表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/9

5、恋バナが聞きたくなった



 中間試験が終わって数日後、暑い日だった。

「トコちゃーん」

 隣のクラスの涼ちゃんが目をランランとさせて、私を呼びに来た。ちなみに放課後。もう帰るところ。

「涼ちゃん、帰ろっか」

 私たちはいつも一緒に帰るから、そのつもりだったのに、涼ちゃんが顔を近づけてきて、小声で言った。

「トコちゃん、チャンスだよ」

「チャンス?なんの?」

(だん)バス、女子マネージャー募集してるんだって」

「男子バスケ部が?いたでしょ、女子マネージャー」

 だった気がする。だいたい、マネージャーって結構大変なんだよ?でも、1人で十分って言って、1人しかなれないはずだけどな。

「その女子マネージャー、こないだの試験が悪くて、親にやめさせられたんだって」

「えっ」

 可哀想に。ていうか、中間テストの結果が悪くてやめさせられるって、よっぽど酷かったんだろうな。

「それでね、もうすぐ大会だから、夏休みまででいいから、臨時の女子マネージャーを募集してるんだってさ」

「なんで、臨時なの?」

「え、その女子マネが二学期に戻ってくるかもしれないから、だって」

 微妙~。

「だからね、トコちゃんのチャンスだってば!」

「チャンスって言ったって、私だって受験があるから、無理だよ」

「夏休みまでだってば~。大会で男バスが負けちゃえば、それで終わりだもん。ちょうど良いじゃーん」

「ま、まあ、そのくらいなら、できなくないけど」

 ていうか、かなり魅力的なんだけど!だって、男子バスケ部のマネージャーだよ?1人しか席のない、そのマネージャーをみんなが狙ってるのに。

そして、男バスには佐川君がいるんだよー!涼ちゃんったら、どこでこんなおいしい話を聞いてきたの?

「でしょ~?トコちゃん、バスケ見るの好きだって言ってたし、ちょうど良いじゃん!ほかの子に取られる前に、体育館行こう」

 え、今?ちょっと、心の準備が・・・え、今?心の準備が・・・え、今?え、今?

「もう、誰かなっちゃってるんじゃないの?」

 ちょっと足掻いてみたりして。だって、心の準備ができたてないうえに、恥ずかしいんだもん。

「大丈夫だよ、ボクの情報速いんだから」

 まあ、確かにそうだけどさ。

「だったら、涼ちゃんがやればいいじゃない」

「ボクにできるはずないでしょ!トコちゃんが一番だってば。優しいし、可愛いし、気が利くし、バスケ好きだし、仕事できるし、みんなと仲良しだし・・・」

「わかった、わかったからっ」

 って、涼ちゃん、褒めすぎ。

「わかった?よし、行こう!」

 涼ちゃんは、私の手を取るとすぐに体育館に向かって駆け出した。

 もう~、なんかこういう時は行動的なんだよね。まったく、子どもなんだから。


 でも、(だん)バスのマネージャーかぁ。

 良いかも。



 ポワンとしている(実際にはニヤニヤしている)、私の手を引っ張って、涼ちゃんは体育館に駆け込んだ。

「先生!連れてきたよ!」

 おーっと、いきなり、先生か~。

「お、連れてきてくれたか。小山、待ってたぞ」

 待ってた?先生が、私を?

「ボクがトコちゃん、推薦しておいたの」

「涼ちゃんが?」

「小山なら安心してうちの男子バスケ部を任せられるからな。大会が終わるまで、受験生には悪いが、よろしく頼んだぞ」

「は、はい」

 えーっと、話がもう決まっている、んですね?



◇◇◇



 マネージャー業務はハードではあったけれど、すぐに慣れた。そうすると、私は・・・気になることがあった。


 それは、男子更衣室。

 いやーん。

 バカじゃないの、私。男子更衣室ったって、ただ着替えてるだけよ。わかっているのよ。わかっているけど、妄想がー!

 変態だわ。

 本当に、本気で変態。

 いやいやいや、違うの。佐川君の着替えシーンが見たいとか、裸が見たいとかそういうんじゃないのよ。違うの。なんていうんだろ。部活が終わってリラックスして笑ってるところとか、少し疲れてアンニュイな感じとか、どんなだろーっていう妄想よ?

 それが、着替えシーンなだけだって。

 じゅうぶん変態な妄想か?は、鼻の奥がなんか変~。



 部日誌を書き終えて、職員室に持っていく途中、男子更衣室の前を通りかかった。

 妄想をしながら通る男子更衣室の前。少し足を緩める。というか、立ち止まる私。で、きょろきょろと周りを見回したところで、誰もいないんですのよっ、奥さま!

 誰も来ないなら、ちょっと隙間がないか、探したりして。

 さすがに扉は開いてないし、部屋の下にある小窓も閉まっているし。壁に穴なんてあるわけないし。って、それを真剣に探すアホ丸出しな私。


 でもそうしたら、姿は見えないけど、声は少し聞こえてきた。

「お前、彼女できたんだって~?」

「マジでー?」

 みたいな声。盛り上がってる。

 もしかして、男子も恋バナってするの?

 なんて気になる話題。

 ・・・誰も来ない、よね?

「お前は?好きなやついんの?」

「俺?」

 さ、佐川君の声!いるの?好きな人、いるの?

 むふー!は、鼻息荒い!静まれ、鼻息っ、気づかれちゃうじゃない。って、怪しすぎる。

「まあな」

 いるんだー!

 え~、誰?誰?うちのクラス?隣のクラス?

 誰なのっ。

 さらに扉に耳をくっつけて聞こうとしたところ、



「トコちゃん、終わった~?」

「うわあっ!」

 思わず飛び上がっちゃった。

 良いところだったのにー!って、違う。見た?見たのね?今の私を!

「りょ、涼ちゃん、違うの、これは、その」

「早く帰ろう~」

 よし、気づいていない。覗ける穴を探していたとか、聞き耳を立てていたとか、見られていない。よし。

「う、うん、これだけ先生のところに置いたらおしまい」

「ボクも一緒に行ってあげるよ」

「うん」

 佐川君の好きな人のこと。聞きたいけど・・・

 だけど涼ちゃんには知られたくない。私たちは部日誌を先生に届けて、学校を出た。


 男子も恋バナするんだ。すごく気になる。恋バナが聞きたくなったのなんて、初めてだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ