第1話:世にも危険な求人広告
俺の名前は『木戸 一』
この名前は嫌いじゃない。画数が少なくて習字の時間やテストで急いでいる時に楽だったし
これから先も『あいつの名前はどんな字だったか?』と友人に悩ませる心配もないだろう
さて、俺が今何をしているかと言えば
ベンチに座って公園で遊ぶ子供を眺めている
解りやすく解説するならニート中である
大学卒業後に一応の就職はしたものの
何が悪かったのか・・・まあ俺が悪いのだろうが
すぐに辞めてしまい、再就職も上手くいかずに途方に暮れているところだ
正社員は諦めてフリーターになるか?
将来的に厳しいかもしれないが、何も上流階級の暮らしがしたいわけじゃない
自分ひとりが何とか生きていけるだけ稼げればそれで十分だろう
それともこのまま自殺でもしてしまおうか?
死ぬにはいい時期なのかもしれない
今死ねれば『人生楽しかった』で終わるだろう
だがどうやって死ぬ?
飛び込みや飛び降りは大勢に迷惑がかかるから除外
首吊りや水死は死ぬまでが苦しそうだ
死体の処理が簡単そうな死に方が良いだろうか
だとすると薬で死ぬのがベターかもしれない
ここでまた一つの問題にぶち当たった
何処でどうやって薬を入手するかだ
薬局とかで売ってるもんかな?
俺が自分のこれからについて半分本気で考えていると
前を通り過ぎて行った男性が1冊の雑誌を俺の左隣のゴミ箱に捨てていった
チラリと見ると、それは求人雑誌のようだ
何かなこれは?
俺に読めとでも言いたいのか?
実際にはそこのゴミ箱があったから捨てただけだろうし
俺の現在状況を知っているはずもないのだが
こうもタイミングが良いと当てつけのように感じてならん
何か解らない物にムカムカしたが
まあ、拾って読むんだけどね、暇してるし
自殺するにしても、これを読んでからで遅くはなかろう
雑誌には様々な職種の仕事が載っている
まあ当然のことだな
いくつか応募してみようかと思った仕事もあったが
何か決め手に欠ける気がしてスルーした
そういや俺がやりたい仕事って何なんだろうな?
パラパラとページを捲り、自分が働いている様子を想像しながら読み進めていく
最後のほうのページに小さく載っていた、その求人広告を見て手が止まる
それはとても奇妙な求人広告だった
『悪の秘密結社 ニコニコ帝国(仮)』
世界制服を企む悪の秘密結社です
貴方も一員となって一緒に世界征服に励みましょう!!!
募集職種:戦闘員
給与:能力しだい
休日等:相談しだい
『君も戦闘員になろう!』
雑誌に記入されているどの広告よりも小さく書かれているし
普通に読んだら読み飛ばしそうなんだが
とにかく突っ込み所満載でどこから手を付ければいいのか混乱してきた
おれ自身が落ち着くために少し整理して考えてみよう
1、求人雑誌に載っている時点で秘密でも何でもない
2、悪の秘密結社なのにニコニコって名前はどうなの?
3、結社と帝国が混じってますけど
4、世界征服の征服が一部『制服』になってます
(もしかしたら世界の制服を集める仕事かもしれないが)
5、重要な部分がほとんど解らない
(求人広告の意味あるのかこれ?)
6、何より最後に大きく書かれている
『君も戦闘員になろう!』
の文字が一際目を引いて実に印象的だ
このページの中で
いや、この雑誌の中で一番インパクトのある広告かもしれん
本気で信じる人間がいるかどうかは別の問題だが
他の奴なら悪戯か何かだと思って無視するところだろう
だが俺はこの広告に興味が湧いてきていた
死ぬ前に一度こんな馬鹿みたいな広告を出す人間に会ってみるのも悪くないかもしれない
本当に頭の可笑しい奴だったら早々に失礼してしまえばいいだろう
思えばこの時
俺は神経衰弱状態にあってまともな思考能力がなかったのかもしれないし
元々俺も電波な人間の一人だったのかもしれない
とにかく
この広告に載っていた面接場所(仮)とやらに行ってみることにしたのだった
おそらく(仮)の部分を気にしたら負けなのだろうと勝手なルールを作りつつ
久しぶりの就職活動へと赴いたのだった
読んで頂きありがとうございました