十一月五日土曜日
前日、ミンソは生命倫理に関する集会に出席したそうなのだが、飲食禁止だったのが気に食わなかったらしい。それというのも、シンポジウムは古代ローマの饗宴に由来する言葉であり、本来の語義に沿えば、飲食自由であってしかるべきだからだという。
俺に言われても困るので、講演内容について訊いてみた。絵画や造形物の腕前が高度で、製作品が写実的で酷似しているほど、どこかに恐怖を感じるという、不気味の谷の話や、人工知能や人造人間と、生身の人間の頭脳や身体の違いは何かという話など、人間らしさとは何かについて熱弁された。
それから、判断材料が少ないと不安や独断が生じ、多いと多岐亡羊になったり知り過ぎて幻滅したりするという話や、ガルの骨相学のような疑似科学に騙されてはいけないという話など、情報化社会の功罪についても語られた。
懇切丁寧に説明されたのだが、はっきり言って、俺の頭では半分も理解できなかった。ただ、自分の頭でよく考え、他人にそれを意見として過不足無く伝え、気持ちを交わすことが、社会で生きていく上で最も賢明にして肝要な方法だという結論には、俺も共感をおぼえた。