表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王様はお嬢様の下僕になりました  作者: 亜桜蝶々
第3章、テロリズムと形の無い悪意
24/26

コラテラルダメージ

 魔王城の敷地内にある真っ赤な屋根の、大きさの割には堅牢に過ぎる建物。建物の周りは堀に囲まれ、屋根や壁には物体の耐爆性や耐火性などを高める魔法が付与されている。

 魔族国内には交通機関として、点々と各所に存在する建造物がある。距離に応じた相応の金額を支払うことで、建物内に備え付けられた空間転移魔法の付与されたゲートを使って移動するというサービスを提供している、通称“駅”と呼ばれるものだ。

 真っ赤な屋根の建物は駅に酷似しつつも、魔族国でも特命を受けた者や最上位の階級の者だけが利用できる特別な駅である。


 ☆


 再び時をさかのぼり、テロ事件から翌日の朝。つまりライアーの悲痛な声が響いた頃。

 魔王城地下にあるアラン直属の特殊組織である魔法開発部の者たちが、紙とペンを用いて複雑な魔法陣を書きこんだり、火にかけられた巨大な鉄鍋の中身をかき混ぜていたりしている。何が行われているのか彼女には検討もつかない光景をガラス越しに見ながら、白い石のタイルが貼られた床をカツカツと規則正しい足音を鳴らしながらメイルは歩く。


「火のマナを光のマナで覆う事によってだな……」

「いやそこは単純に覆うよりも毛糸玉のように糸の形に伸ばしたものを」

「駄目だ!」「駄目だ!」

「なら、こうお椀二つを合わせるような」

「駄目だ!」「駄目だ!」

「お前らなんだよ」


 廊下に備え付けてある椅子と机に座りながら何やら論議を繰り広げる男達。手元には誰かが居れたのであろう紅茶がカップに入っているが、どのカップも一様になかの紅茶が冷めてしまっている。彼らの脇を直接的にでは無いとはいえ、上官にあたるメイルが通ったとしても気が付かずにずっと議論を続けるほど熱中しているようである。


(やはり魔法研究者も科学者(バルドロス)様に似たような性格の人物が多いような気がするなぁ……まだあの方のほうが酷いものだけど)


 魔族国の騎士達の正装である皆紅色の制服の袖を軽くはためかせながら、過去に目撃したバルドロスの言動を思い出し、若干顔を強張らせる。男達の反応はクロノスなどが相手であれば眉を顰めて注意しただろうが、自身の部下でもない者に注意するほど真面目な性格でもないメイルは気にせず横を軽やかに通り越す。


(悪い方では無いことは無いことは解ってはいますが……どうしても苦手意識がありますねぇ……)


 心の中で愚痴を述べつつ、廊下の突き当たりにあった地味に装飾の凝った扉の前で立ち止まってノックする。室内からは目的の人物の声が聞こえてきた。


「失礼します。魔法開発副局長殿。軍務大臣、メイル・フローレンスです」

「お、おぉぉ? これこれ、ちょっと扉を開けてきなさい」


 部屋に訪れた人物の正体に素っ頓狂な老人の声があがる。パタパタと駆け足で歩く音がしたと思えば、ドアが開いて眼鏡をかけた赤い肌で額に一本の角を生やした女性が姿を現した。部屋の奥にある椅子にはフクロウのような頭をもった老人が座っている。老人は首を左に九十度首をひねりながらメイルに聞く。

 女性が礼をしたのに会釈で返すと、メイルは老人の目の前で


「ホホウ、メイル様どうなされましたか」

「すいません、少し席を外して貰えますか」

「……かしこまりました」


 赤い肌の女性――炎鬼(えんき)と呼ばれる種族の女性はメイルに言われたことに従い、扉の外へと出ていった。老人はどこか不思議そうな顔をしながらメイルを見る。手元にある資料の入った大型の封筒を手渡す。


「これは……やはり、魔王様が戻って来られたので?」

「その通りです。こちらはその魔王様からの指示書ですが、各自責任者ごとに役割分担を行って実行してくださいとのことです」


 封筒に押された封蝋の印の形を見て、自分の上司でもあり魔族の王でもある魔法開発局の局長アラン・ドゥ・ナイトメアの印だということを確認した。


「ふむ……しかしわざわざメイル様が? 侍従やメイドでも……」

「いえ、私自身もこちらに用がありましたので。ついでに持ってきたのです」


 個人的に本題である事案に関し、一瞬居住まいを正すメイル。


「“長距離空間転移門(ロング・ワープゲート)”の枠型式の使用許可を」

「ふむ……それはよろしいのですが繋げる場所はどういたしましょうか?」


 鳥の脚のような細い両腕をひじ掛けに置きながら、今度は首を右側に九十度回転する老人。嘴の下に生えた白い髭のような羽毛が微妙に頭の向きとは反対側に曲がり、身に纏った補色である黒いローブのおかげでいい具合に目立って見える。


「魔族国軍第一基地内にある緊急用転移枠です。時間は、そうですね……6時間ほど繋げておいてください」


 メイルが手元に持っていた用紙を老人の机に置き、用紙に目を通した老人がしばし考え込むように黙ったあと、十秒ほど経って首を縦に振った。


「ホホウ。かしこまりました」


 老人は立ち上がるとゆっくりとした足取りでメイルの横を通り、うち開きの扉を開いたすぐ傍に立っていた女性に話かけた。


「メイル様が枠型を使いたいそうなのだが、君に任せても良いかね。その間に資料には目を通しておく」

「はい、わかりました。ではメイル様。こちらへ」


 赤い肌の女性に促され室内を後にするメイル。女性がドアを閉めたあとメイルが歩いてきた道ではなく、老人の部屋から見て右にあたる方向に延びる道を歩いて行く。


「しばしお待ちを」


 炎鬼の女性が青色に見える石で造られた扉の前で止まる。青い扉の横には金庫のような金属の小さな扉がついており、そこを開くと中にはドーム状の形をした魔法石が置かれていた。ドームに右手をかざした女性が何やら呟くと、誰の手も借りずにドアが開きだした。


「こちらに手を」


 女性に促されるままメイルも魔法石に手をかざした。これで良いのかと女性を見れば頷いており、そのまま青い扉の内側へと入っていく。二人が入ると扉が静かに締まり、薄暗かった室内は光が入らずに真っ暗で何も見えないような状況となった。


「“(ヒート)”」


 女性が発動させた初歩級魔法によって、暗闇のなかに一点の仄かで小さな炎が浮かび上がった。炎は女性の人差し指の先に灯されており、その指がおもむろに壁に近づけられる。すると壁に貼り付けられていた糸に炎が引火し、瞬く間に部屋の天井に張り巡らされた糸を伝って広がっていく。それぞれ天井から垂れた糸の先には天井に吊るされたランタンがあり、それらに火がつくことで部屋の中が明るく照らされた。糸には炎は伝播させるが燃焼は持続しないようにする魔法が付与されており、炎が伝った後の糸は普通の糸となんら変わらない見た目のままであった。


「行く先は」

「魔族国軍第一基地内、緊急用転移枠で」

「かしこまりました」


 女性は部屋の隅にある棚の方へと向かい、何かを探し始める。その場で待機しておくしかないメイルは、部屋の奥にある物体を見た。赤茶色の木の角材で作られた四角い枠である。木の属性と光の属性の複合魔法によりまったく別の木であった木材同士が、あたかも接ぎ木のごとく元から四角形であったかのように合着されているのだ。


「ゼロのイチキュウ……ありました。これですね」


 紐の取り付けられた黒い石材製の四角い棒を見つけた女性は、木の枠の脇に彫られている四角い穴にその棒を挿し込む。棒を挿したままにし、女性は枠に手を当てると必要な分だけ自分の魔力を対象の枠に注ぎ込む。すると枠の中空に小さな黒い渦が出来、徐々に大きくなって最終的に枠の内側と同じ大きさにまで渦が大きくなった。


「時間は如何ほどで」

「6時間ほどで戻ってくる予定です」

「了解いたしました。ではそのころに錠を外しておきますので」


 女性は深々と礼をすると、メイルを残して部屋の外へと出ていった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇


 空間転移上位転移魔法が付与された黒い石材で作られた枠をメイルはくぐった。縦五メートル横四メートル程度の枠の中には青や黒色の混在した渦のようなものが出来ており、枠を横に倒して夜に水辺で見れば渦潮に見えなくもないとよく噂になるものである。

 空間転移をする際特有の微妙な眩暈を目を閉じて堪えつつ、頭を上げて目を開ければ視界に広がるのは木材を積み上げたログハウスという建築物の壁である。魔族領の森は植物の成長が速く、建築に使う素材は主に木材なのだ。金のある者は魔法を用いて石材による家を建てたりもするが、簡易的な建物であれば専ら木材建築である。


(やはり木のにおいは良いなぁ、落ち着く。悪いとは思うけど城の清潔な感じのする、水に濡れた石の臭いとかよりも、やっぱり土や草木の香りの方が落ち着くんだよね。いえ、魔王様のにおいならば幾らでもよろしいのですが……森の中で魔王様と二人だとかとても……)


 一人で妄想して顔を真っ赤にするメイル。彼女が居るログハウスの中に誰もおらず、窓からも彼女の顔を赤くしたのは見ることが出来なければ、幸い中を窺う者も居ない。一度咳払いをして自分の脳内を整理すると、自分の正面にある扉から外へと出る。


「将軍!」

「ご苦労様」


 扉のすぐそばに立っていた二人の兵士が、建物の中から出てきたメイルに驚きつつも敬礼をする。その周りに居た兵士たちも慌てて敬礼をしてメイルを見る。


「えっと……あなたはジョン剣将だったかな?」

「ハッ! その通りであります!」

「魔将達を集めて来てくれる? いつものところに居るって言えば伝わるはずだから」


 背中に特徴的な形をした大剣を背負った全身を白い毛で覆われた大男がメイルの言葉に答えた。剣将と呼ばれる魔族国軍の中でも小隊指揮権を持ったなかなかの実力者である。


「かしこまりました! しかし……」

「何?」


 老けて見える見た目とは違い、若々しい声で反応はするも何故か言いよどむ男。メイルはその理由をなんとなく察しつつも一応聞く。


「へリオロース魔将殿が、本日は休番であるため遊郭へと……」

「やはり……またですか。戦いの腕は立ちますが彼の女好きは本当に呆れますね……性欲発散にしても目に余ります。あなたでは彼も言うことを聞かないでしょうし、テスカ魔将に説得するよう伝えて頂戴」

「ハッ! 了解しました! では失礼いたします!」


 メイルに男は再び敬礼をし、魔将達の住居の居並ぶ区画へと歩いて行った。メイルがいつものところ――司令部簡易会議室に向かおうとしていると、転移門のある建物の扉を守っていた兵士がおずおずと口を開いた。


「将軍」

「何?」

「まことに主観であるため勘違いであれば申しわけありませんが……顔が赤いのは、風邪「勘違いです。これがいつもの顔だからあなたが心配するようなことでは無いから安心しなさい」は、はい」


 ☆


「しかしなんら変わらないように見えて酷く怪しいもので。誘っているようにすら……」


 魔将達との情報確認の会議のなか、ふと独りごちるメイル。手元の紙に記入された文字をジッと見ながら、訝しげな表情をとる。六人居る魔将達が一斉にメイルの方を見る。


「魔王様が復活されて、警戒している……? いや、あぶり出しでしょうか。斥候の量が異常に多くすぎるし、なんでしょう……」


(無理はないだろうけれど……魔王様が出てくれば黒骸軍もただでは済まないだろうし……)


「斥候を捕えて尋問でもしましょうかい」

「いや恐らくあれは奴隷による偽装かと。あまりにも行動が稚拙すぎますし……それだと情報も期待は出来ないかと」


 メイルの言葉に二名の魔将が意見を述べる。メイルが二人の意見を聞いて頷いていると、ふと白い鎧を纏った男が馬鹿にするように言葉を口にした。


「奴隷より娼館の女の方がうめぇしな。奴隷なんかなんも良いとこねぇし、こんなことにしか価値がねぇや」


 白い鎧を身に纏った男のその言葉を耳にし、メイルは立ち上がって思い切り机に拳を振り下ろす。大半の怒りにわずかな殺意を込めての衝撃に、一瞬部下達が硬直した。それぞれが熟練の戦士である彼らは殺意や敵意を察知する能力も高く、そして相応に相手との力量の差を明確に感じ取ることが出来る。


「黙りなさい。戦地娼館誘致(せんちしょうかんゆうち)の法で軍後方に遊郭街があるからと言って、指揮官の立場でありながら休みさえあれば女にかまけるような節操の無い貴様は、ここでも私を落胆させるのか? 自身の役割を真っ当せん貴様に、私語をする権利などない。ふざけてないで真面目に考えろ」

「……すんませんね」


 種族だけであればメイルよりも優れた戦士たちが居る中、誰もが彼女の怒りに息をのむ。メイルであっても六名全員を相手にすれば勝率は皆無に等しいものの、その事実を差し引いたとしても恐ろしいほどに研ぎ澄まされた殺意であった。さらには普段は意識して押さえている魔力が怒りによって制御が効かなくなり、嵐のように荒ぶっているのである。刃物の危険性を理解し、何よりも天候に左右されやすい戦場に身を置く者としてメイルの今の状態には冷や汗を禁じ得ないのだ。

 白い鎧の魔将は一言謝るとメイルから視線を逸らす。メイルはしばらくその魔将を睨んでいたが、やがて椅子に座り直した。五名の魔将から安堵の声が漏れる。


「……続ける。さて、どう思う? 私は襲撃があるとすれば今日の午後あたりには、もう来そうな気がする」

「今日の午後……ですか。確かに真面目に偵察をしていたならば、悟られたら意味が無いですし、たしかに斥候があまり来なくなりましたしね」

「とはいえ早計では無いでしょうか。まだ情報が少ないですし」


 メイルの意見に賛成するような意見と反対意見があがる。


「とはいえ今の所そうとしか思えませんし……とりあえず数日の間警戒態勢を取りましょう。たぶん私が居なくなったとも思われてるでしょうし、威嚇射撃でもしますか」

「その前にウチが上空から奴ら探してみましょうか?」

「……そうですね。ただし危険極まりないですし、この陣地内上空から探してみて頂戴」

「了解。けど、威嚇射撃なんかよりそのままぶち込んだ方が効果あると思いますよ?」


 軽量化の魔法が付与されている紺色の鎧を纏い、巨大な茶色の羽毛の翼を背中に持つ女性が言った意見に動きが止まる。考えごとをする際の癖である口元に手をあてるポーズを取ると、脳内で様々な状況を考慮してシュミレートする。他の魔将達もそれぞれ自分なりに脳内で考え、やがて全員が結論を出した。


「……それじゃあ、見つけ次第サーディンリューで射撃するってことで良い?」

「そうっすね。普通の弓だと火力不足ですし、コストもかかるし、強襲を防げない確率の方が高いかと」

「……うん、わかった。じゃあちょっと行動しようか」


(でも、今現在まったくの膠着(こうちゃく)状態……敵に負けるのを望むわけでじゃないけど、何か変化は欲しいなぁ。いや……駄目だ。闘争の欲求がまだ湧いちゃうなんて……あの時から、戦は望まないと決めたのに……)


◆◇◆◇◆◇◆◇


(魔王様に命令された確認作業も終わったし、マーキュリーの所にでも行こうかな。でも、補給の確認などで昨日は潰れちゃったなぁ……不甲斐ないけど数字はやはり苦手だ……)


 案の定メイル達が予想した通り、黒骸軍の襲撃準備がハロンの森で行われていた。それを女の魔将ーー飛空戦軍隊長がそれを確認し、メイルがサーディンリューを使って着弾と同時に爆発を起こす矢を放ち、敵の軍勢を散らしたため奇襲を阻止することが出来た。


(数字……魔王様に教えて貰えたり出来ないかなぁ。部下に教わるのも立場的に微妙だし……魔王様と二人で勉強……)


 その後、再び会議を行い今後の様々な方針を決めた後、緊急用転移枠を通って魔王城(正確には地下だが)へと戻ってきたのである。

微妙にデレッとした調子に緩む表情を、老人の居る部屋の前に来た途端に外用の真面目な表情にもどすメイル。


「失礼します。副局長殿」

「おや、もうよろしいので?」

「はい。閉じておいて貰えますか?」

「かしこまりました……それにしても顔が赤いですが「大丈夫です、少し戦闘訓練をして火照っただけですので」は、はい」


 老人の台詞に被せるようなメイルの弁解に気圧されて、フクロウ頭の老人は気の抜けた返事をする。メイルは一つ小さく咳をして、


「それでは、少しまだやる事がありますので申しわけありませんが……」

「いえいえ、お気遣いなくメイル様」


 そそくさと退散し老人の部屋を出たメイルは扉を閉めた。上気した頬をなんとか元に戻そうと深呼吸を行いつつ、目の前の廊下を見ると4時間ほどは時間が経っていると言うのに、未だに男達が廊下の机椅子に腰掛けて討論をしていた。コップの中の紅茶の量が減っているのは、自然蒸発によるものだろう。

 メイルが思わず呆れて居ると、廊下の向こうからとても見覚えのある姿が見えてきた。


「魔王様!」

「メイルか。どうしたのだ?」


 黒のローブに鋭い爪の生えた手、鹿のような骨に鹿の角が生えたような頭を持つ、3メートルもの巨体を持つ化物。アランであった。右手には十字架の頂点に輪っかを付けたような、濃い緑色の杖が握られている。実はアランによってガルドゼニファ等のメイルの武器と同じ時期に作られた、強烈な魔法の付与された杖であるのだが世間一般には知られていない。


 アランの魔力の量では、なんの鍛錬の積んでいない魔族ですら努力することで探知することが出来てしまうため、どうしても混乱が起きてしまう。それを偽装するために“探知妨害魔法(マナズ・ノット・サーチ)”を使用して行動することになる。


 研究者達は魔力を感じないためアランの存在に気がつかず、ずっと話を続けていた。メイルがそんな彼らに呆れや苛立ちを覚えつつアランの元へと歩き、アランも前に歩く。アランは気にしていない様子で研究者達を通り過ぎ、廊下の中央辺りでお互い立ち止まった。最近にしては珍しくフェアがついて回って居ないようである。


「駅の使用をしておりました。軍の方の確認は済みましたが報告はどういたしましょうか」

「それはまだ良い。しかし……あのヘリオロースと言うものはどうだ?実力は申しぶんないようだが、あれは性格に難がありすぎるであろう」

「そうですね……昼間からの飲酒。遊郭への入り浸り。奴隷への……」

「奴隷の、なんだ?」

「……あ、いえ。間違いでした、これは他の者です。申し訳ございません」


(バレただろうなぁ、私が今嘘ついたの……)


 アランのへの報告をしながら、心の中で密かに嘆息するメイル。アランの勘が非常に鋭いことを彼女は知っている。今の自分のついた嘘にアランがどう思って居るのかはメイルには不明であったものの、漠然と気が付いているのであろうと確信は持てていた。

 メイルが何か言葉を続けようとした瞬間、異変に気が付いた。アランの後方に居た研究者たちが慌てて立ち上がってアランが降りてきた階段の方へと逃げ、メイルが逃げるのはほぼ同時であった。

 しかし、アランは動かない。

 メイルはそんな主の動きに一瞬驚いたが、とあることを失念していたことに気が付いた。


 “探知妨害魔法(マナズ・ノット・サーチ)”は短所として、使用中に魔力を探知するのに数秒の遅れが生じるのである。


 アラン達の居る場所は魔法開発局。

 新たな魔法の開発や、魔力の籠った素材を用いて武器や新しい素材開発をする場所。

 そして、最も魔力の暴走による爆発事故の起きやすい所である。


 開発局の研究員達が集う部屋の一角に、魔力暴走によって真っ赤に染まった一般家庭サイズの鉄の釜。そしてガラス一枚挟んだ場所は廊下。そして鉄鍋の真正面に立っているのはアラン。

 メイルの動きを見て訳が分からないながらも、アランが回避行動を取ろうとした瞬間。鉄鍋が限界に達し、白くなった頃にやっと魔力の暴走に気が付いた。


 勿論時すでに遅いわけだが。


「魔王様ーーーー!!」


 メイルの叫び声はアランを巻きこんだ爆発事故の音にかき消されてしまうのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ