五大臣と疑惑
更新遅れて申し訳ありません!!
山奥の屋敷二階、北東にあるアランの部屋にてベットに寝ていたメイルはパチリと目を開けた。その目の前にあったのは生気の無い目。
「きゃあっ!!」
メイルは思わず悲鳴を上げた。
「おはよう……です」「大丈夫?」「だ、だだ大丈夫か!? 気分は悪くないか!!?」「ジグル、落ち着いて」
動じずに淡々と言葉を紡ぐのは赤毛の少女、マーキュリー。と、三体三色の生き物。色に反して黒色があたふたしている。
「大丈夫よ……ま、マーキュリーか。久しぶりね」
「そう…です。お久しぶり…です」
「他の大臣は……?」
「私は、仕事があらかた…終わったので、貴女の看病を、していたんです」
「ありがとう」
裏にある感情を巧みに隠して同じ大臣職である少女と話す。その言葉にたどたどしく小さな声で受け答えるマーキュリー。
「大丈夫、です…か。魔王様、が…治療されたから…大丈夫だと、思い…ます」
「魔王様が……?」
「えぇ。でも…立って。そこ…魔王様、の…寝具だから。ずるい。」
「え……? あぁ! 私ったら!!」
マーキュリーに指摘され、慌てて立ち上がるメイル。その後、自身の体をギュッと抱きしめると顔を盛大に赤らめた。
「メイル、さん。今…興奮、してる?魔力が、暴れてる」
「し、してない! してないからね! お、恐れ多くて震えてるだけだから!」
慌てて抗議するメイル。マーキュリーは首を傾げたが「なら、良いです」と呟いてそっぽを向いた。
メイルは「わ、私……ま、魔王様のベットに……」と小声で呟き、赤くなった顔を隠して俯いた。
「ところで、ですけど。あの魔王様、以外の…二つの魔力…が、勇者と、その娘…姫しゃま……姫様、ですか?」
「えぇ、そうよ」
マーキュリーはアラン達の魔力を感じる方向を向いて背後のメイルに話しかけた。メイルはいつも通りの口調で答えたが紅潮した顔はそのままだった。
「…魔王様が、あの娘を、愛してる。なんて、ことは、無い…ですよね」
「ええ」
「安心…した、ライバル…増えなくて」
メイルはその言葉にとても悔しそうに返事を返した。
「魔王様は、リュシア様の事が……」
二人の間に重い空気が流れた。春という季節には合わない空気である。やがて、マーキュリーが自分に言い聞かせるように語る。
「私達が…どれだけ、魔王様を愛しても。私達は、リュシア様の…代わりには、なれない。そして、私達が…魔王様を、一番に愛したとしても、一番の愛情を…頂くことは…出来ない。…私では…魔王様の、その傷を…癒してあげる…事さえ、出来にゃ…出来ない。」
マーキュリーの言葉を聞いたメイルが確固たる意志を持って言葉を紡ぐ。マーキュリーが決め所でかんだのはスルーする方向性のようである。
「それでも……私は魔王様のことを愛してる。……部下として、魔族として、女として」
マーキュリーはその言葉を聞いて静かにその見えない目でメイルを捉える。
「私は、負けませんよ、メイルさん。貴女には」
「あぁ……良いわぁ……このドロドロとした感じ……これから始まるのは、主君をめぐる泥沼の愛憎げ「ガルディア? ちょっと黙っときなさい。」はーい……」
独り言を呟き空気を乱したガルディアを青色のが叱った。
「……私だって。マーキュリー、貴女には負けない!」
主君の部屋で繰り広げられたのは女同士の一人の男をめぐる互いの意思確認であった。二者が対峙し、三体の生き物が静観する。静かに両者は睨みあい、そして絶叫が聞こえてきた。…え?絶叫?
絶叫はアランのものであった。ここの所毎日のように絶叫している。そろそろ黙れ、我慢しろと作者は言いたい。それは置いといて、その声を聞いたマーキュリーはアランがいる方向に振り向く。メイルはやれやれという表情である。
「ま、魔王様…!? 何が、あったの、ですか?メイルさん」
マーキュリーの声は明らかに動揺していた。メイルはその姿を見て、
(あー…魔王様、他の大臣たちに当てた手紙には下僕になったことは書いてたけど、こんな目にあってるってこと書いて無かったからなぁ…)
などと思った。
今更思い返すメイルである。あれ、この子こんなに思慮浅かったか…? どうやら好きな人の近くにいてぽけっとしているようである。恋する乙女か!いや、実際そうであった。
「行きましょう、マーキュリー」
そういうとメイルはマーキュリーをいわゆるお姫様抱っこした。
「め、メイルさん…!?」
感情の薄いマーキュリーも動揺後のお姫様抱っこは恥ずかしいようで顔を真っ赤にしてもじもじと抵抗している。が、戦闘のエキスパートであるメイルの筋力をもってすればまったくもってビクともしない。
メイルはアランと同じように部屋の窓から飛び降りた。ふわりと着地し、先ほどのアランと似たコースで三人のもとへと急ぐ。そこまで似てるなら、お前ら結婚しろよとどこかの誰かが思ったとかいないとか。三体は二人についていった。
「魔王様どうしたのですか!姫様、何をしたのですか!」
「……」
ズザザという音をたてながら三人の前で止まるメイル。砂煙が舞い、風下にいたルークはモロに砂煙に巻き込まれ咳き込むがフェア以外に心配されなかった。
マーキュリーは地面に降ろされると、じっと(見えていないが)フェアの方向を向いた。
「魔王様に…何を、したの?」
なるべく冷静に喋ろうとしているのは確かだが、その声には激情が見え隠れしていた。魔力は荒れ、制御がつかなくなっている。フェアは魔力を感知することが全く出来ないが、勘に関してはずば抜けて良いので怒っていることに気付いているのだろう。彼女は俯いて震えていた。
「ま、魔王様大丈夫ですか?」
メイルはアランのもとにかけ寄ろうとした。が、
「“砂壁”」
マーキュリーが魔法を使ってメイルとアランの間に壁を作り上げた。何事かとメイルがマーキュリーの方を見ると、マーキュリーは直訳すると抜け駆けしてんじゃねぇぞコラ。といった感じの如き気を放ちながらメイルの方を向いた。中々面倒くさい性格をしているようで何よりである。メイルは溜息をついて壁を迂回してアランの方に行こうとした。
マーキュリーが再び壁を作ろうと口を開いた瞬間、フェアが動いた。
両手を広げ、飛びかかった。目標はマーキュリー。マーキュリーは突然の迫ってくるフェアに対応できずに動きを止める。フェアはマーキュリーに接近すると彼女を抱きしめた。
「か、かかか可愛い! 何この子!? 人形みたい!!」
フェアは茫然として抱きしめられ続けているマーキュリーに頬ずりする。
「あ、メイル? 下僕を治療しちゃ駄目よ? せっかく骨折したんだから。」
「せっかくって、なんですか」
マーキュリーを抱きしめるフェアは思い出したように言った。
「うわぁ……二の腕が折れてる……気持ち悪……」
「が、ガルドゼニファ……! せ、製作者に気持ち悪いとか言うでないわ!!」
「ごめんちゃい」
「サーディンリュー……指導しなかったのか?」
「申し訳ありません、アラン様。ガルディアが何を言っても聞かないもので……」
アランにサーディンリューと呼ばれた青いものはその上半身に倒した。三頭身の体で作成者に礼をする。
「……まぁ良いだろう。マーキュリー、落ち着け」
「なんで…はい。わかりました。魔王様」
マーキュリーは魔力を無理矢理落ち着けた。魔力の感知を出来ないフェアはそのままマーキュリーを抱きしめ続けていた。
「…魔王様、なぜ、腕を折られて…平気で、いられる…のですか?」
「愛する魔族の為に決まっておるだろう……苦しむ魔族を救う為なら、これくらいのことを耐えるのは簡単だ」
アランは痛みのためか顔をひくつかせていたが、いつもの声になるように言った。依然マーキュリーを抱きしめたままのフェアに言うが聞く耳を持たない。
「もう、はにゃ…放して、ください」
また噛んだ。マーキュリーは放してもらいたいようだが、かんだ為に余計に強くフェアに抱きしめられた。
「あうぅ…」
マーキュリーは不本意だとでも言いたげにうめき声を漏らした。そのうめき声がその不本意な抱きしめを強くしているわけだが。
ついでにアランは背後から、「やっぱり女の子同士って良い……」という自身の創造した青い魔法の弓の声を聞いたがあえて無視した。
「姫様、その子はマーキュリー・ヘクトルーン。インペリアルの法務大臣、私の同僚です。放してあげてください」
「同僚……? こんなちっちゃい子が?」
「…これでも、りっぱな…成人、です」
「…え? 本当?」
フェアはキョトンとした顔のまま腕の中の少女を見た。マーキュリーの顔は真っ赤になり、
「嘘です…たぶん、まだ、大人になって、ないです…生理、来てないから…」
心底恥ずかしそうに言った。ルークは口に入った砂を出すのに苦労していた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「私、は…マーキュリー・ヘクトりゅ…ヘクトりゅん………ヘクトルーン、です。ヴァンパイア族の…父親と、猫人族の、母親の間に…生まれた混血種、です。年は、286歳です…メイル、さんと同じ五大臣で…法務大臣、です。目は、見えません」
ルークの屋敷一階、応接室。
マーキュリーはフェアに抱きしめられながら自己紹介をした。いや、抱きしめられ、ツインテールの赤髪を弄られながらである。目が見えないと言った後、フェアによって目を両手で塞がれた。
マーキュリーがくすぐったいのでなんとか外そうとしていると、フェアがマーキュリーに質問した。
「なんで目が見えないの? ……あ、ごめんなさい……」
アランが発した聞くんじゃないオーラを感じ取ったフェアは即座に謝った。それを見たオーラの発信源が主人に言う。
「お嬢様はもう少し、人の事を考えてから何かを言った方が良いですよ」
それを聞いたフェアは顔を赤くして反論する。
「うるさいわね下僕! あなたの方が人の事考えてないじゃない!! メイルもそう思わない?」
「え!? あ、いえ。べ、別に私は!!」
急に話を振られたメイルは顔を真っ赤にして反論した。
別にメイルやマーキュリーの好意はずっと前から気付いておるのだがなぁ…そして、この小娘…一時の気の迷いであれば良いが…
アランはその反論の様子を見て思った。
すると、マーキュリーの目を覆うのをやめたフェアが口を開いた。
「ねぇ、下僕。五大臣ってなんなの?」
「あー……説明してませんでしたね。五大臣とは、司法の法務大臣。この司法の大臣がマーキュリーです。警務の警察最高長官。経済や財政管理の経済大臣。法律などを作る立法の首相。軍務の軍務大臣兼、魔族将軍。これはメイルのことです」
「それで?」
「五大臣はそのついてる職によって個人では我に次ぐ決定権を持っています。例えば軍務ならば戦争のやり方などに関して我の反対か、五大臣の三人以上の反対、貴族院・衆議院で4分の3以上の反対が集まらなければ、そのままその戦争のやり方でいけるという事です。……理解できました?」
「……ええっと……?」
「……後でまた詳しく教えますよ。」
骨折の痛みを堪えながら流暢に話したアランの説明が終わると、マーキュリーが口を開いた。
「私は、魔王様に…命を、救われた、んです」
「……良いのか? なマーキュリー」
マーキュリーはこくんとうなずいた。
「私の、父親は…ヴァンパイアの、貴族で…母親は、その使用人、だったらしい、です」
「……らしいって……どういうこと……?」
フェアの問いを聞いたアランは言った。
「マーキュリーは捨てられていたのだ。使用人との間に子どもが出来たことを噂されるのを恐れた父親によってな」
その言葉にマーキュリーが続く。
「私は父親の、ヴァンパイア、の血を…多く継いでいた、から。日光にさらされた…私、は、赤ん坊…だったのもあって、死にそうに、なっていた…らしい、です」
「我はその時インペリアの視察をしていた。…そこでマーキュリーを見つけたのは本当に幸運だったな。我は赤ん坊を見つけて必死で治療した。だが…我の力が足りなかったせいで失明してしまった」
「魔王様の、せいじゃ…無いです。その後…私は、魔王城で、育てて、いただきました。魔王様は、親のように、思ってます」
メイルは二人の語りを厳粛に聞いていたが、メイルの最後の言葉を聞いて深く溜息をついた。
フェアは紅茶を一口飲むと、厳粛に口を開いた。
「……つまり、今の話からすると」
「……どうしました?」
アランが不思議そうに言うと、フェアは新たに口を開いた。
「一つ……わかったことがあるわ。つまり、下僕はロリコンってことよね?」
「…ロリコン…? なんなんですか? それは」
普段から本をあまり読まないメイルが疑問の声をあげるとアランが否定した。マーキュリーも目が見えず本が読めない為に首を傾げている。
「誰がロリコンだ…ですか! 我はそんな気はさらさら無いわ……です!!」
「ロリコンってなんなんですか?」
「ロリコンっていうのはね「うわああぁぁぁぁ!!何を教えようとしている! ……んですか!!」うっさいわね! 説明できないでしょ! 死ね!!」
「やめろ! そんな事をおしえるなぁぁぁぁぁ!!」
アランは叫んだ直後に死んだ。アランの魔力が消えたことに驚いたマーキュリーはフェアに向かって怒気を放ったが、生き返らせることを教えたら機嫌を直した。
数時間後、生き返って屋敷に戻ったアランは、言葉巧みに都合良く教えられた情報を信じた気まずそうな部下二人の対応を見て泣き崩れたのはまた別の話。
お読みいただきありがとうございます。




