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魔王様はお嬢様の下僕になりました  作者: 亜桜蝶々
第2章、愛と忠誠心、そして四主。
17/26

四主会議

 魔族領西北部にアドッティス魔境森林と呼ばれる場所がある。

太古のこと、アドルフとティスラーファという二体の魔王を名乗る者達がこの場所で争い、そして両者が死んだ、と民衆に認識されている場所である。

 その二体の死体が豊潤なマナを生み出したため、植物は栄え、それを求めてきた亜龍などをはじめとし、不死鳥や古龍といった種族的に最強とも呼び声高い者達が、数多く生息しているとされる森。まさに魔に至る森林である。


 そんな森林の真っ只中に一つポツンと存在するのは、白い石の柱、白い石の屋根、白い石の床、白い石の階段、白い石の手すり、白い石の机椅子。


 魔族領各国首脳会議。略称、四主会議と呼ばれるものがとり行われる議場である。

壁も無い石柱の間から見えるのは深き緑の森。木々の合間から龍の鱗の色や果物の色が森の深さをより助長させる。


 そんな建物の中にある四脚の椅子の一つにアランは座っていた。彼本来の狼の骨に角が生えたような頭の姿で、である。その横に佇むのは執事長(ホルター)のファファンロ。

 アランが肘掛に肘を置き、頬づえをつきながら休息を取ることしばし、遠くから魔獣達の咆哮が時折聞こえるだけだった空間に、コツンコツンと多種多様な音階の、床を蹴る複数の音が鳴った。


 アランは姿勢を正すとその音の人物へと話しかけた。


「バルドロスか。よくもまぁそれほど多くの護衛を連れてきたな」

「君やルグリウスのように強い手下を持ってるわけじゃ無いしな。質より量って事だ」


 と、バルドロスはアランの背後にいるファファンロを見ながら言った。ファンファンロはそれに気づいているのかは不明だが、そのまま目を瞑り感覚を研ぎ澄まし続けていた。


バルドロスに就いている護衛は二十名、そのうち一人だけは丸腰でなぜか白いローブを着ていた。護衛達は目の前で貶されながらも動じず、ただジッと黙している。おそらく、バルドロスの言動に慣れているのだろう、とアランは推測した。

 バルドロスは自分のすぐ近くにあった椅子に座った。アランから見て左側、方向からして北北東の席である。


 ふとアランがバルドロスの背後の護衛達が持っている金属の棒のような物を発見した。金属の筒に木やら黒曜石やらがついており、一見すれば楽器のようにも見えなくはない。だが、各領の代表が一堂に会するような場で楽器。というのは不自然である為、アランはダメ元でバルドロスに聞いた。


「バルドロス、護衛達が持っているのはなんなのだ? まぁお前のことだから教えないだろうが」

「そうだな、教えるわけが無い。まぁ魔導杖のようなものだとでも言っておこう。……まぁ君の国の魔法研究の情報と等価交換なら検討はするがね?」

「ふむ……考えておこう」


 バルドロスの研究成果であるために多少興味がそそられたのか、前向きそうな声音でアランは返答した。性格に難があるとはいえ、やはり科学者という新しい職業の権威が発明した、という物には相当な価値や力があると見たからである。

 何かわけのわからない数字を紙に書き続けるバルドロスを横目に見ながら、再びアランは目を瞑った。


 再び静かな空気が流れる。

 流れるのは紙に何かを書きこむ音と、微かな呼吸音。そして古龍などの鳴き声。


 そんななか、アランはファンファンロの方へと振り向いて提案するように言った。


「今ならまだ自由にしていて良いぞ?久方ぶりの家なのだから、飛んでくると良い」

「……お気遣い感謝いたします。ですがまぁ……嫌われているみたいですから。遠慮しておきます。それにこの空は狭いですし」

「……そうか」


そう言うと二人はまた沈黙し、精神を集中し始めた。他領の主を探すために。


数分後、とある異変に真っ先に気が付いたのはアランだった。


「南東方向……獣共が伏したか……報告通りなんともまぁ強力な魔法だな」

「“聖獣女王の子守唄”。どんなに強力な獣でも安らかなる眠りに引きずり込む僧侶最高の魔法、だな」


 紙から目を離し、アランと同じ方向を見ながらバルドロスが言った一つの魔法の情報。それにアランは感心したように目を見開いた。


「まさかお前がそんな情報を知っているとはな。意外とは言わぬが少々驚いた」

「俺は政治家じゃねえから君とは意味合いが違うだろうけどな。情報は研究にも必要不可欠だ、情報とは誰にとっても等しく重要で絶対的な力を持っている。たとえ……それが嘘の情報だとしてもな。あぁ、別に君からの魔法技術提供を疑っているわけでは無いよ」

「…………まぁな。そもそも我がそのような輩でないという事ぐらい、お前もわかっておろう」


 そうアランが言うと、バルドロスは微笑むようにその仮面のような顔をゆがめた。アランもそれに苦笑するように返す。バルドロスは再び視線を紙に向け、また何かを一心不乱に書きつづりはじめた。そんな友人を横目に、内心で舌打ちをするアラン。


(技術交換で価値が引くければ、こちらもあまり多くは供与せず、という事か。威圧なんぞかけおって……まぁこのような場で話すのならば仕方がないのかもしれんが)


 といったことを考えつつ、アランは振り向いて背後の家臣に注意をする。


「ファンファンロ、起きろ。だらしがないぞ。抗い難いことは知っているが、護衛たるお前がこのような魔法に負けるなどあってはならんだろう」

「うっ……くっ、も、申し訳ございません魔王様、これ……かなりキツイ、ものでして……なんとか、持ちこたえてみせます……」

「そうか……ならば良いが。立ったまま寝るとはなかなか器用だな」


 アランが茶化した言葉に軽く顔を赤くしつつも、ギリギリ範囲内に入っている為に“聖獣女王の子守唄”の効果でうつらうつらとしているファンファンロ。なんとか襲い来る眠気を堪えろこと数分。魔法の詠唱が止まると同時に椅子に座る二人と、侍従長(ホルタ-)の耳に軽い足音と、金属音を発する鈍い足音が聞こえてきた。

 魔法の解除により、眠気が取れて脳がはっきりと働くようになったファンファンロが言った。


「この魔法は……サーシル・フェルトリサス、ですね。となると……もう一つのあの音は……」

「〝黒服〟、だな」


 アラン達の下へとやってきたのは二人の人影。

 一人はフェアには劣るものの、女神と呼ばれるにも頷ける美貌の金髪の女性。神官特有の真っ白なトゥニカを身にまとい、同じく白いケープを羽織っていた。

 もう一人は黒い服を纏った男。長剣を携え、背筋を伸ばして歩く姿に真面目さがうかがえる。傍目からは異常な程ガタイが良いように見えるが、耳を澄ませればチャラチャラと金属同士が擦れる音が聞こえる為、中に鎖帷子を着ているのだとわかる。

 金髪の女性は階段を上りきり、会議場内へと足を踏み入れるとそこにいる二人の巨大な人影に一礼をした。


「今日はこのような場に集っていただき、まことにありがとうございます。(わたくし)は共生都市国大統領を務めさせていただいています、サーシル・フェルトリサスと申します。以後お見知りおきを」

「我とは元勇者一行時代に会ったはず……だがな?」

「はい……あの時の私は信仰心が至らず、ヒトの言う事を聞いて寄り添う、という神官の仕事を失念しておりました……魔王様の御心を考えもせず、ただ倒すという事だけをなしてしまった私の非です。まことに、申しわけございませんでした」


 バルドロスは少々驚き、アランは慌てた。バルドロス達の護衛達からもざわめきの声が上がる。サーシルがアランに向かって頭を下げたためである。


「お前は馬鹿なのか! このような場で頭を下げるなど、自らの国を貶めるような行為であると知らんのか!!」


 アランの叱りつけるような声に、ビクリと肩をすくめるバルドロスの護衛達。ファンファンロも眉を動かしたが、サーシルの傍に立つ男は岩のようにピクリとも動かなかった。


「……はい、存じております。ですが、私は魔王様がそのような御方で無いと信じておりますので」

「……もう良い、面を上げよ。今の謝罪は我とこの女の個人的なものであり、公的なものとしてこの場では存在し無かったものとして処理する。良いな」


 アランの言葉に頷く護衛達。サーシルもホッと肩をなで下ろしたが、一人の男は首を左右に振って言った。


「そもそもんなこた興味ねえからどうでも良い。それよりも研究の邪魔をしたことに対して謝ってほしいものだな。このせいでどれほど多くの研究が遅延すると思っている」


 バルドロスの言葉にアランは睨み、サーシルは凍りついた。バルドロスはアランのことを横目に見ながらも言葉をつづけた。


「研究の遅延による経済損失、指揮系統混乱による研究の失敗にて発生する損失。一千万ゴールドは下らないかもな。それで? 賠償するのか?」

「研究の失敗による損失など、お前の責任であろうが」

「……何故そう言い切れる? 完璧なものなど存在しないのに。それに、俺自身の事を奉るわけじゃないが……仮にも俺は、〝閃魔将〟と呼ばれた男だぞ?」


 その返しに、言葉を詰まらせるアラン。サーシルはわずかに青い顔をし、続くバルドロスの言葉を待っていた。バルドロスは立ち上がってサーシルを睨みつけ、そして仮面の口元が動いた。


「……なんてな。恐怖したか?」

「え……?」

「……ふざけた尼だ、このクソ女郎が。こんなところで簡単に頭を下げてんじゃねえよ馬鹿が。どうとでも返す言葉はあっただろうに黙りこくって何も言わねえ、更にはそれを受け入れようとする……お前は政治家に向いてねえ、この脳味噌お花畑女郎が。こんな女の為に俺がここに来ないといけなかったとは……世の中クソだな」

「……バルドロス、言い過ぎだぞ」


 バルドロスの言葉を辛そうに聞くサーシル。アランはそんな彼女の事を見ながら言った。仮面の男はさも嫌そうに溜息をつくと、再び紙に何かを書きつづり始めた。


「我はバルドロスの目的に気が付いて小芝居に乗ったが……まさか、ここまで何も考えていない女だったとはな…………ここは、真心や友情などといった生易しい物がまかり通るような場所では無い。お前も人間の神官ならば人間領にあった滅びた国、モントミシコ公国の事ぐらい聞いたことがあるだろう」


 体をアラン達の方へと向けながらも、悲しみを堪えているような辛そうな表情のサーシル。アランはそんな様子にイライラしながら次の言葉を言おうとした。

 が、思わぬところから入ってくる遮りの言葉。


「やめろ。これ以上サーシル様を傷つけるならば俺がお前を斬「おい、“黒服”。口を慎め。魔王様はお前が簡単に口を聞いて良いような御方では無い。殺すぞ」

「……魔族領の侍従長、ファンファンロ・レーランテか……やれるならやってみるが良い」


 剣の柄に手をかける護衛の男。二人の言動をぼうっと眺めていたサーシルは男が剣に手をかけたのを見て、バルドロスの護衛達が謎の姿勢で鉄の棒を抱えあげるのと、ファンファンロが袖をまくりあげようとした瞬間に、声を張り上げた。


「ザムラビ、おやめなさい! 今すぐその剣を仕舞うのです!」

「しかし……」

「黙りなさい! あなたは我が領を滅ぼすおつもりですか!」

「……了解」


 ザムラビと呼ばれた男は柄から手を離して、一歩下がった。他の護衛達も手を降ろし、少々ホッとしたような表情を浮かべる。サーシルはアランの方へと向き直し、大きく深呼吸をした。

 そして


「私の護衛が……まことに申し訳ございませんでした!」

「貴様……っ!!」


 サーシルは再び頭を下げた。アランは激昂しかけたものの、サーシルから何かを感じ取りなんとか心奥底に閉じ込めた。バルドロスは気にも留めずに作業を続け、サーシルは頭を上げてアランをまっすぐに捉えながら繋がる台詞を吐いた。


「モントミシコ公国、かつて人間領南部を治めていた大国。しかし、現在人間領の大半の地域を治める帝国の当時の人天王との会談中、モントミシコの大公が過去に起きた非礼に頭を下げてしまった結果、それによって付け上がった人天王によって損害賠償を搾り取られ、財政が苦しくなったところに攻め込まれ……滅亡した国ですね」

「あぁ、その通りだ。まぁ人天王一族は根から腐った者が多いがな……」

「あまりそんな事を言ってはいけません。ヒトは反省すれば〝誰でも、救われる〟のです」


 サーシルの言葉がアランの逆鱗に触れる。アランの魔力は一瞬にして荒ぶる。ファンファンロやザムラビは冷や汗を流し、バルドロスは意に介さずに作業を続け、その護衛達は震えあがり、バルドロスの傍にいた少年然とした白衣の男は魔力に当てられ気絶していた。


 魔力に当てられた鳥達が狂ったように一斉に飛び去る。


 アランの怒りを直接向けられたサーシルは、ガチガチと歯を鳴らし大きく震えながらも目は逸らさずに言葉を紡いだ。


「わ、私は……神官です! 神官とは……ひ、人々の心の支えと、な、なるものです……!!」

「………………」

「そんな者が……ヒトに謝ることすら、できないなど……話になりません! どれだけ……叱られようと……脅されようと、私は神官としてこの意志は曲げません!」


 魔力が暴走したまま首を左右に振り、「くだらんな」とアランは呟く。


「神官がどうした、ならば貴様は一人でも救えたのか? 人間を、魔族を……命を!! 神官などという、聖人の皮を被った偽善者共が!!」

「アラン」


 バルドロスから怒気の籠った声が放たれる。だが、激昂したアランの耳には届かず、ただ、その怒りに絡め取られどこかに消えゆくのみだった。

 アランの狼の骨の様な頭、空虚な(あな)の中で煌々と揺らぐように動く金色の目。ヒトの恐怖心を煽るようなその瞳に見据えられながらも、サーシルはアランの問いに答えた。


「…………わかりません。私には感情を知るすべもありませんし、そういった魔法が存在するかもしれませんが……私は聞いたことがありません。ですが……ですから、私はたとえ人を、救えなかったとしても。その為に努力は惜しみません。神官でもたしかに人心を踏みにじるような方もいらっしゃいます、私は……そのような人とは違う……違います!」


胸の奥から気持ちを吐き出すようにアランへ語るサーシル。アランはそんな言葉を静かに聞いていたが、最後の否定を聞き、その莫大な魔力を霧散させた。


「クククク……笑わせてくれる。なんと薄っぺらな言葉よ! だが……その意気は伝わった。我が悪かった、謝ろう」


 今度はアランが頭を下げた。先ほどサーシルが頭を下げた時よりも、さらに大きなざわめきが起こった。


(そりゃそうだよ、四主の中でも魔王様の影響力は最も大きいってのに……)


 ファンファンロは冷静にそんな主の姿を見つめた。サーシルはすぐに頭を上げるように言い、アランは面を上げながら言った。


「お詫びというのもなんだが……表での会合の承認。それと今回の議題、内容にはよるが出来るだけ好意的に検討しよう」

「本当ですか!」

「あぁ、内容には、よるがな。……聞いているのか?」


 アランの言葉に涙を拭って、手放しで喜ぶアラン。ザムラビの手をとって結婚期の娘のようにはしゃぐサーシル。アランはガクリと崩れ落ちそうになった。

 バルドロスはサーシルの声にイライラしているようだが、ペンは置かずにまだ何かを書き続けていた。が、次の瞬間その手が止まった。アランは一瞬にしてその方向を向き、唸るような異常に低い声で呟いた。


「来たか、バルドロス」

「どうしてこう、あれだけ強い殺気を振りまけるんだか……」


 護衛達やサーシルはアランの言葉を聞いて、アランが睨む方向をゆっくりと見つめた。

 

 まず真っ先に反応したのはファンファンロだった。ブワリとその髪の毛を逆立たせ、歯を食いしばった。

 次に反応したのはサーシル。目を瞑り、深呼吸をしてそのはやる動悸を押さえようとする。その背後でザムラビが少しばかり震えた。

 最後にバルドロスの護衛達。多くの者が腰を抜かして倒れたりなどした。バルドロスはそんな護衛達を見ながら不愉快そうにしたが、すぐにまたとある方向……南東から発せられる殺気の主へ睨みを利かせた。


「……武術に精通した者の殺気はここまで強い物か……!」

「…………魔王様でも……失礼ですがここまでは、出せないです……からね……!」


 そして、突然殺気が消え去った。


「小手調べ……といったところか?」

「ったく……友人にもそういうことするアイツの頭の構造がわからねえ」

「お前はな。……我はあやつと友人などでは無い」


 アランは耐えきれずに結局倒れてしまったサーシルを助け起こし、アラン達は各々自らの席へと座った。

 この会議で最も危険な人物を待つ三人は、会話も無くそれぞれが思うように静かに過ごした。


 そして、


「けっ、テメェが居んのかよアラン……まぁカスなんぞどうでも良いけどよ……」

「失せろ反逆者めが」

「はっ、良く喋る口だな……三枚におろすぞ」


 ☆


 人間領、山奥の屋敷。

 リビングの中には7人の影があった。椅子に座ってお茶を飲むフェアとルーク。その側に空剣・ガルドゼニファを携えて立つのは、魔族軍最高戦力メイル・フローレンス。

 他四人の大臣は思い思いの場所におり、誰もが空気を張り詰めさせていた。


「それにしても……随分と厳重…なの……かしら?」


 ライアーの姿を見ながら、失礼に言葉尻を濁らせるフェア。幸いライアーはその視線に気がついていないようで、フェアは気付かれる前に視線をメイルに移した。


「まぁ、現状魔王様を生き返らせられるのは姫様だけですからね。……実際、こういうのが居ますしっ!!」


 メイルが真っ白な剣を振り、真っ二つに切り裂いたのは致死性の猛毒を持つイヌワシバチだった。縦半分に分かれた虫は、床に落ちる前にツボに入れられ汚さないように回収された。


「やれやれ……虫を操る能力というのは厄介ですね……どこから入ってきているのやら……」


 メイルの早業に感嘆する元勇者ルークと、目を丸くするフェア。


「まぁ結構感知するのにも気を使いますので……すいませんが、あまり会話は出来ません」

「良いのよ、別に」


 紅茶を一口飲み、思案げな表情を浮かべるルーク。フェアはそんな父親の様子に首を傾げる。


「どうしたのお父さん」

「ん? いや…俺が勇者だった時、今の魔王……アランさんの昔のことを聞いたことがあるんだ」

「へぇ〜? なになに?」


 ルークはチラと五大臣達を見た。誰も我関せずというような様子で集中している。ルークは話しても良いのだろうと解釈し、娘に続きを話した。


「魔王は、魔王に指名された者が次の魔王になる。 っていうのは覚えてるかい?」

「えぇ」

「指名世襲制だかって言ったかな……」

「……あら?」

「気づいたかい? アランさんは先代魔王に仕えていたらしい」


 視界の端でナターシャの魔法によってバラバラになる蜂と、クロノスの魔法によって溺死する蜂が映った。


「アランさんはその時、魔王軍に所属していて……〝三魔将軍〟と呼ばれる男たちの一人だったらしい」

「さんましょう?」

「〝知魔将〟〝閃魔将〟〝武魔将〟と呼ばれる称号を持っていた男達のことさ」


 ルークは語った。


 ある者はその武をもって、英雄と呼ばれし者達をことごとく討ち取った

 ある者はその魔をもって、幾千もの敵の軍勢を一人で滅ぼした

 ある者はその閃をもって、敵国を内部から撹乱し内乱を煽動して崩壊させた


「っていうことは……下僕は知魔将?」

「うん。そしてそれには続きがあってね」


 かの者らは魔王バロンより名を授かった。

 悪夢・堕天・死神の名を


「悪夢?……下僕の、氏……」


 五大臣達はピクリと体が動いたが何も言ってはこなかった。ルークは続ける


「そう。アラン・ドゥ・ナイトメア、そして残りニ名。〝ルグリウス・グリムリーパー〟と〝バルドロス・フォールダウン〟」

「それって……!」

「非情なものです……」


 メイルの消え入るような言葉。フェアは心配するような声音で言った


「そうよ……かつての仲間や友が、敵なのだから」

お読みいただきありがとうございましゃぁぃ!!(ジャンピング土下座


遅筆ですいません……

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