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闇の光~灰色の希望~  作者: 熊公
1/1

闘争1

西の防壁が蒸発した。そんな知らせが入ったのは“先読み”が接敵を予言してから一時間後のことだった。人類の敵・悪魔どもと公国西側の防壁で接触したのだ。


「予報は外れたな。中等魔程度ではさすがに西は蒸発しないぞ」


夜色のコートを着込んだ青年が面倒そうに言う。老女がそれを鼻で笑う。


「もう年だね。後任に任せて隠居しようかしらね」


「笑わせるな」


コートの青年が可笑しそうに笑う。人類を守る防壁の一つが蒸発したというのに、彼らは特に気にした風ではない。

この老女ほどの精度で悪魔の接近を予言できる術者は全人口に対して2%にも満たない。21億人の全人口から考えれば数は居るはずだが、予言者のほどんどは己の能力を知ることなくその一生を終える。


「伝令、それだけか」


「か、閣下! 防壁の蒸発ですよ!?」


「だからどうした」


青年はその危険性を正しく理解しない。飛び込んできた伝令の男と、青年の決定的な意識の差だ。青年にとっては特に驚くことではない。西の防壁程度、自分でも容易く蒸発されられるからだ。


「行っといで。さっきのは魔法だよ、坊主」


意地悪な笑みを浮かべた老女は青年を見やる。そんな老女の姿に青年は肩を竦め、一つ溜息を吐き出す。


「あの国王(おっさん)、さっそく話が違うけどどうしてやろうかな」


先ほどまでのやる気のなさそうな雰囲気はどこへやら、いつの間にかからかうような笑みを湛えて天幕を後にしていた。







場所は変わって最前線。兵士たちは隊列を組み、魔法障壁を展開していた。その後方からは雷の矢が天を覆いつくさんと降り注ぐ。敵の攻勢が弱まる。そのまま引き下がってくれと願いつつ、前線指揮官・ランドは声を上げる。


「各小隊、状況報告!」


「ロンド隊、まだいけます!」


「カーサ隊、負傷者一名! 後衛に回します」


「レイン隊、……ランド殿! 後方より念話を受信、ガラット卿が出陣されました!」


その言葉が前線を支える急ごしらえの塹壕に染み渡る。指揮官のランドは二ッと笑って声を張り上げる。


「卿の到着まで気を抜くなよ! むしろ、今から卿に無駄足踏ませるつもりでかかれぇ!!」


鼓舞するように声を張り上げ、疲労で震える体に鞭を撃つ。……いや、震えているのは疲労だけが原因とは言い難い。なにせ、敵の中に明らかに魔法を使いこなす悪魔がいるのだ。中等魔程度の知能では魔法が扱えないことは確認されている。ならばそれ以上の悪魔が敵に居るということだ。


しかし、そのレベルの化物を斃すには一般の兵士では不可能だ。今はもう蒸発してしまったが、ここにいる兵士の本来の役目は、防壁に仕込まれた魔法増幅術式を使った戦闘。それが無いとなると、小隊規模で仕留め切れるのは連携の度合いにもよるが10体程度の下等魔がせいぜいとなってしまう。


敵の放ってきた魔法が塹壕の近くに着弾する。土煙が上がる。


――今だ!


そう確信したランドは剣を振り上げて、立ち上がる。


「伏せろ」


その声とともに灰色の髪を頭の後ろで乱暴にまとめただけの男が、夜を纏って降り立った。

……衰えたなぁ

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