左右に首を振った。
「迎えなどありません。今すぐにでも、戻れるかもしれませんが、もう一生戻れない可能性もあります」
「・・・・・」
聡明な忠興でも、私の言葉が理解できなかった。
「どうご説明したらいいのかな・・・・・。例えば、普段は波の穏やかな浜辺があったとします」
「はい」
「仮に、台風があって流木が勢いよく打ち上げられました。台風が過ぎ去ると元の穏やかな波に戻る為、打ち上げられた流木には波は一切届きません。この流木が再び海に戻る為には、同じような台風や強風で、流木に届くほどの大きな波が必要になります」
「つまり、流木が珠緒殿、海が珠緒殿のお国と言うわけですでね」
「そうです。打ち上げられたのが、カメなら自力で海に帰ることも出来ますが、流木は自らの意思で海に戻れない・・・・・」
「今すぐにでも戻れるかもしれないし、永遠に戻れないかも・・・・・」
途中まで言って、忠興は失言に気が付いた。
「珠緒殿。申し訳ござらん。無責任な発言をしてしまって・・・・・」
忠興は、慌てて訂正したが言ってしまった事は仕方がない。私は自分では分かってはいたが、この時代に来て間もない今、戻れない」という可能性を簡単に認めたくはなかった。
「い、いいえ。確かに忠興さんの言うとおりかもしれません。戻れる可能性ばかりを考えていてこのまま戻れなかったら、今の環境の中で生きていくことを真剣に検討しなければならないでしょう」
「この忠興に、何かお力になれる事がございますか?」
忠興は、私の心境を察して気遣ってくれた。
私は、やわらかく微笑むと、ゆっくりと首を横に振った。
「忠興さん、ありがとう。ただ、自分達でもどういう経過で、ここにいるのか全く見当がつかないんです。ご助力を御願いしようにも、原因が解らない以上、御願いしたくても出来ないんです・・・・・。早く帰りたい・・・・・」
私は最後に本音を呟いてしまった。
「・・・・・」
何も言えない忠興。
二人の間に、沈黙の時間が流れた。
「忠興さんっ!」
「は、はい」
忠興は慌てて返事をした。
「クスクス・・・・・」
「・・・・・?」
「そんな深刻そうな顔をしないで下さい。私達の問題なんですから」
私は笑顔でそう言った。
「珠緒殿のお悩みは、私の悩み同然です」
「はっ?」
「あっ、その・・・・・。こうしてお近付きになった以上は、これも何かのご縁でございます。私は珠緒殿とのご縁を大切にしたいと思っております」
「忠興さんって、本当にいい人なのですね」
「そんなことはありませんよ。父にはいつも頼りないと言われております」
と、忠興は知りすぼみのトーンで言った。
「それは、この時代が戦国の世であるからでしょう。忠興さんは戦はお好きですか?」
私は忠興の気持ちを聞いた。
「いいえ。出来れば戦などしたくはありません。私にとって戦は無駄なこと。しかし、何かを守る為に、戦う事を恐れはしない。護るものとは、愛する者、家族や細川家の名前、そして家来やその家族や領民たちです」
忠興の言葉に、私は深く頷いた。
「足利将軍家が権勢を振るっていた頃が穏やかな時代だったのかも知れませぬ・・・・・。今やその足利家の力が無きに等しい状態になり、足利家を担いだ信長様は大義名分をもって諸国を平定しようとされておられる。しかし、近隣諸国の反応は冷たく、織田傘下に入ろうとする国は著しく少ないので、各地で激戦しておるのでございます」
忠興は不安定な情勢を私に説明をした。
「細川家はどうされるのですか?」
「細川家は、いや、我が父は御家を守る事を第一と考えております。それは、先程も触れましたが、細川家を護る事は、家臣やその家族も護る事なのです。信長様の元ならそれが出来ると信じています」
「信長さんって、どんな人なのですか?」
「とても聡明で、柔軟なお考えを持ち大胆に実行される御方です。私にとって、兄のような伯父のような存在なのです」
私達は庭園を周って、庭園を見渡せる屋敷の棟の近くに来ていた。
私は忠興に促され、広縁に腰掛けた。
カツッ、カツッ。
光秀と藤孝の打つ碁石の音が、リズミカルに続いている。
「珠緒殿。万に一つ。万に一つの話ですが、戻る事ができなければ行く宛てはございまするか?」
「いいえ。私達は昨日はじめてこの地に来ました。そして、初めて逢った人が光秀さんなのです。行く宛てなどありません」
私はうつむいて返事をした。
「ならば・・・・・」
忠興は、何か言おうとして詰まった。
「はい?」
私は、忠興の顔を見て返事をした。
忠興はゴクンッと唾を飲んで、
「ならば、珠緒殿さえよろしければ、私の元に身を置かれませぬか?」
と、力強く言った。
「えっ!」
私は忠興の申し出に、自分の耳を疑った。
「勿論、未来殿も一緒にでござる」
「で、でも、そんな急に・・・・・。忠興さん、とても嬉しいお申し出、有り難う御座います。ただ、光秀さんにもご相談しなきゃいけませんし、藤孝さんのお許しも戴かないと・・・・・」
私は嬉しかったが、戸惑いもあった。
「光秀殿でしたら快くご了承下さいますでしょう。父上には私から必ずお許しをいただきますのでご心配には及びません」
「・・・・・」
私の心配は至る所にあった。
①元の時代に戻れるかどうか?
②再び別の時代に飛ばされるのではないのか?
そして、このまま、この戦国時代から戻れ無いとして、
③光秀の元で暮らすのか?
④他の武将の元で暮らすのか?
⑤武将以外の人の元で暮らす、又は自力で生活をするのか?
⑥得体の知れない者として、命を奪われてしまうのか・・・・・。
歴史に介入してはいけない。歴史を変えてはいけない。この時代に残る事になれば、明らかに歴史に介入することになる。否、もう既に私と未来がこの時代に存在し、光秀や忠興らと接触したことが、歴史に介入したことになるに違いない。
私が歴史の一部なら、私にも歴史に存在するだけの権利があるはずだ。それが許されないのなら、他の時代に飛ばされても許されるはずが無い。存在が許される場所は、私と未来がいた元の時代だけのはず。
歴史を変えようとすれば無理な力が働き、元の時代に戻れるかもしれないと一瞬思った。
「珠緒殿、珠緒殿」
忠興の声に、私は我に帰った。
「如何なされた?」
「い、いいえ、何でもありません」
忠興の元にいれば、安全に過ごせる可能性が高い。しかし、光秀から離れると、時代の変化の中心から、大きく離れてしまう。残れば命を危険にさらす事にもなる。
「忠興さん、本当に有り難う御座います。初対面の私達にそこまで言って下さるなんて、どれだけ感謝しても感謝しきれません。ただ・・・・・」
「ただ?」
「ただ、今後のことについては、私一人では決め兼ねます。未来ともじっくり相談したいので、少々御時間を下さい」
私は忠興と目線を話さず、ハッキリと言った。
「わ、解りました。珠緒殿、未来殿ご自身で進むべき道を御決め下さい」
「ありがとう、解ってくれて感謝いたします」
忠興は、そう言って微笑んだ。
本当に、私達の選択できる道が存在するのかどうか、私は忠興の言葉を噛み締めた。
今はまだ、忠興との深い絆を感じてはいなかった・・・・・。