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魔王様はお嬢様の下僕になりました  作者: 亜桜蝶々
第1章、慣れと再会
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ペンダント

 魔王城の中で一人の男の悲痛な叫びが響き渡る。


  嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だぁ!!!

  リュシア! リュシアぁ!! 何故、君が……!!

  ……貴様という存在せいで彼女は消えたのだ!!

  ……貴様のせいで! 貴様のせいでぇぇぇ!!


 その男は目の前に落ちている剣を拾いあげ、目の前の人物を真っ二つに切り裂いた。


 ☆


 生まれ変わってから二日目の朝、三時十六分。日はまだ顔を出さず、山の中の屋敷はどこの部屋も暗い。何もかもが眠りにつき無音という音だけが屋敷の中に響く。

 

 そんななかで、アランはベットから跳ね起きた。呼吸は浅く、速い。目が見開かれ、肩が呼吸に合わせて上下する。

 アランは右手で首にかけているペンダントを強く握りしめる。左手を右腕の手首に添え、何か大事な物を抱えるように前にかがんだ。眉間にしわを寄せて目をつぶり涙を流す。漏れ出る声は震え、時折震える声で謝罪の言葉を口にした。


  「リュシア。すまない。」と。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 午前四時。アランの影は一階の厨房にあった。


「我に朝食を作れなどと言ったことを後悔することになるぞと、事前に言ったからな! 我は知らんぞ」


 アランはフライパンを竈の上に置き、卵を殻ごと粉砕して入れた。当然黄身はつぶれて殻が大量に卵と混ざるが気にしていない。


「ん? おお、火をつけるのを忘れていた。どれくらいがいいのだ? ……ランクの呼び方からして専門級か。“聖職者の業火(ホーリ-・ザ・フレア)”」


 アランは竈の中に左手を入れ、手のひらを上に向けて発動させる。魔法名を唱えた瞬間、異常な程の熱が放出された。炎はフライパンを上へ押し上げ、急速にその温度を上げさせる。フライパンの中に入っていた殻入りの卵は焦げて真っ黒な炭になっている。


「……? 火が強すぎたのか? ……まあ、良いだろう、見た目は変だが味は良い」


 アランは少し目玉焼き(になる予定だったもの)をちょっと食べ、さも満足そうにうなずく。


「白パンだと……? 黒パンとなんら味が変わらないというのに何故こんな高いものを……」


 アランは中身の白いパン。つまり、小麦から作られたパンを見て呟いた。


 アランの朝食はいつも黒パンである。民衆からは贅沢をしないなんてなんて良い人なんだと思われていたりするが、理由は味が白パンとたいして変わらないからということである。

 だが、世間一般的には圧倒的に白パンの方が味が良いとされる。

 つまり,アランは極度の味音痴なのだ。この事実は一部の官僚や軍人などしか知らないものである。ほとんどの者は知ることの無いアランの秘密だ。

 ちなみにアラン自身は自分が味音痴だと自覚していない。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 午前五時。メイルは目を覚ました。下着姿で寝ていたので上着を着て、愛用の剣を持って外に出ようと一階に降りた。ついでに愛してやまないアランの魔力を一階で感じたので挨拶をしようと思い厨房に向かった。


「魔王様おはようございます。御早いですね……っう……」


 メイルは厨房に行って頭を主人に下げた。まだ、その対象を見ていなかったので顔を上げてみると、目にその悲惨な状況が飛び込んできた。

 洗われずに山のように重なっている食器や調理器具。焼け焦げた竈。床に落ちた卵。


「おお、メイル起きたか。見てくれ! 美味そうだろう!!」


 そういって、見せてきたのは真っ黒焦げ何かとそれを切らないまま挟む白パン二つ。

 メイルは頭を片手でおさえ、目をつぶって俯いた後、アランに言った。


「魔王様。それは間違いなく姫様に殺されますよ」

「なにぃ? いや、見た目は悪いが、味は美味いのだぞ!」

「魔王様の美味しいはあてになりません。ですから、私が訓練がてら下の市場で何か買ってまいりますので、それを姫様に出してください」

「……この……我が作った……料理は……?」

「捨てて下さい。後、そこの食器とかは洗っといてください」


 ボロクソに言われてショボンとするアラン。黒い何かを捨て、食器を洗い始めた。

 傍からみれば不敬罪に値する行為だが、アランは自分の悪い部分などは部下たちに積極的に発言するように言ってるので咎めたり怒ったりはしない。


 屋敷を出る際にメイルは後ろをチラッと見る。しょぼくれるアランを見てちょっと胸が痛んだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 午前7時。フェアが起きてきたので三人で朝食をとっている。朝食の内容はトマトとレタスとハムを挟んだ白パンのサンドイッチ。

 メイルが正直に買ったものなのかという訳を話した結果、フェアは大笑いしてアランの方は憤慨していた。


 フェアがサンドイッチを、はむっという擬音が聞こえてきそうな感じに食べる。顔立ちが美しいだけあって一挙手一等足が画になる。

 メイルも同様に美しい顔立ちだが、こちらの場合はパクッという擬音が聞こえてきそうだ。

 そして、二人ともよっぽど美味しいサンドイッチだったのか、ん~!とうっとりとした表情になる。アランは黙々と食べ続けているが。


 フェアが再びサンドイッチを食べようとした時、目の前に座るアランが首にかけているペンダントに気が付いた。


「下僕、何なの、そのペンダント。……ロケットペンダント? 誰の写真が入ってるの?」

「お嬢様にはなんの関係も無いことです」


 アランは即答した。フェアの質問が終わってから一秒も経っていない。さらにぶっきらぼうに言ったので、フェアはカチンと来たようだ。


「何よ、下僕のくせに! バカ!! 知らない!!」


 フェアは食べかけのサンドイッチを咥えたまま外に飛び出していった。


「姫様! ……追わないのですか?魔王様。」

「…まさか、こんなことで怒るとはな。追いかける。メイル、ついてきてくれ」

「はい!」


 アランはサンドイッチを食べきり、外に出て行ったフェアを追いかけるために玄関へ向かった。しかし、途中で立ち止まる。


「何者かが敷地の中に入ってきているのに気付いているか?」

「はい。魔王様。……この魔力の感じは姫様の関係者でしょうか。」

「そうだな。外に出て待ってみるか」


◆◇◆◇◆◇◆◇


 外で関係者らしき人物を待っている二人。フェアの魔力は感知できるので大丈夫だろう。そして、山の中から問題の人物が姿を現した。

 その人物を見たアランとフェアは唖然とするしか無かった。

読んでいただきありがとうございます。

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