第15話:地球奪還作戦(前編)
そこは海底
海の底
俺は今船の中にいた
その船はある作戦のため動き出そうとしていた
「艦長! 出撃準備整いました」
「では、ファリン号発進します!」
「了解!」
艦長席で指揮を取るのは桜
何故ならこの船が彼女の物だからだ
一般人のマイカー感覚で
一家に一台戦艦を持つのが貴族では普通のことらしい
王族ともなれば1人に1台あってあたりまえ
この船は桜が現皇帝から与えられた彼女の専属艦なのだ
桜は当然のように指揮を取っているが
誰に教わったのだろうか
いや、それ以上に気になるのは
あの艦長ルックはコスプレにしか見えないぞ?
ミニスカにフリルが付いた『なんちゃって艦長服』は桜に超似合ってるけど
船はどんどん浮上し水面から浮き上がる
さらに浮上を続け、ついには空を飛ぶ
しかし、俺達の目的地はもっと上
衛星軌道上の敵艦隊だ
今回の反抗作戦では3つの作戦を同時進行することとなった
1、衛星軌道上の敵艦隊の殲滅
2、地上重要拠点の奪還
3、日本以外の国との通信の回復
第1作戦はファリン号を旗艦とした部隊が
第2作戦は菫のリオ号が
第3作戦は椿のアルマ号が
それぞれの目的のために活動を開始していた
俺がファリン号にいるせいで他の2人が行っている作戦の進行状況がわからんのが気がかりだ
「大気圏を離脱します」
宇宙空間へ出ても無重力にはならない
重力制御装置の働きで0,9Gに保たれている
「敵艦隊移動を開始」
「こっちに来るね」
「こんな大きい船が上がってきたら馬鹿でも気づくだろ」
「本当に頭の良い司令官が乗ってれば他に警戒すべきことに気が付くけどね」
「敵艦隊、まもなく射程内に入ります」
「まず接近してくるのは小型艦だけだろうから副砲で応戦して。主砲はエネルギーをチャージしながら待機」
「了解しました」
船から無数のビームが飛び出し宇宙に無数の光を映し出す
このファリン号は帝国でも数隻しか存在しない大型艦で
主な武装はハリネズミのように生えたビーム砲である
そもそも他の船より総エレルギー量が桁違いに大きいので
一度に放てるビームの数が、まさに光のシャワーのごとしだ
「敵駆逐艦、雷撃艦が弾幕を抜けて接近します」
「防御砲撃開始。弾幕を張って」
迎撃用の小型砲塔からビームが連射され
敵小型艦や魚雷が撃墜される
いくつかの敵の攻撃は船に命中したが
船の周囲に張られたシールドが防いでくれている
それでも魚雷の直撃を受けたら無事じゃすまないが
「そろそろだね・・・全速で後退! 逃げるよ」
「了解!」
桜の指揮の下、全速力で逃亡を図るファリン号
しかし大型艦の速度では逃げ切れるはずもなく
「敵巡洋艦がこちらを射程内に捕らえます!」
「お兄ちゃん、出番だよ」
「まかせとけ」
俺は艦前方の主砲区画に来ていた
今から常識外れの反撃を行うってわけだ
「お兄ちゃん、今!」
『融合能力発動』
『主砲と融合完了』
『重力場発生装置と連結完了』
「いいぞ! 撃て!!!」
「主砲発射!」
艦の重力を制御する装置は存在する
しかし
重力そのものを武器とする兵器は存在しない
今それを作り出したのだ
主砲を連結した俺の両腕が
主砲に溜め込まれた膨大なエネルギーを使い強大な重力場を形成
それを発射することで敵艦隊は膨大な重力を正面から受け
宇宙空間の中で紙のようにペチャンコになって消えていった
水圧に耐え切れないで潰れる潜水艦のように
宇宙に突如発生した圧力は
敵艦隊を1撃で消し去ってしまった
「私達を追うのに必死で隊列が直線になってたせいだね」
「そうなるように逃げてみせた桜がすごかったのさ」
ブリッジに戻り一息つく
いやぁ、疲れた
何度もやりたい仕事じゃないなあれは
あんな大きい物と融合するなんて尋常じゃないぜ、まったく
「敵残存艦隊がこちらに向かって動き出しました」
敵旗艦とその護衛はファリン号を追うのに参加していなかった
そのせいで撃ち漏らしたらしい
「さきほどの重力場砲の反動で戦闘継続は困難です」
「うん。それなら戦わないで見物に回ればいいよ。ジャストタイミングで来てくれたみたい」
敵艦隊の司令官を信じられない物を見ていることだろう
地上から上がってくる奇妙な者達
巨大な怪人に人型ロボットの集団
彼らが上がってきたということは
各基地の奪還作戦は成功したようだ
「ガァァァァァ!!!!!!!!」
「正義の力見せてやる!!!!!!!」
殺る気満々な奴らが一斉に敵艦隊に飛び掛る
敵艦の対空砲火なんて何のその
果敢に『格闘戦』をしかけるという非常識な戦闘法により混乱した艦隊は脆くも崩れ去り
俺達は一方的な虐殺をティータイムを楽しみながら観戦するのだった