第5話:楽しい講義1
「それじゃぁ、お兄ちゃんに世界征服の法則について教えるね」
「よろしくお願いしますよ桜先生」
桜に裏社会のことについて教えてもらおうとしているわけだが
何故か桜は白衣に伊達メガネと博士ルックに着替えている
椿の真似なのか、形から入る癖でもあるのか分からんが
サイズが合わないでダボダボの白衣とか普段は掛けないメガネとか
色々萌え要素が追加されて、いつも以上に可愛いな
思わず抱きしめて、お持ち帰りしたくなるところだ
ってここは俺の部屋なわけだから、すでにお持ち帰りしているが
「まずさっき言ってた『ヒーロー協会』についてだね。これは読んで字の如く、たくさんのヒーローが相互協力を行うための組織なわけだけど、昔はこんなの無かったの。でも、お父さんが地球にきて、秘密結社を次々傘下に収めるようになってからはヒーローも個人や1グループで活動するのは難しくなっちゃった。そこで『ヒーロー協会』が設立されてお父さんの作った巨大秘密結社に対抗しようとしたの」
「桜の親父さんって意外と良い仕事してたんだな」
「お母さんがいなかったら、今頃は世界征服を完了していたと思うよ。お父さんが引退した後は組織はまたバラバラになって、結局ヒーロー側だけが協会の設立によって優位に立った形になってしまったの。だけどね、当時お父さんがヒーロー協会と交わした約定は今も有効なんだよ」
「約定か・・・」
そういや、さっきのクモ怪人といい、何か行動に無駄が多かった気がするし、何らかの制約を受けているようにも感じたな
「約定の内容はものすごく長いんだけど、重要な部分を抜き出すとこんな感じ」
1.秘密結社は無差別テロ等の大規模被害作戦を行わない
2.秘密結社はヒーローの変身中に攻撃しない
(変身に時間のかかるヒーローは変身してから登場すること)
3.秘密結社はヒーローがポーズを決めている間に攻撃しない
(ヒーローは長すぎるポーズを自重すること)
4.秘密結社が人質を取った場合には人質に危害を加えない
(作戦終了後には返還すること)
5.双方とも作戦中以外の時間に攻撃を行わないこと
(正体が分かっても家まで押しかけたりしないこと)
6.双方とも相手の本拠地への直接攻撃は禁止
(本部以外の支部に関しては攻撃することができる)
7.双方とも一度の作戦に派遣できる怪人・ヒーローは1組までとする
(戦隊なら1戦隊、ライダー系は同組織内のみ複数人派遣可能、怪人は1回1体まで、戦闘員の参加は無制限)
8.双方とも一般市民には自分達の存在を隠すこと
(怪人やヒーローが本当に存在するということをなるべく知られないようにすること。双方に関りのない者に関しては記憶消去等の情報操作を行う)
「こんなところかな。本当は他にも100個くらい決まりがあるけど」
「そんなにか? それじゃ制約ばかりで双方まともに動けんな」
「でも、この条約で双方が得をしてることは確かなんだよ。秘密結社と戦隊ヒーローじゃまず組織力が全然違うの。ヒーローは国がバックに付いてたりして、中小結社じゃ太刀打ちできないことが多いけど、この約定があるおかげで完全消滅は避けられるし、倒しても倒してもヒーローが派遣されてくることはないから、例えば・・・ほら! さっきのクモ怪人、もしあそこで勝てればヒーロー側はそれ以上ヒーローを派遣できないから身代金を払う以外に方法がなくなるってわけ。」
「あそこで緑を倒せても残り4色がきてタコ殴りだっただろ」
「数の上では戦闘員を無制限で使える結社側が有利のはずなんだけど、戦闘員を揃えるのにも莫大なお金が必要になってくるから、お隣さんみたいな小さい組織だと難しいかもね。もしもヒーローを完全に倒せなくても撤退に追い込めばOKなんだよ。一度撤退したら再出動は2組目にカウントされちゃうからね」
「お互いにそれは分かってるから最後まで殺り合うことは稀ってわけだな」
「特にヒーロー側は数が少ないからね」
「じゃあヒーローは何が得なんだ? 変身をゆっくりできるとか?」
「それもかなり大きな部分を占めてるけど、一番重要なのは家でノンビリできるってことかな。ヒーローの正体なんて簡単に調べがついちゃうから、昔は大変だったらしいよ。特に家族が誘拐されたり自宅が爆破されたり」
「なるほど。要するにお互いが奇襲をできないように約定を結んでいるわけだ」
「あとは大規模戦争を避けるって意味合いもあるね。下手したら第3次世界大戦に突入しちゃうから」
「1組ずつがルールのある戦場で正面から戦ってれば戦争にもならないか。ほとんどスポーツの世界だな」
「スポーツの世界っていうかスポーツなんだけどね」
「はぁ?」
「帝国貴族の間では侵略はスポーツの一種なの、だから賭け事なんかに利用されたりするわけなの」
「じゃあさっきの約定ってのは・・・」
「帝国式スポーツ侵略のルールブックだよ」
「・・・この組織だけが緩いわけじゃなく世界がユルユルだったか」