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魔王様はお嬢様の下僕になりました  作者: 亜桜蝶々
第2章、愛と忠誠心、そして四主。
16/26

異形襲来(2)

その者はただただ強い魔力に満ちた屋敷を目指し、空を飛んでいた。

 強者と戦いたいが為、また、その強者を喰らい更に力を得る為に。


 翅や翼をはばたかせ、風を切って一心不乱に進む。


 屋敷まで残り300m程の場所でその者は自身の複眼によって屋敷の屋根の上に現れた高密度の魔力を感じ取った。その数は十。最も魔力の濃い弓の形をしたものを筆頭に、あとの九つの魔力の塊も尋常ならざる密度で出来ていた。

 その九つの内、中央の一つが自身に向かって来るのをその者は見た。そしてそれを追従するように更に向かってくる八つの、矢の形をした水色の魔力の塊。飛来するその矢の速度が自身の飛ぶ速度より早いと知ったその者は嗤った。


「喰ろウテヤる。喰ロウて我ガ力にシテやるゾ。」


 歪な音程のずれた言葉を口にしながら、その者はその口を開き僅かな差ながら先に飛来した中央の矢を飲み込んだ。その刹那の間、愉悦感を味わったソレは次の瞬間苦痛に感情を支配された。


 口に入った魔法の矢は勢いが殺されず、ソレの喉を抉り、切り裂きながら移動する。柔らかい内部にダメージを受け、悶絶するその者に更に刹那の後に訪れる八つの痛み。

 目じりに刺さり、手の甲に刺さり、胸に当たったかと思えば更に翅や翼に当たり。そし合計七本の矢がその者に刺さり、残ったのが九本の内で上部に出現した一本の矢。その矢がその者の尾に刺さった瞬間、魔法の矢がその形を無くした。


 矢ははじけると、あたかも青い爆炎の魔法のような激しい衝撃を発した。大砲に使われる黒色火薬のような威力を引き起こした。翅は破れ、翼は穿たれ、堅い甲殻は損壊し、柔らかな肌は無残に引きちぎれてただれていた。


「グゴアァァァァギャフルルルルル…!!」


 突然の痛みに理解が追い付かず意味の無い不愉快な奇声を上げながら、その者は墜落した。眼下に映るのは生い茂る木々。木の枝をその巨体で折りながら地面に降り立つ。


「ガァあぁぁァ!!生カシては置カん!スグさマゴロシて、喰らッテくれるワ!!」


 その者は持前の再生能力によって咽喉の傷を治し、殺意や怒気の籠った声で唸った。

 ソレが翼と翅の再生を待っていると複眼の一部が一つの魔法、“空間転移門”の姿を捉えた。そしてそこから出てきたのは人間の男。それも凶悪な程の魔力をその身に宿した、である。

 ソレは自身の目の前に現れた男を屋敷にいた生物だと認識した。そして、全力で戦わなければ自分がやられる、そう認識した。この男を喰らえば強大な力を得られる。


 そして戦闘態勢へと入ったその者を観察し、その男は呟いた。


「キメラか……かなり強いようだ。が、灰塵に帰する運命は避けられまい。」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 アランがとらえたモノの姿はまさに異形の一言であった。


 雪山の巨人のような黒い毛に覆われた巨大な足と左手。対して右手は肘が二つもあり、手の先は金属の刃のようになっている。爬虫類のような長い尾に、白いドレスのような服を着た金髪のエルフの女の体と頭部。大きく見開かれた蜻蛉のような目でアランを睨み、威嚇のように背後のボロボロになった翼と翅を大きく広げた。


 6mは優に超える巨躯によりアランは影によって覆い隠され、絶対なる強者の如くアランを見据えた。

 だがアランはそんな威嚇をもろともせず、一体の影の尖兵を生み出した。


 巨大な二本の雄牛の角のようなものが頭に生えた、下半身と反比例して上半身が大きい真っ黒な姿。アランが人間時に行使できる魔法のうち、唯一の世界級である“黒の尖兵”から作られた近接戦闘に特化した形のもの。


「行け」


 アランがただ一言そういうと、尖兵はその短い脚からどうやって出しているのかは不明だが、地面を力強く蹴ると瞬く間にキメラの足元へと潜りこんだ。勢いそのままその太い手を使い、強烈なラリアットを左足の膝小僧に食らわせた。かなり脚が硬かったのか、尖兵の腕もあらぬ方向へと曲がっているが尖兵は気にも留めず、仰向けに倒れこんだキメラの上に飛び乗る。そしてその無防備な背中にある翅を翼を毟って肉を抉った。


 倒れてきたキメラを避け、少し離れた場所でアランは傍観をしていた。


(影の尖兵と良い勝負、といったところか……。いや、やはりキメラの方が1枚上手だな。となれば……。)


「地槍ジグルオンゼム、我が呼び声に応じここに顕現せよ」

「……創造主の(めい)に応じ、不肖、ジグルオンゼム。ここに参上いたしました」


 アランの目の前に現れたのは全身が真っ黒な美女であった。短く切られた髪も肌も服もなにからなにまで黒ずくめである。更にはかすかにその体から黒い光のような物を出し、片膝をついてアランに頭を下げた。


「うむ。面を上げよ。……いや、良い。そのまま元の姿に戻れ」

「了」


 アランが右手を開くと、不意に黒い女がその姿を溶かした。黒い光となったそれはアランの右手部分に収束すると、手元からその先が徐々に細くなっていく円錐状の物ついた物体、ランスと呼ばれる武器へと変わった。


「……まぁ、馬に乗って戦うわけでも無いのにランスというのはどうか、といった感じではあるがな……」

「無茶を言われましても…」

「わかっておるわ。……さて、尖兵。もう良い。やめろ。我が相手をする」


 武器と問答という、知らない人が見れば危ない人だと思われるであろう行動をしたのち、アランは尖兵に攻撃をやめさせ、自分が今立っている場所に待機するように命じた。地槍片手にキメラのもとへとアランは歩んだ。

 キメラは背中の翅が生えていた場所から触手を伸ばして、毟られた翅をまた合わせようとしていた。キメラはゆっくりと立ち上がると自身よりはるかに小さいアランを見下ろす。目ではわからないものの女性の顔の眉などから相当怒っているのがわかった。


「コ、ころス…コここコココこここコ殺シてやる!!!」

「まぁ落ち着け……お前にはただ接近戦の修行に付き合ってもらうだけだ……まぁ改心するならば殺しはせんぞ?」


 キメラはそんなアランの言葉を聞き、その巨大な手で潰さんと左手を振り上げた。アランはそれに槍の先を向けることで答える、だが既に動きを察知していたキメラは左手を降ろすのをやめ、攻撃に使ったのは鋭い刃の付いた右手。二つ存在する肘により変則的な動きを見せた長い右手はアランの背後から襲いかかった。アランはその身体能力を使って体を旋回させ、力任せに槍の先を右手に突き刺さんとした。

 キメラの右手が穿たれ……しかしキメラは右手を猫の手のようにすると、金属のような爪でランスを滑らせて弾く。


「ッチ……!」

「……アラン様、上です!」


 アランはジグルオンゼムの警告を聞くと、上を見ることもせず得物(ジグルオンゼム)を頭上へと突き出した。そして森に響く唸り声。キメラの左の掌にぽっかりと穴が開いていた。とはいえ手の大きさからすればそれはごく小さい傷であり、キメラの再生能力をもってすればすぐさま無くなる傷であった。

 既に傷が無くなったキメラを見ながらアランはひとりごちた。


「やはり武術は全く駄目だな……」

「僭越ながら、アラン様ではこの者を殺すのに実力が足りないのでは。と思います。」

「まぁ、修行だからな……強いくらいがいいのではないか?」

「……かしこまりました。ですが身の危険がありましたら、私に込められた魔法を使用していただくことを願い申し上げます。」

「うむ。わかった……ッ!」


 アランの下へ振り下ろされる左手を避けると、地面に置かれた手への刺突。単純な身体能力によりそれなりのスピードがあるが、キメラの動きはそれを上回り、あいも変わらずの右手による薙ぎ払いだがアランはそれを迎え撃つことが出来ず、易々とキメラに殴り飛ばされた。


「っぐ……な、かなか、だな。」


 アランは地面に得物を突き立て、なんとか勢いを殺す。そしてキメラの剣の師匠であるかのような言葉を残したアランに、地面に突き刺さった槍から返しがくる。


「ご自身の実力不足を棚に上げるのはどうかと思いますが。」

「うるさいわ。ただ言ってみただけであろうが。」

「そうですか。しかし、早々に決着をつけることをお勧めします。」

「何故だ?」


 キメラが迫り来るなか、悠長に会話をする一人の魔王と一本の槍。その様子を見て怒り狂ったキメラが突進してくる。どちらにとって幸いか否か、アランはキメラに300mほどは飛ばされたため両者の間には少しばかりの会話をする暇があった。


「フェア様がお怒りになるのでは?アラン様のお部屋からフェア様の御姿が見えますし。」


 得物の言葉を聞いて凍りつくアラン。ゆっくりと首を横に曲げ、木々の間から見える屋敷の二階部分から覗くのは白い髪と黒いドレス。アランは現実を見なかったようにキメラの方に向き直ると、ランスの先をキメラへ。


「“千縫(ちぬ)茨蛇(おろち)”」


 そして地中から出てきたのは黒い茨のような物。正確には地中、ではなくキメラを追尾するその影。アランが良く使う魔法のように影がキメラの影が茨として実体化し、キメラにまとわりついて行く。足や手、尻尾を拘束され思うように行動出来ないキメラは、苛立ちの感情をエルフの顔に滲ませてアランを睨んだ。


「喰らう食ラう喰ラウ喰ラウ食らウ……」

「お前如きが我を喰らうと?笑わせるな。その程度の力で我が殺せるか。我を殺すなら少なくとも、メイルやファンファンロ程度の力は持つべきだな。」

「…まぁメイルは私達を装備してなんとかってくらいでしょうけど。」


 アランはジグルオンゼムを地面に突きたて、“人体化(リ・フューマン)”を解除した。黒い霧が現れ中から現れ出たのは狼の頭に鹿の角、黒いローブを着た魔王の姿であった。十六年前にアランが死ぬ前からファンファンロの悩みであった、全体的に黒一色すぎる服装を纏い、アランはキメラの前に立つ。

 すると、キメラが途端に睨むのをやめ、少しばかり自由な胴体部分を若干後退させた。獣特有の勘からなのか、それとも魔力によるものなのか。それは不明だがキメラは明らかに動転し、逃げようとしていた。


「だがまぁ、すまんな。殺しはせんと言ったが我も自己中心なのでな。死んでもらおう。」

「た、助ケろ……誰カ我を(たす)けロぉ!!」


 必死にキメラは救いの手を求めた。だが、どこからもそのような返事は無い。

 そして羽ばたこうとしたのか、翼の〝残骸〟をピクリと動かした。キメラは今になって自身の翅などが再生していないことに気が付いた。恐怖の中におぼろげな驚愕を覚えるキメラにアランが一つの魔法のことを教えた。


「閻魔への手土産に一つ教えてやろう。とはいえ、奴は知っているがな。“黒の尖兵”によってついた傷は回復を大幅に遅延される、のだ。なかなか有用だろう?……特に、お前のような治癒能力の高い輩にはな。」


 徐々にキメラにアランが近づき、残り5mほどになった。キメラはもはや何が何やらわからないほどに焦り、必死にアランから顔を背けようとしていた。アランは静かにそれを見つめ、その後ろに黒い美女の姿となったジグルオンゼムがいつの間にか並んでいた。

 アランは視界のはしで、アラン達を指さしながら何やら騒いでいる魔族将軍、法務大臣、そして主の姿を捉えたがアランは記憶から抹消し、見なかったことにした。


(どうせ我の背後にいるジグルオンゼムの化身を見て、嫉妬でもしておるのだろう。……小娘が嫉妬……考えぬようにしておくか。)


 と、いった考えからであった。

 そしてアランが頭を切り替え、キメラを殺すために片手をキメラに向けた直後、キメラが飛来してきた方向から高速で接近してくる魔力を感じ取った。それもキメラよりも強力な魔力である。そしてその魔力にアランは一つの懐かしいものを感じ取った。


「これは……なるほど、お前はあいつが作ったキメラか。強いわけだ。」


 すこしばかり苦笑するようにアランは微笑んだ。そして数秒後、視認できる距離に現れたソレ。アランより大きい4mほどの人型であった。両手両足になにやら丸い物体を括り付け、その手足から炎を噴射している。

 アランを含め、ランスの化身と屋敷の窓から顔をのぞかせる連中もそのあまりにおかしな光景に目を丸める。

 そしてその問題の人物が下を向いていた顔をアラン達の方へと向ける。だが木で出来た少数民族の仮面のような物をつけているようで、その顔を窺うことは出来ない。アラン達に気が付いたようすのその人物は、炎が噴射され続ける右手を前方に伸ばそうそした。


「っな……!!」


 右手が変な方向へと向いたために空中で大回転を始める。そしてそのままアラン達の方へと吹っ飛んできた。アランとジグルオンゼムは受け止めようとはせずに避けて受け流した。地面を転がり大量の砂埃を巻き起こす仮面の人物。

 ケホケホと咳き込むキメラを含めた3人。やがて砂塵が薄くなり、アラン達の方へと歩んでくる人影。アランはその人物を複雑な感情を込めながら見て、声をかける。


「このわけのわからぬ登場の仕方は……バルドロスだな?」

「ご明察の通り。バルドロスさんだ。」


 砂塵の向こうから現れたのは、丸い4つの金属の塊に、金属や木材が合わさった変わった形をした鎧と、言葉に合わせて口元がカタカタと動く仮面の男だった。


「というか訳の分からないってなんだコラ。これは火薬をだな「わかったわかったお前の科学論議を聞いていたら日が暮れるわ。」んだとこの変態が。」

「誰がロリコンだこの奇人が「言ってねぇよ。」


 アランとバルドロスと呼ばれた男は謎の問答をした後、何も言わずキメラの方へと向いた。ぼけっと二人の問答を見つめていたキメラは二人に見られた瞬間、全身を震え上がらせて顔を背けた。そんなキメラを見たあと、アランは隣のバルドロスを見た。


「こいつを作ったのはお前だな?こんな強力なキメラを作れるのがお前以外に居てたまるか。」

「おう。そうだが?いやぁ……研究途中に逃げ出しちゃってね。こいつ、どうにも思考が馬鹿みたいなんで解剖しようとしたら逃げられたんだ。っていうか強いとか言ってもお前相手じゃ震えあがってるじゃねぇか。」


 バルドロスの言葉に深々と溜息をつき、アランは「そうだな」とやるせない様子で頷く。そんなアランにその問題の人物からの質問が来た。


「そういやアラン、君のとこにも招待状が届いたのか?」

「あぁ。しかし、やはり楽都(らくと)の代表はお前だったか……」

「そりゃね。一番発明数多いの俺だし。っていうか、めんどくさいし研究の方がよっぽどしたいから、ほんとに共都(きょうと)のやつら死に絶えて欲しい。」

「お前な…」


 性格に難がありすぎるバルドロスに頭痛を覚えるアラン。そんなアランのことはつゆ知らず、ガリガリとどこから出したのか羽根ペンを取り出しキメラの様子を一心不乱に紙に書き込み続けるバルドロス。

 すると、2人+1体+1本のところにさらに4人が加わった。マーキュリーの“空間転移門”によってアラン達の下へと移動したきたのである。若干1名を除き。

 やってきたのはフェア、メイル、マーキュリーの3人娘とファンファンロ。一足先に来たファンファンロは手足についた火の粉を払って落とすと、バルドロスに向かって一礼をした。


「これはこれはバルドロス様。相変わらずご健康のようで何よりです。」


 少年らしからぬ棘のある挨拶をすると、バルドロスはメモをする手をやめる。その背後では土いじりをして遊び始めるジグルオンゼム。


「おぉ、ファンか。久しぶり、解剖して良いか?」

「おやめ下さいませ……あまりにしつこいと研究所を焼き払いますよ?」

「やめろ、バルドロス。ファンファンロもだ。辺り一帯を焼け野原にするつもりか。」

「黙れクソアラン。邪魔すんな。」


 剣呑な雰囲気を出すファンファンロを見てバルトロスの質問を止めさせるアラン。そしてそこに転移してきたのが3人娘。マーキュリーとメイルはバルトロスに礼をしたのち、いつの間にか土の偶像のような物を十数体作っていた黒い美女の方にツカツカと歩いて行き、フェアはゆっくりと三人のもとへと歩いてきた。 なお、キメラはいまだに拘束され、メイル達の合流を見て涙目になっていた。


「あら、こんにちは。私はフェア・ハートレスと申します。どうぞお見知りおきを。」

「……女に興味ねぇし、めんどくせえけど一応社交辞令として言っておくわクソが。あらまぁ何ともお美しい御嬢さんだ。結婚してくださいますか、なんてね。……これで良いだろボケが」

「何を言っとるのだお前は……」


 今度はその口から飛び出してきた言葉に脱帽するアラン。フェアはそれ以上に愕然としていた。そして数秒の時を跨ぎフェアの口から漏れ出るのは笑い声。


「フフフ、まぁ下僕?なんて面白いご友人なのかしらね?」


 アランはフェアをみて思った。(目が笑って無い)と。

そしてついでに先ほどまでのキメラとの戦いを思い出すと、アランは生気が抜けたように放心した。それを見たアランの部下達が思ったのは全て共通。


(あぁ魔王様、完全にこの人(娘)に毒されてるなぁ…)


 そしてボーっと佇むアランにバルドロスは話かけ続ける。


「おい、アラン。おーい、クソ。こいつ持って帰るぞ!良いのかコラ!!」

「あぁ、大丈夫ですよバルドロス様。どうぞどうぞさっさと帰ってしまってください。」


 ファンファンロがアランの代わりに応対し、毒を含めて回答する。が、当の本人は何も思わないのか、メイルが影の茨を切り裂き、自由になっていたキメラの下へと向かった。


「た救け……イヤダぁ!!」

「うるさい黙れ、さっさと俺を運んで飛べよクソが。」

「う、うぅ……」


 回復遅延に邪魔されながらも既に治った翅と翼をはためかせ、両手でバルドロスを抱えながらキメラは飛び立っていった。かなり飛行速度はあるようですぐに大声を出さねば届かない距離まで離れた。

 アランは今頃正気に戻ると、去りゆくバルドロスをみて大きく溜息をついた。そしてフェアの方を見る。相変わらず目は笑っておらずそれ以外は満面の笑みである。


「お、お嬢様……?」


 不審な声をあげるアラン。するとフェアは半分以上も体格差のあるアランの胸倉を掴むと、その顔を引き寄せた。周囲から驚く声と感嘆の声が同時に出る。

 フェアは挑戦的なふてぶてしい笑みを浮かべ、その顔をアランの顔の隣へと持ってくる。そして真面目な声音で囁いた。


「四主会議だとか良くわからないけれど、せいぜい死んで私の世話にならないようにすることね。私の断りもなく死ぬなんて許さないから。今よりもっとひどい目に合わせてあげる。」


 そういうとフェアは顔を離し、胸倉を掴んでいた手も放した。挑戦的な表情はそこになくただ真面目な表情がそこにはあった。そして背後から聞こえてくるメイルの溜息。


(……部下達の話でも聞いて、命の危険性もあるものなのだと理解したか……聡い娘だ。……やはりリュシアと似ている、何者なのだこの娘。……好意を持たれて大丈夫なのか……嫌われるべきだろう)


 アランは一抹の謎を感じつつも、フェアの言葉にうなずき言葉を綴る。


「えぇ、かしこまりました。ですが……」

「何よ?」

「……我の耳はここではありませんよ?」


 アランの言葉の間に、神妙な面持ちになったフェアは突如放たれたどうでもいい事柄に凍りついた。ファンファンロ以下、ジグルオンゼムを除いた三人も囁きの内容は聞こえなかったものの、アランとフェアを取り巻く空気をまったく読めていない発言に凍りつく。

 ひとり平然と大地にたつアランは我関せずというように平然としている。そんなアランを見つめていたフェアは気を取り戻した瞬間、顔を真っ赤に染め上げ


「この……馬鹿ッ!!」


 “白金のネックレス”の力を解放し、全力で振りぬかれるビンタ。

 バキッという軽快な音をたて3mもある巨体が倒れる。殴られたアランは痛みを堪えながら部下達を見るとそこに浮かんでいたのは冷めた目線。魔族溺愛症の心にグサリとダメージが突き刺さる。


「メイル、マーキュリー。屋敷へ行きましょう。こんな馬鹿は放っておいて。」

「そうですね。」

「ヒーっ…ヒーっ……は、腹痛い……そ、それでは魔王様。」


 先ほどとは逆にマーキュリーの“空間転移門”を使い屋敷の中へと返っていく4人。最後にゲートをくぐったファンファンロの笑い声が虚しく山の中へ消える。


 アランはゆっくり起き上がると、何してんだろ自分。と、冷静に後悔し、泣きそうになった。


あれ、おかしいな?前編後編に分けてるのになんでこんなに長くなったんだろー?

えへへ、おかしいなー(吐血

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