第20話:朝日の決闘
皇居の中に入るまでには数箇所の検問を通らねばならなかったが
ジェスター王子から渡された指令書を見せればスルーできた
問題は皇居内部のセキュリティーにも爆発の原因が不明だということだ
上層階の人間とも連絡が取れないらしい
「昇降機も停止状態でして・・・」
「飛行機械は?」
「皇居周辺は飛行禁止区画です。皇帝陛下の専用機くらいしか」
「今飛ぶこと自体には問題ないんだな?」
「原因は不明ですが、対空防衛システムも停止状態です。今なら問題はないでしょう」
「OK 問題ない」
GHを飛行形態に変形させ
皇居上層部まで上昇してゆく
桜が落ちないようにGHに固定させながら
遥か彼方の最上階まで登り続ける
その時
「お兄ちゃん、前!」
「お客さんか・・・」
上層階の外壁が破壊されたかと思うと
数機の対人攻撃システムが落下してくる
それは蟲のような形をしており
突き出た角からビームを連射してくる
「問題ない、突っ切るぞ!!!」
『突撃形態起動』
『前方に重力フィールド形成』
『最大加速』
「そこを退けっ!!!」
突撃形態に変形したGHが蟲メカの群れを切り裂いて上昇する
そのままの勢いを利用して皇居内部の外壁へ突入した
「大丈夫か? 桜」
「うん、平気だよ。それより早く上に行かないと・・・きゃぁ!!!」
「まだいるのか!」
襲い掛かる蟲メカに対し
俺はGHのビームキャノンを連射して応戦する
何機かは落とせたが藁藁と湧いてきて切りがない
どうやってこんな数を皇居の中に?
「お兄ちゃんは先に上に行って! ここは私が食い止めるから」
「桜一人を置いていけるわけないだろ!」
「私強いから大丈夫だよ。それより今は皇帝陛下を助けてあげて」
「・・・そうは言ってもな」
「私にはこれがあるから」
そう言ってペンダントを掲げる桜
「いざとなったらこのペンダントが助けてくれるはずだから、私のことは気にせず先に進んで」
言うが早いか
桜はGHを飛び降りて蟲メカの群れへと突撃してゆく
近くの1体を捕まえると
それを振り回して投げる
投げつけられた蟲メカは他の蟲メカを巻き込んで爆発する
これなら確かに1人で何とかできそうな気がしないでもないが・・・
「お前も桜の援護をしてくれ」
GHに桜の援護を頼むと
自力での最上階到達を決意する
GHは短く『了解』と返答すると桜に群がる敵をミサイルコンテナで撃ち落としてゆく
「危ないと思ったらGHに乗って逃げろよ!」
「こっちが終わったらお兄ちゃんを追いかけるから大丈夫〜」
こっちに手を振りながら蟲メカを素手で破壊してゆく桜
俺も桜に負けてるわけにはいかないな
邪魔な蟲メカを粉砕し
上の階への通路を進んでゆく
意外なことに蟲メカは追いかけてこず
前からも来る気配はない
そして俺が最上階で見た物は
巨大な扉と
その前に立つ1人の男だった
「ほぉ・・・大物が釣れたものだな」
そいつは人間に見えるが
俺のセンサーが人間以外の部分を感知している
サイボーグか・・・それに近い存在
「俺のことを知っているのか?」
「もちろんだとも。伝説のG細胞を移植したサイボーグ『G』。その戦闘力はリザルフ王国の1艦隊を退けたとか・・・」
う〜ん
いくつか違った情報が混じってるが
情報は過大になって広まるもんだからなあ
「お前は?」
「私の名は『J』傭兵だ」
「J・・・リザルフの奴らに雇われてきたか」
「さて、どうかな?」
「狙いはその奥の皇帝陛下か。残念だがお前は俺が殺す。任務は果たせないぜ」
「・・・皇帝の心配は必要ないぞ。この部屋へ入る術がなく、私も立ち往生しているところだ・・・だが、お前には興味がある!」
頭の中にアラームが鳴り響くが
それに反応する前にJの蹴りが炸裂した
これまで出合った敵とはスピードが違いすぎる!
俺は感覚時間を引き延ばして奴の動きを捕らえたが
それにしても速過ぎる
しかも1撃の重さが半端ない
進化前のGであれば即死するレベルだ
「どうした? Gの力とはそんなものか?」
「ちぃっ!!!」
相手の動きを予測して放った裏拳も絶妙のタイミングで回避され
さらに反撃を連続で食らう
このままダメージが蓄積されたら殺られる!
重力場で捕らえて押し潰したいが
動きが早すぎて発生させた重力場に入らない
死角からの連続攻撃により徐々に消耗してゆく
このままでは勝機はない・・・なら!
「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!」
部屋ごと特大の重力場を発生させ、全ての物を重くする
当然俺の体にも負荷がかかるが
このまま攻撃を貰い続けても負けは見えている
それなら根競べだ
動きを止めて膝を付くJ
このまま押し潰す!!!
さらに重力を上げていき
このまま押しつぶそうとしたが
俺の予想外の
だが普通に考えれば当たり前の事態が発生した・・・
床が抜けた
俺とJは共に落下し
下の階へと着地した
重力場が消滅した一瞬を狙い
Jが姿を消す
「何処だ?」
周囲を見回し
センサーを使い辺りをサーチする
こんな時敵が攻めてくるとしたら・・・上か!?
上を見上げた瞬間
攻撃は『下』からきた
「うぉっ!?」
足場が崩れ、さらに落下する俺の背後にJがいた
俺が反応する前に俺の背中に短剣を突き刺し、離れる
そして、その短剣が爆発し・・・
「お兄ちゃん!?」
桜が近づいてくるのが分かる
どうやら突入階まで落下してしまったらしい
桜が心配そうに俺を見ているが
返事をしてやれるだけの余裕もない
背中から内部にかけての損傷が大きすぎる
アラートが鳴り止まず
画面がそこらじゅう赤く染まる
ああ、これは死ぬかもな
「レノン王家のファリン王女か・・・お前もターゲットの1人だったな」
最悪だ
Jがこっちに来る
桜に逃げるように言わねば!
「お前がお兄ちゃんを!」
桜は無謀にもJに突撃し
その拳を振り上げる
だが戦った俺が一番良く分かる
今の桜じゃ奴には勝てない
桜の拳は宙を切り
Jの回し蹴りを食らって壁にめり込む桜
このままじゃ桜まで殺される!?
どうする!?
俺が打開策を考え付く前に
一つの影がJに向かう
そいつは桜に止めを刺そうとするJに突撃し、壁に突き刺す
GHか!?
よし、そのまま桜を拾って逃げろ!
だがGHが命令を実行することはなかった
一筋の光がGHを貫き
その機体を俺の側まで吹き飛ばした
「やれやれ、とんだ隠し球だ」
Jはほぼ無傷だった
だがその腹部が大きく開き
中から煙が立ち上っている
まさか腹にビーム砲!?
なんつ〜改造してるんだこいつ
「だがこれで邪魔者はいなくなった」
今度こそ桜が殺される!
それを目の前にして何もできない俺に通信が届く
それは俺の隣で機能を停止しようとしていたGHからだった
その通信の内容を見て愕然とした
これしかないのか?
GHの人工知能は徐々に力を失い
その意思は急速に消滅していく
そして俺は決断した
「!?」
桜に刃を付きたてようとしていたJは咄嗟にその場を飛び退いた
その後を突き刺す光
それは外壁を貫き外への穴を開けた
「まだ生きていたのか」
「俺が死ぬのはいい・・・だが。桜は守ってみせる!」
俺の体から放出された無数のマイクロミサイルがJの周囲を取り囲む
それら全てを回避しようと動き出したJであったが
もはや奴に逃げ場はない!
起爆したミサイル1発ごとに重力場を発生させ
中心点に向かい圧縮される
小型の重力地雷を撒いたようなものだ
起爆地点から一定の距離の物全てを圧壊させる
「何だと!?」
Jもまたその重力場の網にかかり
体を引き千切られる
「やってくれたな!」
重力場が消滅した後には
左肩から先を失ったJの姿があった
機械部分を露出させ
顔も半分機械の素顔が出てきている
「まだ終わりじゃないさ!」
俺は両肩のビームキャノンを連射しJを攻め立てる
Jはビームを回避しながら接近し
残った右手に持った刃で俺の体を切りつける
「G!!!!!!」
「J!!!!!!」
増強された装甲を頼りに捨て身の拳をJに突き立てる
その拳から発生された重力場はJを外壁に叩きつけ
そのまま皇居エリアの外へと吹き飛ばした
同時に俺の体に刺さった刃が爆発する
大きな損傷を受けるところだったが
外側の新しい装甲をパージすることでダメージを軽減した
「最後の最後まで世話になったな・・・相棒」
緊急事態にGHが出した提案は
自分自身の吸収だった
確かにGHとの融合は以前から椿も考えていたようだが
その場合にはGHの人工知能は消滅してしまう
俺はGHを一人の仲間だと思っていたし
融合なんてしないでも俺達は1つだと信じていた
「桜、大丈夫か?」
「んん・・・お兄ちゃん!? お兄ちゃんこそ大丈夫なの!? あいつは!?」
「落ち着け。もう大丈夫だ、奴は俺が倒した。この高さから落ちて生きてはいないだろう」
「よかった・・・本当に・・・」
桜は俺の胸に飛び込み
そこで泣き始めた
そっと桜を抱きしめると
友を失った俺の悲しみが癒えるようだった
俺も泣きたい気分だ
しばらくして
桜が寝てしまったことに気づき
桜を抱えて外を眺める
ちょうど人工の太陽が表示され
朝を示す時間となっていた
朝日を浴びながら
下へ降りる手段について考えていた俺に
そんなことを考える暇もなく次の事件が起きる
再びの爆発
それが起きた場所は
俺達が帰ろうとしていた場所だった
死んだと見せかけて生きてるなんてよくある話です
色々な意味でね