表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

4、顔が戻らない



 高校生になってまず思ったのは、女子はみんな恋バナが好きということ。だけど、私は苦手。だって、恥ずかしいじゃない。たとえ恋人になれたとしたって、恥ずかしい。

 親友の涼ちゃんだけは、わかってくれるから「好きな人はいない」と言ったら信じてくれて、それ以上は聞かないでくれるけど、クラスの女子たちはみんな信じてくれないし、何度も何度も聞いてくる。はっきりいって面倒くさい。


 だけど、最近ちょっと変わってきた。

 私の気持ち。

 だって、本当は好きな人がいるんだもん。バスケ部の佐川君。すごくイケメンってわけじゃないけど、背が高くて姿勢が良くて髪の毛がサラっとしててカッコいい。

 クラスが一緒で、隣の席だからドキドキする。時々喋るととっても楽しい。それに、彼に好きな人がいるのか、すごく気になる。

 そういう、私の気持ちがだんだん膨らんできていっぱいになって、自分では持て余すような感じになってくると、涼ちゃんに聞いてほしくなる。だけど言わない。恥ずかしいから。いくら親友だからって、恥ずかしいものは恥ずかしいし、言えないことだってあるのよ。

 涼ちゃんは、私が佐川君のことが好きだってこと、知らないはずなの。

 なのに、よく一緒にバスケ部見に行こうって誘ってくれる。もう、それだけで良いんだ。涼ちゃんは私が“バスケ部を”見ることが好きだってわかってくれるから。



 とはいえ、今日はバスケ部のない日。

 涼ちゃんは委員会活動があるっていうので、私は珍しく一人。ちょうど帰ろうと思って昇降口を出ようとしたら、雨が降ってきた。

 数人の下級生が

「いや~、傘持ってきてない~」

 って言いながら走って行った。あのまま駅まで走るのかな。根性あるなぁ。

 今朝は晴れていたけど、急に降ってきたもんね。傘持ってない人多いだろうな。私は持ってるよ。いつでもスクールバッグに折りたたみ傘が入ってるから。

「涼ちゃん、傘持ってない気がするなぁ」

 うん、絶対。涼ちゃんは雨が降ってても傘を持ってないことすらある。動きがちょこちょこしているから、傘をさしてても平気で頭まで濡れてるし。まったく、いつまでたってもお子様だよね。そのくせ規律委員長とかやっている。しっかりしているのかどうか、いまいちよく分からない。

 とりあえず、少しの間涼ちゃんが来ないか待つことにした。委員会が長引くようだったら帰っちゃうけど、あと15分くらいなら、ここで待っててもいいや。


 下駄箱に寄りかかるようにして、ぼんやりと外の雨を見ている。

 こういうの、実は結構好き。ぼんやりしているのって、気持ちいいよね。ちょっと暗くて、湿度もあって、快適快適。

 何を考えるでもなく、ぼんやりと外を見ていたら、

「あれ、小山。帰んねぇの?」

 と声をかけられた。

「ああっ、ささ佐川君っ」

 きゃああああー!なんで、佐川君がここに!?なんで、学校に佐川君が?あ、良いのか、学校に佐川君がいても全然問題ないか。

「笹川じゃないけど?」

 佐川君がケタケタ笑ってる。素敵・・・っじゃない!

「違うってば、びっくりしたからっ、“さ”が増えちゃったのっ。し、知ってるからね?佐川君だって」

 って言い訳をしたら、佐川君さらに大笑い。うわ~、そんな眩しい笑顔を!

「ははっ、小山って面白れぇな。からかっただけだよ」

「もお、ひどぉい!」

 うわ、私、なんか乙女っぽい。なに、今のセリフっ。自分で信じられない!

「で?何やってんの?帰んねえの?」

「あ、う、うん。帰るけど、雨が」

「ああ、雨結構降ってきたな。傘ねぇの?」

 ちょっとー!何このシチュエーション!放課後に二人っきりとかって!むきゃあああー!

「あ、あるよ?」

「なんだ、あるのか。用意良いなぁ」

「佐川君は?傘」

「俺、持ってるわけねぇじゃん。じゃ、また明日な~」

 そう言って、佐川君は雨の中に出て行った。

「えっ、しょ、しょうがないわねっ。いいい入れてあげようか?」

 言ったわよ!勇気を出して、この恥ずかしいセリフ。だって、一緒に帰りたいもん。

「平気平気。気持ちいいから。じゃな!」

 そそ、そんな!行かないで!

「ちょっ」と佐川君・・・と言いかけたところで、肩をたたかれた。


「トコちゃん、ボクのこと待っててくれたの?」

 涼ちゃんだよねー。

 タイミング、悪し。佐川君行っちゃった。がっくり。

「涼ちゃん、委員会終わった?」

 しかたない。当初の目的通り、涼ちゃんを傘に入れてあげて、一緒に帰るか。

「終わったよ。待っててくれてありがとう」

 涼ちゃんはすぐに靴を履き替えて、私の傘に入ってきた。まったく、傘持ち歩きなさいよね。


 二人で校門を出たところで、涼ちゃんが気づいた。

「あ、佐川君じゃん。傘ないみたいだね」

「うん」

 知ってるけど・・・と、思ったら涼ちゃんが大声を出した。

「おーい、佐川君―!入っていきなー」

 って、この傘私のなんですけど?

 涼ちゃんは私の傘を持って佐川君に向かってダッシュした。ちょっと待ってよー。

「傘ないんでしょ?一緒に駅まで行こう」

 涼ちゃん、くったくのない笑顔で佐川君に傘を差しだした。

「なんだ、追いついたのか。せっかくだけど、3人は無理だろ」

 佐川君はまたケタケタ笑ってくれた。はう~、ステキな笑顔~。

「大丈夫だって、ほら、詰めてぎゅうぎゅうで帰ろうよ~」

 涼ちゃんは佐川君と私をぎゅーっと両腕で無理やり抱えるようにしている。って、近い近いっ!佐川君が近い!やだ、なんかニヤけてる気がするんだけどっ。顔が戻らない。普通の顔にならない~。

「まったく。じゃあ、ほら。俺が持ってやるよ」

 と、佐川君は傘を持ってくれた。さすがにバスケ部だけあって、背が高い。私と涼ちゃんだって、そんなに小さくないけど、佐川君はとても大きいから、真ん中で傘を持つにはピッタリ。

 佐川君がこんなに近くにいて、佐川君が私の傘を持っている。

 う、ニヤけ顔が戻らない。私の顔ってこんなに筋肉あるんだ!いや違う、感心するところが違う。

 もう、涼ちゃんったら、強引なんだから。

 ほっぺの筋肉が戻らないのは、涼ちゃんのせいだからね!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ