第31話:起動『GG』
地球付近へワープアウトした俺達を待っていたのは
いきなりの『乱戦』であった
周囲を敵味方が入り乱れ
ビームとミサイルが雨霰と飛び交い
無数の光の玉が生まれている
だがあの光の中で何万という命が失われ続けている
そう、ここは戦場なのだ
「着いて早々どうなってやがる!」
ワープアウト後にいきなり戦闘状態に陥り
俺も含めた全員が混乱状態にあった
こんな状態じゃまともな隊列も組みようがない
「全艦隊に迂闊な攻撃は避けるように通達しろ、同士討ちになる」
「閣下、この場は一時離脱を」
「解っちゃいるが・・・どっちに動くか」
突如目の前のメインモニターが切り替わり
よく知る女性のアップが表示された
「遅い!!!」
「第一声がそれかよ、椿。あと旗艦をハッキングして通信を割り込ませるのはやめろ」
「貴方が遅いせいで大変なことになってるのよ」
「何でこんな事態になった?」
「それに関しては私から説明を」
「菫か・・・久しぶりだな」
「ええ、本当に」
最後に見たのは3年近く前だったか?
3年前とは違い、今の菫からは王としての気迫と覚悟を感じる
良い指導者になれているようだな
「敵がこの宙域にワープアウトするのは解っていたから、地球軍艦隊で奇襲攻撃をしかけたの。最初は成功して敵に大打撃を与えられたのだけれど・・・戦闘中にレノン王国艦隊が、さらにルビゥム王国艦隊までワープアウトしてきてしまって」
「この辺じゃワープアウトできそうな場所がこの宙域しかないしなぁ・・・」
正確に言えば
惑星間を結ぶワープポイントは他にもあるが
通常航行で移動する時間が最短なのはこの場所だ
敵も味方も同じことを考えた結果
大渋滞が発生してしまったわけだ
「船の衝突による撃沈も後を絶たないし、これ以上被害がでる前に決着を付けないと」
「一旦全艦隊をこの宙域から脱出させればいいんだが。撤退中に背後から撃たれる可能性が高いな」
「要するに相手の動きを鈍らせればいいんでしょ? その間に敵味方に分かれて陣形を整えなおすと、簡単じゃない」
「簡単ってなぁ・・・どうやって敵艦隊を止めるつもりだ?」
「このポイントにいる敵旗艦を撃沈してやれば指揮系統に混乱を招くことができるわ」
MAPに印が表示され
敵旗艦の情報が表示される
敵旗艦は乱戦の中央に位置していたが
戦闘には巻き込まれておらず
周囲を多数の味方に守られていた
「あれか・・・俺がGWの単機突撃をかけて撃沈してこよう」
「そんな! 危険です閣下!!!」
「おいおいキャリー、俺を誰だと思ってる? あの程度なら楽勝さ」
「せめて残存艦隊を盾にギリギリまで接近してからにしてください」
「今この戦いであまり被害を大きくはできない、敵の数は予想以上に多いし、旗艦を落としても敵が全滅するわけじゃないんだ」
「だからと言ってGW単機では、あの守備を崩すことはできません、接近する前に落とされます」
「心配無用よ!!!!!!!」
「何だいきなり」
「んふふふふ〜 こんなこともあろうかと、GW用の強化パーツを開発しておいたのよ!!! 名づけて『Gユニット』」
「ほう・・・っで『Gユニット』のGは何の略なんだ?」
「好きに解釈しなさい」
「またそれか・・・」
「と・に・か・く。Gユニットを装備することでGWはGGに強化されるわ。内部に搭載された何だかよく解らない機関のおかげで戦闘力は鰻上りよ」
「ちょっと待て、何だその『何だかよく解らない機関』ってのは」
「さぁ? 御祖母様から渡された動力機関ってだけで解析もできなかったブラックボックスだし」
「皇帝陛下が?」
「御祖母様は私と同等かそれ以上の科学者なのよ。御祖母様が作った物なら間違いはないから大丈夫よ」
「・・・とにかく、強化されるならそれで良いだろ」
「んじゃ、敵旗艦方向に射出しておいたから後はよろしくね」
「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」
先に射出されたGユニットを追い
GWで旗艦から発進した俺は
Gの力を覚醒させる
『機械』『生物』『魔法』
3つの力が一つになり
真なるGの力が発現する
それに呼応するかのように
GWもまた、新たな姿へと進化する
まるで新たなGの進化を見越していたかのように
その姿を変えたGW
それは機械でありながら生物のようであり
動力機関で動いていながら魔法の力で宇宙を飛ぶ
「前回の進化の時もそうだったな。久しぶりに暴れるぜ、相棒」
乱戦を続ける艦隊の隙間を縫うように飛び
すれ違いながらも敵への攻撃は忘れない
機体から無数に飛び出したミサイルは
敵艦の装甲に衝突すると同時に魔方陣を展開し
装甲内部へとその力を発現させ敵艦を爆散させる
衝突ギリギリコースで飛び交う敵艦は
黒き翼を突き立て、切り裂く
正面に群がる敵艦からのビームを黒球の1撃にて掻き消し
開いた穴から突破したその先に
黒い巨体がそこにいた
「これがGユニットなのか?」
それはGWを巨大化させたような姿
俺はGWの指示する通りに機体を接触させ
GW後部にGユニットを装着させた
「新しい武装に、加速性能の向上・・・なるほど、これなら」
新しい力『Gユニット』により強化されたGWは
これまで以上のスピードで戦場を切り裂くように飛ぶ
敵艦隊はGWの動きに反応できずに通り過ぎるのを許し
追いすがるミサイル群も置き去りだ
混戦宙域を突破し
いよいよ敵旗艦の前へと近づいた、その時
目の前に『壁』が出現した
「うぉっと!!!!!」
旗艦を守るべくキューブと化した敵艦隊が
文字通り壁となって立ち塞がっていた
各艦が全力で前方に火力を放ってくるので
接近しようにも集中砲火の的にしかならない
大見得切って出てきたのはいいが
これはスピードだけじゃ突破できそうにないな・・・
『GWBモードからGGモードへ』
「何だ? こんなデーターは貰ってないぞ、何処からのデータだ?」
『Gユニット動力機関起動。データリンク』
「動力部に隠されていたデータだっていうのか!?」
動力はともかく機体自体は椿が作ったはずなのに
何故皇帝陛下は椿すら知らない機能を?
「何だか知らんがとりあえずやっとけ!!!」
『GG起動』
敵艦隊の砲撃を回避しつつ急上昇したGWは
その姿を劇的に変化させる
GWがGユニット内に格納され
変わりに飛び出したのは『頭部』
機体左右からが『腕』に変形し
後部ブースターの一部が『足』に変わる
先ほどまで戦闘機だったGWは
完全な人型起動兵器へと姿を変えた
これがGWの、Gユニット真の姿
『GG』
『変形完了』
「宇宙空間で人型って・・・意味あるのかよ」
「意味ならある」
「おおぅ!?」
突然女の声が聞こえてきた
ちょっとオカルトな気分だったが
聞いたことのある声
「皇帝陛下!?」
「うむ。私はアシェリー=レノンの人格情報のコピー、『破壊神の器』を管理するものだ」
気がつくと
俺の肩の上には小さな少女が一人乗っていた
桜に似ているが髪や瞳の色は確かに皇帝陛下のものだ
「何で色々な意味で小さいんだ?」
「むぅ! つっこみ所はそこか」
「『破壊神の器』の情報は封印したはずなのに、何で完成しているのかも次くらいに気になるな」
「うむ、それはだな、アシェリーの受け継いでいたデータも桜が受け継いでいたデータと同じ、『破壊神の器』に関する物だったからなのじゃ」
「んで、何で小さいんだ?」
「しつこいのぉ、汝は! 創造主たるアシェリーが自身の幼少の頃に我の姿を決めた、我はその理由を知らぬ」
「まあ、コックピットであんま大きくなられたら邪魔だからいいけどな」
「姿は変えられずとも大きさは変化できるぞ、ほれ」
突然アシェリーの姿が大きくなって俺の上に覆いかぶさってくる
近くで見るとやっぱ可愛いなこいつ
大きくなったら皇帝陛下になるわけだし
「解ったから元に戻れ」
外の映像は直接脳に繋がっているので邪魔になるわけじゃないが
なんとなくムラムラしてきて戦闘に集中できないので肩に戻ってもらった
「さて、『破壊神の器』は破壊神の力を解放するための装置だ、正確には動力ではない」
「何だってそんな物騒な物を『白き人』は作ったんだ?」
「『破壊神の器』を使わずに力を解放すれば汝の心は崩壊し、再びこの世界に破壊神が生まれてしまう。器の中であれば汝の心は守られる」
「そんな便利な物があるなら早く渡してくれればいいものを」
「今の汝でなければ使いこなせん代物じゃ、それとて我なしでは暴走の危険があるのじゃぞ」
「今丁度あの壁を崩したかったところなんだ、宜しく頼むぜ」
「任せよ」
今までと何かが変わったという感覚はない
だが融合状態のGGは俺の体に等しく
直に宇宙遊泳をしているような気分だ
そして体のサイズ
宇宙空間では解りにくいが
GWとGユニットが合体変形して形成された体と考えると
今の俺は巨人ということになる
そして最後に・・・
「ゆくぞ! 『破壊神の器』起動!!!」
起動したからどうなったかって?
何も変化はないさ
だが
今まで限界だと思っていたアクセルが
実はもっと踏み込めると解った時のように
俺の中で限界という文字が消失する
自身の腕の一振りで世界が滅ぼせるような感覚
「今日のところはこれで十分じゃろ」
アシェリーが器の大きさを調整し
俺の感覚は普段の数倍調子が良い程度に落ち着いた
これが『器』の力
力そのものに成ってしまうかのような感覚
今まで力を求めてきた俺だが
力を得ることにより自身を失う恐怖を始めて味わうのだった
「やるぞ」
GGが駆動し
その眼光が鈍く光る
背中のからは光の翼が開き
緩やかに、だが激しく
目の前の壁に向かい突進してゆく
壁からの集中砲火を回避
できない物はGアーマーを発生させて弾く
この体は俺の体
GにできてGGにできないことはない
「おぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」
突き出した拳から重力場が発射される
壁となっている艦の1隻が『殴り飛ばされ』
グシャリを曲がって爆散する
「魔剣召喚!」
「うむ!」
シュレーディンガーの腕輪と同じ効果をアシェリーが発生させ
目の前に現れたのはGG用の巨大な『黒翼』
それを握り締め
壁に向かって全力で振り下ろす
黒い斬撃が刀から放たれ
それは並んだ艦隊の数隻を両断する
巻き起こる連鎖爆発の間を抜け
俺は壁の内側へと侵入する
「こいつが親玉か!?」
壁の中にいたのは超巨大戦艦
俺が知る中でこれほど巨大な船は
ドラルドが製造したシフォンの大型戦艦くらいなものだ
「こんな馬鹿デカイ戦艦が2隻もあるとは、宇宙は広いな」
「関心しとる場合か、撃ってくるぞ?」
敵艦から多数のミサイルが発射され
それを追い越すようにしてビームの雨が降り注ぐ
そして追いついたミサイルが炸裂した
爆発が収まり
しばしの静寂・・・
そして突然の爆発!!!
俺は飛来する攻撃を正面から迎え撃ち
避けて、弾いて、切って
ひたすら前へと進んでいた
そして辿り着いた0距離
俺は黒翼を装甲に突き立てると
今出せる限界ギリギリのパワーで装甲を撃ち抜いた
開いた穴から内部へ侵入する
途中で真空に放り出されていく敵兵士とすれ違ったが
邪魔なのでプチプチ潰しながら全速前進する
「美人のウェーブなら助けても良かったけどな」
「汝はそのうち刺されるぞ」
アシェリーと軽いジョークを飛ばしながらも中央付近へ爆走
途中の隔壁などGGの前には紙に等しい
「この辺が真ん中か?」
「そうじゃな」
「GGの力、見せてやるとしよう」
「この船の人間は見る間もなくあの世行きじゃがのぉ」
GGの装甲板が展開し
周囲の空間が歪みだす
蓄えられたエネルギーが蠢き
「おぉぉぉらぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!」
GGより発生した全方位重力場は
巨大戦艦を『太らせた』
大きく膨れた艦は火柱があちこちから立ち上り
やがて・・・
「無茶をしよって」
「すげぇ爆発だったな」
「内部から破壊しようとするからじゃ」
「外からじゃ時間かかりそうだったんでな」
「とりあえず『器』は閉じる。あまり長い時間『器』と繋がらんほうが良いのでな」
「ああ」
器の力はすごいが
戦っている間の精神的疲労感は大きくなっている気がする
心を食われるとはこんな感じか
「敵艦隊は離脱するつもりのようだな」
「旗艦を落とされれば潮時であろう」
「こっちも体制を整えねぇとやばいか・・・艦隊に合流するぞ」
GGは魔力光を翼のように羽ばたかせ
宇宙を舞う
その後
再び『器』を使うまでもなく
地球での戦いは幕を下ろすこととなった
敵艦隊は初戦で戦力を消耗しすぎたためか
離脱以降撤退を始め
我が帝国軍艦隊も
追撃どころではない事件が舞い込んでしまったのだ
それは帝国の存亡をかけた大事件であった
アシェリー=コピーのおかげで戦闘時に会話が増えた
今までは独り言が多かったからなぁ