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魔王様はお嬢様の下僕になりました  作者: 亜桜蝶々
第2章、愛と忠誠心、そして四主。
12/26

屋敷に響く絶叫と悲鳴

久々の投稿です!今回はおまけ付きです。

 某日、というか誘拐事件の一週間が経とうかという頃。アランは黙々と屋敷二階の廊下を掃除していた。一言も発さず、無駄な動作…はある理由によりかなりあるが真面目にしている。


「えいっ!」


 その原因は今の可愛らしい声をあげた少女。…フェアがその無駄な動作を引き起こしている原因である。

 彼女は掛け声と共に非常に鋭いナイフをアランに投げつけた。

しかし、本職(曲芸師)などでは無いので刃先が相手に水平のまま飛ぶなどと言うことは無く、回転しながらコントロールだけは良いので獲物の背中に向かっていく。

 が、アランは軽く体を捻りまともに飛来物を見ずに親指と中指で刃の腹の部分を摘まむ。そして先ほどから傍に居る、自身の影から生み出した“影の尖兵”が持っているトレイに入れる。


「……むうぅ……面白くないわ……ね!!」


 喋りながら今度は両手に一本ずつナイフを持ってアランに同時に投げつけるフェア。相変わらず良い弾道で飛んでゆく。

 今度は影の尖兵が二本のナイフを受け止めた。フェアはふくれっ面になってアランに近づき、非力な腕力で掃除をしている下僕をポコポコと叩き始めた。

 アランは痛くも痒くも無いので黙々と壁を拭いている。


「下僕何とか言いなさいよ、つまんないじゃない! 暇だからあなたを弄ってるのに……なにか言いなさい! ……それか、私に魔法を教えなさいよ!!」

「お嬢様も二階位の基本級魔法までは使えるではありませんか」

「戦闘向きの魔法を教えなさいって言ってるの! 護身用の魔法を!!」


 アランは溜息をついた後にフェアの腕を掴み壁にもたれさせて、俗にいう壁ドンをしました。身長差は20cm以上ありますが、美男美少女ですので何とも画になる光景です。


「……お嬢様。だから絶対に教えないと何度も言っているでしょう。魔法研究や戦いに生きるわけでも無いのですから。お嬢様には必要無いのですよ? そもそも魔法というのは遊びで習うようなものではないのですよ?」


 お嬢様は顔を赤くして口をパクパクさせています。

 天界で知ったことだがここまで効果があるとはな。まぁ頻繁に使っても意味は無いのでたまにしか使えないがな。と、アランは目の前の少女を観察しながら思った。


「い、良いじゃないのよ! 別に覚えておいて損は無いじゃない!!」


 アランは損という言葉を聞き、意地の悪い返答を思いついた。


「……はいはい、わかりました。教えても良いですよ。ただし、教えた魔法で対処できる問題が発生しても休暇中に帰ってきませんからね?」


 フェアは目をわずかに見開いた後、何かを考えるように俯いた。しばらくするとフェアが頭を急に上げて、


「だ、駄目! え……ん? ……いや、良いわ! やっぱり教えなくて良い!!」

「いやいや、良いですよ。教えてあげますから。遠慮無さらないでください」


 傍からみればとても自然な笑みを浮かべながら語るアラン。


「うるさい! 良いって言ってるでしょ! 馬鹿!!」


 フェアはアランを突き飛ばした後に階段を駆け下りていった。その後ろ姿をニヤニヤと笑いながら目で追っている自分を見つけ、


「最近あの小娘の性格がうつってきた気がするな……」


 いかにも不服そうにボソリと呟いて掃除を再開する。埃をふき取り、箒で床を掃く。


「というか、あの小娘の相手をするのもほとほと疲れたのだがなぁ……」


 あの誘拐事件以降、何かと理由や文句をつけて絡んでくることが増えたのだ。アランは溜息を吐きながら掃除を続けた。


 やがて廊下はゆっくり歩いても汚れやごみに気付かないほどに綺麗になった。そして他に命令されたことは無いので、アランは自室に帰って自身が不在の間に起きていたことをまとめて、考察することにした。


◆◇◆◇◆◇◆◇


「まさか、こんなことが思っていたとはな……ん?」


 アランが出来事を記録した年表を眺めながら頭を悩ませていると、背後に魔力の出現を感じため振り向いた。すると、虚空に(ひず)みが出来ていた。


「この向こうから感じる魔力は……!!」


 (ひず)みは段々と大きくなっていき、終いにはアランの部屋ほどの亜空間が出来た。アランはその奥にいる者達の魔力を感じとり、歓喜に震えた。


「お、おおぉ……おお!!」


 あほの子のような声をあげていると、亜空間の向こうから四つの頭が見えた。


「「「「魔王様!!」」」」


 頭を出した四人の声は見事にハモった。女、女、男、男。男二人と女二人がアランの方を向いて叫んだ。

 一階からフェアの「うるさいっ!!」という声が聞こえてきたが、アラン以外は聞こえなかったようだ。


 アランはフェアの言葉の優先順位を後にして、四人に疑問を問いた。


「久方ぶりだな! 我が部下達よ! ……ところで、何故クロノスは顔を見せんのだ? そこにいるんじゃないのか……って、あ!?」


 アランは喜びの為に忘れていた、クロノスという人物の種族の特徴を思い出し魔法を唱えようとした。が、時すでに遅し。五つ目の頭が既に亜空間から頭を出していた。


「“センペントラー……ギャアアアアァァァァァア!!」


 アランは壮絶な叫び声を上げた。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 時は少しさかのぼり、メイルは屋敷の庭にある馬小屋にいた。馬小屋には一頭の馬とメイル、三つのふわふわ飛んでいる生き物がいる。


「う~どうすれば良いのかなぁ」


 自身の白い愛馬、コネクトアイフィールのブラッシングをしながら独り言を呟いている。


 正確には彼女、コネクトアイフィールは馬では無い。彼女はユニコーンという生き物である。

 白い毛並に青い角を持ち、騎乗可能生物の中で最速を誇る魔族である。言語を話すことは出来ないが、高度な知能を持つために理解することは出来る。また普通は獰猛であるが、処女相手にはすぐに心を開くとされる。

 彼女はその中でも非常に珍しい、金色の角を持つユニコーンである。金角のユニコーンは普通のものよりも足が速く、角の強度が高く、そしてなにより性格が穏やかなため他の生き物に心を開きやすい。


「えぇ~。無理だよう…そんな勇気出ないってば」


 軽く顔を赤くしながらまた独り言を呟くメイル。実際は“魔動物会話(アニマルズ・トーク)”という三階位の専門級魔法を使い、愛馬と意思交換しているのだ。


「いいから、ガツンと言っちゃいなよぉ。そんなとこだけしおらしいんだから、まったくもう」


 三つの飛んでいる生き物のうち、白いものがメイルに言った。三つの生き物はどれも三頭身ほどの人型をしたものである。白・黒・青の三色にそれぞれ分かれており、思い思いの場所でふわふわ飛んでいる。


「ガルディアったら……そんな簡単に言えたら苦労しないよ……」

「そんなにモジモジしてたって何にも進展しねぇぜ?」

「コネクトアイフィールもガルディアもジグルも……メイルのペースで良いのよ?」


 メイルの愛馬と黒と白を青色のがたしなめる。黒が呆れた声を出す。


「はぁ……愛馬に『愛しい貴方と繋ぐ者』なんて恥ずかしい名前を付けたくせに何を甘っちょろいこといってんだよ……」


 それを聞いたメイルは顔を真っ赤にして慌てた。


「べ、別に良いじゃない! というか、久しぶりに会ったのにそういうこと言ってからかわないでよぉ!」

「わかったってば……ごめんごめん」


 黒がメイルに謝る。少し離れたところで浮かんでいる白が笑みを浮かべる。実にフェアと仲良くなれそうな笑みである。


「……ん? この魔力の感じは……マーキュリーか……」


 顔をしかめて心底嫌そうに呟くメイル。すると彼女の愛馬が、


(メイル? 同じ魔王様に仕える大臣職なんだから、仲良くしないと駄目よ。)


 と、メイルに言った。正確には念じて伝えた。


「あーあ、ぐずぐずしてるからマーキュリーが来ちゃったじゃん」


 白がメイルに言う。


「い、良いのよ。どうせマーキュリーも似たようなもんだし」

「とりあえず、行きましょうメイル。貴女が居ないなんて話にならないわよ?」

「それもそうね……」


 メイルは“魔動物会話(アニマルズ・トーク)”を解除した後、愛馬を撫で、馬小屋を出た。


「それじゃあ…いこうか。」


 メイルは手を洗い、三人(?)を引き連れて裏口から屋敷に入ろうとした。その時、二階奥の部屋からアランの叫び声が聞こえてきた。


「魔王様!?」「「「アラン様!?」」」


 四人は素っ頓狂な声をあげて顔を見合わせる。


「ガルディア……元に戻って!!」

「わかった!」


 ふわふわ浮かんでいた白いのはメイルの右手のあたりに飛んでいき、その体を〝分解〟した。彼女(?)の体が白く光る粒子となり、一度霧散した後に先ほどとは違う形に収束した。

 メイルの右手に握られたそれは、白い剣であった。見事な意匠が施されたその剣は美しいながらも凶悪な切れ味を感じさせる。


「“任意消音化(ザ・スカー・エコー)”……っ行くよ!!」


 メイルは音を立てないようにする魔法を自身にかけて裏口のドアを開け、フェア達に親子二人を通りすぎ、階段を駆け上がり、アランの部屋の前に立った。メイルは警戒する形で剣を構え、ドアを開けた。


「魔王様! どうしたのでs…」


 メイルは気を失った。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 また、時は遡る。

フェアはアランから逃げたあと、リビングにいた。


「なんなのよ……良いじゃない教えてくれても……」


 花瓶の花を弄りながらいじける。やがて、フェアがなにかの花占いをしているとリビングにルークが入って来た。


「どうしたんだフェア? 何をそんなにいじけてるんだ?」

「お父さん……いえ、なんでもないわ」

「……そうか。お父さんで良ければいつでも相談にのるからな」

「うん」


 ルークはどこか寂しそうに笑った後、ソファに座って本を読み始めた。その本のタイトルは『フラグってマジヤヴェわー。まじパネェっすわ~。』である。


 フェアはその本のタイトルを見て、


「お父さん…なんなの…? その変なタイトルの本。」

「ん? 知り合いの商人に勧められたんだよ。今大人気の本らしい。タイトルはあれだが…なかなかに内容は興味深いぞ?」

「へー、後で読ませて?」

「ああ、わかった」


 そんな会話をしていると、二階の奥からハモった大声が聞こえてきた。それを聞いたフェアは「うるさい!」と叫んだ。


「……どうしたんだろうな?」

「さあ? 解らないわ」


 フェアはやることが無いので書斎に行って本を持ってこようと思い、リビングのドアノブに手を掛けた瞬間、アランの絶叫が聞こえてきた。


「……ん!? ただ事じゃないぞ、これは……ちょっと見てくる」

「私も行く」


 ルークは一瞬ためらったが、首肯して二人で廊下に出た。


 二人が廊下に出ると、奥の廊下からメイルが走ってきた。その速さは尋常で無く、100m8秒台ほどであろうか。彼女はその勢いをほぼ殺さずに反転し、階段を駆け上がっていく。


「……何が起きてるのよ……」


フェア達がしばらく茫然としていると、何やら異臭が漂ってきた。


「なんだこのにおい……うわ……」

「くさっ! くっさ! くさい! なんなのよ!……う……」

「こいつは……海……いや、腐敗した海の魚介類のにお… がっはぁ……!!」


 二人は鼻をおさえた。それほど酷い臭いなのだ。が、


「があぁ……体の中が痛い……」

「うぅ……気持ち悪いよぉ……」


 口から入って来た空気により、吐き気や肺が痛くなるという症状が起きた。


「ふぇ、フェア! そとに逃げるぞ……!」


 フェアは何とかうなずき、二人は外に出ていった。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 警察最高長官、『満ち潮』のクロノス。フルネームはクロノス・ジャン・ルーカス。彼の種族は魚鬼族(サファギン)である。

 魚の体に腕と足が生えたような外見の通常種と、全身が魚の鱗に覆われた特異種が存在する。特異種はその数こそ少ないが、特殊な能力を持っているものが多く魚鬼族(サファギン)のリーダーなどになる個体が多い。

 クロノスはまさにその特異種である。彼の特殊能力は長寿である。魚鬼族(サファギン)の平均寿命は40歳ほどなのだが、彼はもうとっくにその歳を過ぎて今は250歳過ぎである。その長寿能力と頭の回転の速さで警察最高長官まで上り詰めたのだ。


 これだけを見れば良い能力に見えるが、ただ一つ欠点がある。それは、腐敗。彼は普通はもう死んでいる歳であるので、意識していないと強烈な魚介類の腐敗臭を放つのだ。



「“感覚麻痺(センペントラーロス)嗅覚 (・ノーズ)”&“感覚麻痺(センペントラーロス)触覚 (・スキン)”ドウフェノス(彼に)」


 生気の無い瞳をした少女がアランに魔法を付与する。鼻と口を押えていたアランは呼吸を再開した。


「マーキュリー、感謝する」

「いえ、当然のことをしたまでです」


 マーキュリーと呼ばれた少女は淡々と答えた。アランは大臣の一人が支えているメイルの元に行き、自分が付与された魔法をメイルにかけた。アランはクロノスの方に向き、怒りの声をぶつけた。


「クロノス……何故腐敗臭を取らない……?」


 クロノスは震えあがった。


「も、申し訳ありやせん……!! ですが、やむを得ない事情があるんでさ」

「やむおえない事情……? なにが起きたというのだ……ちょっと待っておけ」


 アランは窓を開け、飛び降りた。難なく着地した後、身をひるがえし主の下へ疾駆する。


「お嬢様! 大丈夫ですか! ……勇者もな」

「うぅ~。下僕……なんなのよあの臭いは……」


 フェアのうずくまっている場所には吐しゃ物の後があった。顔は苦痛に歪み、弱々しい瞳でアランを捉える。無理も無いだろうこの時代に海に行ったことがある人物など、海の近くに住んでいるか、商人くらいしか無い。未知の臭いなのだ吐く事は充分あり得ることなのだ。

 アランは後で殺されるだろうと思ったが、目の前の弱った少女の姿を見て嘘はつけなかった。


「“感覚麻痺(センペントラーロス)嗅覚 (・ノーズ)”&“感覚麻痺(センペントラーロス)触覚 (・スキン)”&“身体洗浄(クリア・インナーズ)”フォルベスタ(彼女に)」


 感覚麻痺の呪文と体調(内臓)改善の魔法をフェアにかけ、その後にルークにかけた。そして、


「我の……部下の臭いです。魚鬼族(サファギン)という種族で、彼ら独特の臭いなのです。申し訳ありませんでしたお嬢様」


 アランは頭を下げた。フェアはそれを見て命令した。


「とりあえず、あの臭いの元をどうにかしなさい。それと、しっかり屋敷の臭いを取るのよ」


 アランは少し意外そうな顔をした後、了解の意を示した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「なるほどな……それは確かにやむを得んな……」


 アランは再び自室に戻り事情を聞いた。


 クロノスの腐敗臭を効率よく取る方法は一つしか無い。それは、大量の大根おろしに浸かることである。魔法で腐敗臭を取ることは未だに出来ず、アランも研究してはいるが見つけられていない。

 ちなみにアランは魔族歴史上、一番多くの魔法を開発している。感覚麻痺魔法もその一つである。


「大根が大不作とはな……わかった。増殖魔法を使うからそれを摩り下ろして使え。ほら、大根をもってこい」

「感謝でありやす! 魔王様!」


 何故だかわからないがエセっぽい感じがする言葉遣いでクロノスが言う。


「大根はここにありやす!」

「どこに持ってたのだ……まぁ良い。“倍々(インゼクト)”」


 アランが大根に向かって伸ばした右手から緑色の光が発せられた。

 大根は緑の光に包まれ、段々とその大きさを増していく。そして、内側が白くなっていく。

 内側の白色は形が変わり、大根の形になっていく。


「……このまま緑の光に触れなければ大根は増え続ける。大根になった部分は触れても良いから自分の屋敷へ持っていくのだ。」

「ありがとうごぜえやす! ありがとうございやす!」


 クロノスはペコペコと頭を下げた。そして大根を持って亜空間の中へと姿を消した。アランは溜息をついた後、気を失っているメイルを含めた五人の部下を苦笑しながら言った。


「メイルから通達が届いているだろう? 我が人間の娘の……下僕になったと。失望したか?」

「いえ、滅相もございません。メイルと同じく私達も魔王様のご判断に従います」


 マーキュリーがそう言って低頭した後、他の三人も頭を下げた。

 アランはそれを見て寛容にうなずき、


「では、小娘に言われた通りに我は屋敷についた臭いを取ってくる。とりあえずはお前達も自分の仕事をしておいてくれ。終わったら話を聞こう」

「「了解です魔王様」」


 また見事にハモったのを聞いてアランは笑った。アランは一通り笑った後部下達を見送り、メイルを部屋のベットに寝かせておいて臭い取りの魔法を使い、フェアに命令されたことを行った。


◆◇◆◇◆◇◆◇


「お嬢様終わりm「おっそいのよ、馬鹿!!自分で自分の腕の骨折れ!!」aした……は?」


 その後、屋敷の庭にバキッっという音とまた壮絶な叫び声が上がった

おまけ

《屋敷の見取り図》

「注意」これに書いてある家具のサイズは正確ではありません。ここにこんなものが置いてあるんだなぁくらいに考えて下さい。

1階

挿絵(By みてみん)

2階

挿絵(By みてみん)


見取り図について質問がある方は感想でどうぞ。

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