第22話:破壊
俺は今シフォン王国の首都惑星『シフォン』へ降り立った
名目としては皇帝陛下から預かった機密文書の運搬だ
今回は桜は同行せず、完全に単独行動だった
〜出発前〜
「桜はこないんだな?」
「うん・・・私お母さんから魔法を教わろうと思うの。今度はお兄ちゃんを助けられるように」
「そうか・・・寂しくなるよ。でもきっとまた会おうな」
「もちろんだよ。だからお兄ちゃん・・・生きて戻ってね」
「俺は不死身の戦闘員さ」
〜現在〜
よく考えたら地球から同行していた奴は誰もいなくなったんだな
宇宙の彼方で1人きりというのは寂しいもんだ
早くスフィンに会おう
だが王城へ移動した俺を待っていたのは長い待ち時間だった
皇帝陛下からの文書を持ってきた人間をこんなに待たせるなんて何を考えてるんだ?
〜しばらくして〜
いい加減強行突破で会いに行くか?
「お待たせいたしました。こちらへどうぞ」
女性の案内役によって謁見の間へ移動させられたのは俺が武力行動に出る寸前だった
重そうな扉を抜けると
広い空間が広がっており
階段状の部屋の最上段には椅子があり
そこに座っていたのがスフィンであった
「皇帝陛下より直々に機密文書をお渡しするように仰せ付かり参りました」
「ご苦労」
相変わらず人形のように無表情なスフィン
そしてその隣にいるのが・・・
「では機密文書とやらを渡してもらおうか」
宰相のドラルド=ヒューザー
こいつは生かしちゃおかん!
「文書は直接女王陛下にお渡しし、他の者には見せぬように命令を受けております」
「女王陛下が閲覧する文書は私が検閲する決まりなのだ。私が見ていない文書を女王陛下に御見せすることはできん」
「ならば皇帝陛下にそう申し上げればよろしいでしょう。私はただ任務を全うするだけ、貴国の決まりなど皇帝陛下には関係のないことかと」
「何だと! 貴様!!! 」
「やめよドラルド。その方、私の部屋へ文書を持ってくるがよい。それから、誰も私の部屋へ入れぬように計らえ」
「!?」
驚いた表情を浮かべるドラルド
今のスフィンの発言がそんなに驚く内容だったか?
「・・・畏まりました」
しぶしぶ認めたドラルドを置き去りにして
俺とスフィンは奥の部屋へ移動するのだった
「久しぶりだな」
コクンと頷くスフィン
さきほどよりも表情が見えるような気がする
尻尾が付いていればブンブン振っているような雰囲気だ
「貴方がきてくれてうれしい。ここには私の味方はいないから」
「だいたいの話は聞いている。それで、何をすればいい?」
「まずはこの国の不正を国民に知らせる」
「不正?」
「この国の国民の多くは私がクローンだと知らない。スフィンという『白き人』が今も生きていて、この国の指導者となっていると信じている」
「オリジナルはもう死んでいるのか」
「殺したのはヒューザーの一族。彼らはオリジナル=スフィンを実験動物として殺した」
「それも含めて国民に教えてやるってわけか」
「ヒューザーが力を持っているのは唯一私の神託を聞くことができるとされているから」
「白き人は神として崇められているわけか」
「この国は宗教色が強い」
「ならヒューザー家は神殺しだな。だがそれを知らせたら国民はお前が女王だと認めないんじゃないか?」
「・・・それならそれで良い」
「そうか・・・」
彼女なりに決意を決めているのだろう
ならばそれを全力でサポートするまでだ
「具体的には何を?」
「ヒューザー家の悪事の証拠を国営TVの乗っ取って流す。手配は済んでいる」
「乗っ取るも何も元からお前の物だけどな」
「でも警備しているのはドラルドの私兵」
「俺はそいつらを殺せばいいわけか」
戦いの予感を感じて血が高ぶる
「それはレジスタンスがやる」
ありゃ? せっかくやる気出したんですがね
「レジスタンスなんているのか」
「ヒューザー家は国民の負担を考えずに悪政を敷いてきた。当然の結果」
「それなら尚更お前の身が危険に晒されるんじゃないか?」
「・・・さっきも言った。それならそれで・・・」
「良いわけないだろ」
俯きかけたスフィンの頭にポンと手をおく
俺の顔を見上げたスフィンの目を見ながら言った
「お前のことは俺が必ず守ってみせる。相手が宰相だろうが暴徒だろうがな」
「でも・・・民を傷つけちゃダメ」
「なら俺がお前を抱いて逃げてやる。何処までだってな」
「私には責任が」
「関係ねえさ。お前は自分の人生を生きていいんだ。宰相を倒して人形としての生き方を辞めるんだろ? 後はやりたいようにやればいい」
「・・・私のやりたいこと」
「今はなくても何時か見つかる。それまで生きてなきゃ意味ないだろ」
「・・・」
再び頷き俺の顔をジッと見るスフィン
彼女の顔を見ていると地球でのキスの記憶が蘇る
よく考えたら誰もいないし
近くにちょうど良いことにベットとかあるし
食べちゃっていいですか?
「貴方に頼みがあります」
「ん? 頼み? おう、言ってくれ、そのために俺はここまで来たんだからな」
襲う気満々なのがバレたかと思ったが違うようだ
「私が作られた場所、『白き人』の研究機関『神の庭』という場所があります・・・」
「それで?」
「そこを・・・破壊してください。私のクローンごと全て」
「!・・・いいのか?」
「あれは存在してはいけない場所」
「解った・・・俺が研究所を襲って注意を引き付けてる間にお前はYV局を制圧しろ」
「囮は私達でいい。これは私の我侭だから」
「ダメだ! こんな時のための力なんだ『G』は」
「・・・ありがとう」
〜明朝〜
俺は研究所の近くの森で待機していた
そろそろ作戦時間だ
Gの機能を待機状態から戦闘状態に移行し
これから起こる殺戮の嵐に血が高ぶる
今頃TV局制圧のために動き出しているであろう彼女のことを思うと、昨夜の感触が蘇ってくる
彼女の肌の感触を全身に感じながら
より一層の力が全身に漲ってくるのを感じた
何だろう、この気持ちは
今まで欠けていた何かが俺の中で満たされたような気分
例えようのない満足感が俺の中で弾けんばかりに暴れている
それが俺の破壊衝動を増幅しているようだ
そして時はきた
「なっ何事だ!?」
突然の襲撃に研究員や警備の兵は何も解らずに混乱していた
俺は邪魔する奴を殺し
手近な機械があれば破壊し
あらゆる物を人を
殺し
恐し
殺戮し
蹂躙した
Gが持つ力を破壊のために全力で使い
あるものは殴り
あるものは重力場で押し潰し
あるものは弾丸を撃ち込んだ
今回持ってきたのは新型の重力射出式ライフル
弾丸を重力場で撃ち出すそれは
レールガンを超える圧倒的な破壊力を持って研究所を破壊した
崩れる建物をさらに破壊を続けながら前進し
スフィンから聞いていた、あるエリアへと辿り着いた
「ここが・・・スフィンが生まれた場所か」
そこには無数のカプセルが置かれており
その中にはスフィンと同じ姿をした人形が浮かんでいる
まだ何も情報を入力されていないクローン達は赤ん坊と同じ
それを殺すのは多少抵抗もあったが
スフィンは全ての破壊を望んでいた
俺が汚れ役になることで彼女のケジメが着くならそれでいいさ
俺は残っていた全ての弾丸を部屋に撃ちこみ
全てのクローン体とその製造装置を完全に破壊したのだった
次はいよいよ「あいつ」が復活です
シフォン王国編第2部をお楽しみに