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魔王様はお嬢様の下僕になりました  作者: 亜桜蝶々
第3章、テロリズムと形の無い悪意
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魔王と角

「魔王様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 砕けたガラスや瓦礫の粉塵によってアランの姿をまったく確認することが出来ないため、叫ぶことしか出来ないメイル。自分の方にも粉塵が舞って来ることで、ゲホゲホと咳き込む。爆発に魔法の物質が混ざっているため、あまり爆発の残骸を吸い込むと人体に有害になりえるとアランに以前聞いていたことを思い出し、制服のポケットから小さな布を取り出して口と鼻を覆う。

 メイルがそうしながらもアランの元へと駆け寄って探そうかと考えていたところ、粉塵の中から聞きなれた声が聞こえて来た。


「……“虚空支配(ジル・デガロギア) ”」


 唱えられたのは風属性に属する魔法の中でも、最上位に位置する強力無比な防御魔法。自身の周囲の空気を複雑に歪めたり気圧を変化させることで、近づく物体を鉄であろうが紙の如く丸めたり引き裂いたりすることが出来る攻防を兼ね備えたものである。無論、その強力さゆえに消費される魔力の量も尋常ではなく、普通は粉塵を抑える為だけに使うような魔法では決してない。

 とはいえ、実際にそのように扱うことが出来るほどの異常な魔力を持つのが、魔王アラン・ドゥ・ナイトメアなのであるが。


「局長……ブフォッ!!」

「角……ツノが………ッ」


 粉塵の中から幽鬼のごとく姿を現すアラン。いつも身に纏っているローブに、爆発した釜の中に入っていた魔術研究の産物がベッタリと付着していた。赤や黄色や緑色が混在するいかにも禍々しい色合いの物体だが、どうやら服が溶けたりなどはしないようであった。何故かブヨブヨとスライムの如く動いているように見えるが気のせいであろう。


「貴様ら……」

「ま、魔王様の角が……」


 アランから見て右側の角は、壁に深々と突き刺さっていた。そして、その角の根元付近はポッキリと折れた後が残っているわけであるが。この角の様子からわかる事と言えば、アランの角が瓦礫によって折れて爆発の勢いで壁に突き刺さったということだろう。

 普段から頭部にある角は、無意識のうちに相対する者に王冠のように錯覚させることがある。ファンファンロの故郷であるアドッティス魔境森林にも生息していると言われる、百年以上生きる高位の鹿の魔獣が居るが、その角と似ていると称される微妙にアラン自慢の角であったりするのである。その角が、根元からポッキリと折れているのであった。


「爆発するような可能性のある研究は最下層で行えと何度(いつ)も言うておるだろうがぁ!!」

「つ、ツノ……アンバランス……げほっ……あ、あぁ……! そうか、あの理論式は片側を崩せば!!」

「良いよ良いよー! 局長すげぇ魔力昂ぶってていいよぉぉ! ほらほら、魔法魔法! 魔法撃ってきて! 新魔法で試してみたいことが!」

「うお、すげぇ動いてる……けど酸性持ってないみたいだし失敗かなぁ。なんとか服だけ溶かせるように出来ないもんか……」

「じゃんけんポイ! あっち向いてほい!」


 メイルがアランのことを心配して駆け寄ろうとしたが、彼が魔法研究員達にキレる際にストレスのあまりに変なポーズを取ってしまう事を知っていたため、刺激しないようにとじりじりと後ずさった。

 口を大きく開けて荒い息を吐いたアランは、自身の周囲に発動させていた魔法を解除すると、自身の右手に魔力を集中させ始めた。魔法によって何の加工も細工もされていない、純粋なアランが体内に持っているマナ。その色は曇天の日の夜闇の如く、透き通った黒色をしていた。手のひらの上で球体上となって静けさを保っていたそれは、やがて炎のように揺らめきはじめ、アランはおもむろに研究室の方へと手を突き出した。


「そんなに魔法が好きなら、純粋魔力でも浴びてろ馬鹿共めが!!」

「うぎゃっ!」「いった……!」「おっぉぉぉぉぁ!」「るえらぁ!!?」


 黒い魔力が火山の噴火の如く迸り、幾つもの礫のように小さな魔力塊へと形を変えたそれらは、アランの怒声をまともに聞いていなかった研究員達に吸い込まれるように飛んでいき、――いや、文字通り体へと入り込んでいった。

 魔法に変質していない魔力は、熟練した魔法使いであれば相手に自身の魔力を譲渡し、一時的に回復させたりするという業も為すことが出来る。とはいえ、回復魔法のように相手の魔力の形に変質させ馴染ませるわけでは無いため、一時的な増強効果はありつつも回復は魔力が自然に馴染んでからとなるため気付け薬にも近しい効果にすぎないのであるが。


「ホホ! なんの騒ぎだ……また爆発させたのか! しかも魔王様を巻きこんでまでとは!」


 廊下突き当りにある副局長室からフクロウ頭の老人が出てきた。フクロウは視野が非常に狭いとされるが、それは副局長も同じのようで廊下を見渡す為にわざわざ首をぐるり回した。視界にまずメイルとアランの姿をおさめ、アランが復活したことに喜んだように嘴の端をゆがめさせたが、折れたアランの角と粉々に割れたガラスなどを見て瞬時に頭部の羽根が逆立った。魔王城の役人の中でもアラン、ファンファンロに次いで高い魔力を持つとされるだけあり、その怒りによって荒ぶる魔力にメイルは小さく息を飲んだ。とは言ってもアランの魔力量が副局長をもってしても桁違いであるため、そこまで恐怖心は感じることは無い。


「良い、副局長。既に罰は与えた。急性マナ中毒でしばらくは体がまともに動かせんだろう。……まぁ、魔法研究が滞ってしまうかもしれんが、すまぬな。先に謝っておこう」

「いえ……最近は特にめぼしい発見も進展も無いものでしたので構いません。むしろ、このアホゥ共は一度灸をすえる必要性があるかと思っておりましたので、ありがたい話ではありますなぁ。……とまれ、御帰還……でしょうかな? わたくしめも嬉しく思いますじゃ」


 アランの方へと恭しく礼をする副局長。アランは小さく溜息をついた後、副局長に苦笑しながら頷いた。アランの魔力を吸収した研究員達が個々で体勢の違いがあるものの、皆が皆、体を痙攣させつつ床や机の上に倒れ込んでいた。意識も混濁としているようで、アランの魔力を受けなかった研究員が頬に思い切り往復ビンタを浴びせたりしているが、なんら反応は無い。

 アランもほどほどに加減しているため魔力中毒によって死ぬことはないが、三日ほどは、満足に体も動かせないだろうと思われた。


「魔王様……それはそうと、角は……?」

「む、あぁ、そうだな。メイル、ちょっと抜いてきてくれないか」

「は、はい」


 石壁に突き刺さるという異様な硬さの角の目の前にメイルは立つと、右手で角を持ち、左手で体を突っ張らせながら引っ張り抜いた。壁に刺さっていた角の先端らはいずれも駆けることなく鋭利さを維持している。


「すまんな。案外重いであろう」

「そうですね……模擬剣くらいの重さは歩きがします」

「ホホゥ」


 アランが自身の折れた角の部分を手で撫でつつ、自嘲するような自慢するようななんとも複雑な声音で言うと、副局長がアランの角に興味を持ったのか好奇心を隠せていない目でジッと折れた角を見つめていた。


「なんだ。この場で少し観察する程度は許すぞ? 折ったり削ったりは許さんがな」

「お、おぉ! ありがとうございますじゃ!」


 メイルからアランの角を両腕で抱えようにして預かると、地面を歩くのを慣れていない様子で一生懸命足を動かしつつ研究室の中へと入っていく。副局長が研究室の机の一角に角を置くと、魔力中毒になっていない研究員達がその周りに集まってきていた。常識人な副局長とはいえ本質的には研究員達とは大差なく、自身の好奇心には酷く従順なのである。老人とは思えぬアグレッシブささえ感じ取れるだろう。


 そんな副局長を流石に呆れた表情で見るアランと、唖然と見ていたメイル。脳裏に友人のマッドサイエンティストが浮かんだためか、どことなく頭痛を覚えつつ隣で呆けて立っている部下へと尋ねた。


「メイル。戦場(いくさば)はどんな状況であった?」

「丁度本日、黒骸軍の大規模侵攻が起きるところでしたが、その前に起きていた不審な動きから事前に察知することで出来ましたので、サーディンリューを用いた威嚇射撃にて阻止することが出来ました。後に報告書をまとめて提出したします」

「わかった。まぁそれは明日でも良い。ひとまずマーキュリーの方へと行ってやってくれ。小娘とナターシャは居るが、メイルも居た方が気が楽であろう」


 アランの指示……というよりも頼みに恭しく礼をして「了解しました」と従うメイル。が、次に瞬間には不可解な表情をしながらアランに質問をすることになった。


「ですが……魔王様、ナターシャは仕事が終わっているのですか? 財務部は季節の変わり目は魔獣の手も借りたいほど忙しいと聞いていますが……」

「なに、我がすべて片付けるさ。久しく書類作業もしていないのでな。たまにやらねばやり方を忘れてしまう」

「しかし……魔王様、ここ最近はまとも眠れていないではありませんか……いくら丈夫と仰られてもお体が心配になります……」


 金色の炎の如くゆらめく目でメイルを見下ろすと、心配そうな目で見てくる金髪の少女の頭をぽんぽんとやさしく叩く。


「齢五百年程度の娘に心配されるほどやわな人生送っとらんぞ」


 予想外のいじわるな返答をされ、少々ムッとした表情になるメイル。言い返さんと脳内で記憶の海から出来事をさがし、そして最近の記憶からわりと簡単に見つけ出すことが出来た。


「いつも姫さ……お、お嬢さん……にやられてることを思いますとつい……」

「わかったわかったこやつめ。さすがに小娘の話題を出すのは卑怯であろう」

「いえ、本当に心配で…「わかった。まぁ心配せずとも三徹程度で倒れたりせんよ」


 フラグなどではなく、純粋に心配を取る為にアランは断言する。たしかに猛烈に眠たくはあるものの、気力は充実しているため気絶でもしなければ寝ることは無いだろうと思われた。


「そうですか……わかりました。ですが……テロ事件の捜査において戦力が必要となったのならば、呼んでくださいね」

「……あぁ、わかった」

「失礼します」


 今度も生真面目な軍人らしく礼をし、一瞬アランの角や地面に散らばるガラス片などを思い出して立ち止まるが、自分の仕事の領域ではないとなかば諦めた表情で階段を上っていった。

 アランは無言で軍務部の制服である皆紅色の服を着た背中を見送る。


(……メイルも、やはり怒っているのか。妹も同然と言えるからか……家族……か。そう言えばスレイの姿を見ていないな……やはり、我に子を育てることは出来んか……いや、後ろ向きの思考は駄目だな。前向きで、なくば)


 アランは一度深呼吸をすると、爆発によって割れた窓から研究室に頭を覗かせて怒鳴った。


「そろそろ返せ我の角!!」


 わりと本気の怒号である。


 ☆


「それで、どう思う。この死んだ研究員のことは」

「……わかりかねますな。少なくとも死亡推定時刻より後には姿を現しておりましたじゃ」

「……クラウス擁護士と同じ状況だな。どういうことだ……? お主もだが、マーキュリーも含め個人の魔力を間違えるとは思えん……」


 副局長室内にある応接スペースのソファにそれぞれ座り、神妙な面持ちで向かい合うアランと老人。ふたりの間にある机の上には警察の捜査した情報が書かれた資料が乗っており、老人が時折その資料を見返しつつ話をしていた。


「我の知らぬ魔法だが、お主なら知ってると思って来たのだが……」

「申し訳ありませぬ……他国や民間での噂も研究の為に集めたりはいたしますが、やはり聞いたことはないですな……魔獣の一種、という可能性はいかがでしょうかな?」


 ひとまず頭に浮かんだ可能性の一部を口にする副局長。アランは怪訝な表情を浮かべつつ、副局長の発現を否定する。

 アランの頭部の角は相変わらず右側の方だけ折れたままであり、アランの座るソファに立てかけてあった。魔力中毒にさせるために、変に魔力を消費したため上手く回復魔法が使えなくなっていたためである。とは言っても自分自身に回復魔法をかけても、効果が非常に出にくいため他の誰かに頼むつもりでいた。副局長は回復魔法を使えないため、必然的に話が終わった後になるのだが。


 ちなみに研究員の一人に回復魔法の使える者が居たが、もれなくアランの制裁によって魔力中毒として救護室に運ばれていった。


「我の扱える“神話級魔法”と同系統のものを扱えるものが居ると? それこそにわかには考えられん。ファンファンロぐらいの魔力量は必要不可欠だ。魔石を使用してどうにかなる魔法でもないからな」

「ふむ……たしかにそうですな……」

「まぁだがそれも考慮に入れておくべきであろうか……姿はともかく、魔力までコピー出来るなど魔獣でもいなかったとは思うのだが……」


 どちらも険しい表情になって黙り込んだ。それぞれが脳をフル回転させ、事件の糸口を探そうとしていると部屋の扉が開き、炎鬼の女性がコーヒーを入れて持ってきた。それぞれの前にカップが置かれ、机の端にミルクや丸く固められた砂糖の入った小瓶らが盆の上に乗ったまま置かれる。

 副局長がコーヒーを口に含むと、不意に何か思いついたように顔を上げた。


「そういえば……」

「なんだ?」


 手元に置かれたコーヒーの存在に副局長の声を聞いて面をあげた拍子に、やっと気が付いたアランは、砂糖入りの小瓶を手に持って見ている方が胸やけしそうなほどの量の砂糖を入れてスプーンで混ぜる。その様を目撃した炎鬼は思わず目を丸くしたまま立ちどまり、アランの味音痴を知っている副局長も久しぶりの光景に思わず顔を引き攣らせている。


「どうした?」

「……あ、いや魔王様。い、いえ……別に……」


 炎鬼の女性に見つめられている事に気が付いていたアランが首を傾げながら言った。


「あぁ。これのことか。いや、すまんな。脳を酷使しているせいか異様に甘いものが欲しくてな……普段はコーヒー豆を唐辛子と一緒「魔王様、それでわしの意見ですが……」あ、あぁ。そうだったな」


 副局長があわててアランの話を遮る。炎鬼の女性がアランの説明にどことなく納得した様子で頷いていたのを見て、つい副局長はホッと肩をなで下ろした。


「え、えぇ……“死者蘇生(レイズデッド)”や“亡者使役”などに類する魔法であれば、まだ神話級よりも低いやも……」

「……なるほどな。まぁ死者蘇生は、僧侶たちの中でも数えるほどの者しか使えない世界級魔法の一つだからその線は薄いと言えるが……」


 アランは自身が知る中でも最も僧侶系魔法に卓越した女性、犯人候補の一人にも挙げられているサーシル・フェルトリサスの姿を脳裏に浮かべる。数えるほど、とは言ってもアラン自身サーシル以外が使えるという話を聞いたことが無いのであるが。


「……それに、“死神の契約(リーバーコントラクト)”等でも組み合わせれば偽装出来るやもしれんな……」

「これならば魔術研究の三大限界点たる、精神操作、時空操作、生命創造のどれにもひっかかりませぬ。……とりあえず、今思い浮かぶ方法としてはこれくらいですな……他に思いつき次第、追って報告させていただきますじゃ。魔王様もまだお仕事があるのでは……?」

「……うむ、そうだな。仕事の邪魔をしてすまない。よろしく頼む」

「いえ、申しわけ御座いませぬ……修理費を求める報告書なども書かなくてはならず……しかし、魔王様の為とあらば出来うる限り老骨に鞭打ってでも働きますじゃ」

「あまり無理はせぬようにな。そなたももう若くはないのだ」


 アランは副局長が促す通りにそろそろ自身の執務室へと戻ることにした。実際に仕事もかなり残した状態で息抜きもかねて副局長の下を訪れており、加えて副局長に何らかの動揺をさせたせいで体調を悪くさせてしまったのだと察したのである。自身の味の趣向の所為で変に動揺を与えているとは、勘の良いアランも気付かなかったようだが。

 ……というよりも、アランの身の回りの世話などもしているファンファンロ達にとって、何故自分の味音痴の事に関しては勘が鈍いのかというのは何年たっても結論の出ない傍から見ればふざけているとしか思えないアランの欠点であった。


「ではな」


 椅子から立ち上がって見送る副局長の居る部屋を出て、折れた右角を杖のように持ちながらガラスが散乱したままの廊下を歩くアラン。堂々とした歩き方をしては居るが、角を持っていない左手で首が凝っているかのごとく押さえている。


「……やはり片方の角がなければバランスがとりにくくて適わぬ……」


 アランは階段の前で立ち止まり、疲れたように一人ごちる。背後から研究員達の視線は感じるが、アランの大事な角を研究材料として見つめているものだと察しているため相手にしないようにしている。


(……そろそろ魔法も使えるようになるか。“空間転移門(ワープゲート)”で戻るとしよう……)


 アランは歩くのが嫌なため、ひとまず自分の寝室の前へとショートカットをして戻った。


◆◇◆◇◆◇


「魔王様~。サーシル・フェルトリサスがお忍びでやってきている事に関しての資料をお持ちに……って、角ッ! くふっ……くふ……ふふふ」

「ファンファンロ……」


 部屋に入るなり、目の前に現れた片方の角を失くした主の姿に思わず吹き出すファンファンロ。アランは部下に呆れたようなた怒ったような声音で窘めるも、笑い上戸気質のファンファンロの笑い声はそう簡単に止まりはしなかった。


 アランは頭痛を覚え始めた三分ほど後のこと、ファンファンロは目じりに浮かんだ涙を拭い、肩で息をしながら何気なく語った。


「ふぅー……って、魔王様の角が折れてるってことは姫様にプレゼントなされたので? 結構満面の笑みで持ってましたねぇ……」

「……なんだと?」


 アランは手元の報告書にサインしていた手を思わず止め、自身の耳を疑った。


「我の寝室前に置いていたはずだ……鍵は執務室の前に置いていたから、ひとまず寝室の前に置いていたが……」

「魔王様とかの部屋は空間転移で直接入ったり出来ないようなってますしね。執務室も角おける場所なんかないですし……あぁ……」

「なんだ……?」

「人の部屋の前に置いてあるものを触ってはいけないっていう一般常識って、そういえば人族にはなくて魔族にだけある慣習でしたね。もしかして、お嬢様それ知らないが為に……」


 アランは思わず立ち上がる。急に立ち上がった所為で書類の山の一部が崩れたが、なんとかファンファンロが上手くキャッチした。

 アランの顔や瞳に浮かぶのは、ただ、焦燥のみ。

 自身の主、フェア・ハートレスの手に自身の片角が握られているなど嫌な予感しかしないのだ。


「早く小娘を探せえぇぇぇぇぇ! 要らんことをしでかす前になんとしても探し出せぇぇぇぇぇぇ!!」

「ぶふっ……! か、かしこまりました。ま、魔王様……くふふふふふふふ」


 焦るアランの様子を見て思わずツボに入ってしまい、再び大笑いし始めるファンファンロ。

 そんな彼がアランに窓からぶん投げられるのはその数秒後のことであった。


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