化かし合い馬鹿仕合
今日朝友人と話してたネタを書ききりました。
人間はそもそも間違っている。
妖怪という存在を・・・
この日本の歴史には、様々な怪異が存在する。その代表格とされるのが「妖怪」という存在。
しかしその姿を見た者は存在しない。
妖怪というのは、人間に目視されることなく存在する一つの概念である。
その概念を滅するために人は職業を創造した。
それは神官、巫女などから、多岐に渡る。
しかしそれらの職業でさえ、妖怪を目で捉えることはできない。
多くの職業は、妖怪の纏う気配を頼りに祓うのが主である。
つまり、今まで全否定してきたように、妖怪は見ることができないのである。
見えず触れられず。そんな存在は、ただそこに有るかもしれないだけの存在なのだ。
それを滅する方法は、人間が独自に生み出した結界によって人間界から黄泉へと送り還す祈祷。要するに、先ほどの神に仕える職を持つものに祓わせる方法。
しかしそれだけではない。
妖怪にはもう一つ弱点がある。
それは、『無悪意』。
妖怪というのは、人間の悪意を主食として生き延びる。
つまり、妖怪を追い払う目的で放たれた拳も、妖怪を爆破するために発射されたミサイルも、妖怪からすれば絶好の飯なのである。
悪意ない攻撃であればあるほど、妖怪にとっては忌むべき一撃となり、それは必殺へと昇華する。
例えばあなたがゴミを投げたとしよう。そこに悪意はない。
ゴミの弾道に妖怪が通ったならば、その妖怪は悪意なく投げられたゴミによって存在を抹消される。
そんな感じだろう。
本題へ移ろう。
まずはあなたに、「狙われ体質」という言葉を覚えていただきたい。
簡単に言ってしまえば、妖怪に狙われやすい体質のことだ。
目の前にたたずむ彼女、飯塚御世は、その「狙われ体質」だ。
彼女自身、決して巫女でも、その血筋でもないが、何故か妖怪に狙われることに長けてしまった。そんな少女。
彼女にピントを合わせるところから、物語は始まる。
【さぁ、見て頂こう。あなたにも思うところがあるはずだ・・・】
飯塚御世は非常に一般的な女子高生だ。
何事もなく育ち、普通に楽しい人生を送っている。
ただ、数ある普通の中に、どうしようもない「特異」が混じっていることは、誰一人知ることはない。
彼女は「狙われ体質」である。
とは言っても犯罪者や、変態に狙われるのではない。
狙われるのは、妖怪にだ。
しかし、彼女には一つの矛盾が存在する。
彼女は妖怪を見ることができない。
・・・と言うとおかしな感じに聞こえるが、非常に一般的なことである。
おかしなものが一切見えず、しかしその見えないものに狙われやすい体質を有している。
そんな彼女がどうして今まで何事もなく生きてこれたかと言えば、答えは単純。妖怪を悉く抹殺しているからである。
彼女は、妖怪に知らぬ間に狙われ、妖怪を知らぬ間に殺している。
その事実は、誰にも知られることはないのであろう。なぜなら彼女の周りに妖怪を見ることのできる人間など居ないのだから。
御世は朝起きたらまず愛犬のニィと戯れる。
というか、ニィが御世を叩き起こし、無理矢理遊ぶのだ。
御世はベッドの端に座り、太ももにニィを乗せ、ニィと遊ぶ。
ひとしきり遊んだ後、ベッドの下からニィ用の遊具を取り出し、部屋の隅に投げる。
それがぶつかって妖怪は死んだ。
・・・いきなりすぎる?簡単なことだ。
その妖怪は御世に付きまとっていた。そして偶然御世の前に立ったときに、御世が遊具を投げたのだ。
それがぶつかって、妖怪は死んだ。
御世の、遊具を投げるという悪意のない行動が偶然、妖怪を殺した。
覚えているだろうか?無悪意は妖怪にとっては必殺なのだ。
わかりやすく言えば、『誰も悪くない』状況こそ、妖怪が一番危機に瀕する状況だということ。
殺された妖怪は霧散する。それを知らぬ御世は、それに目もくれずリビングに下りる。
部屋から出るためにドアを開け、また妖怪が死んだ。
ドアと壁によって圧死。
余談ではあるが、御世の周りには常時十数体の妖怪が存在しており、それらは今か今かと御世を襲う準備をしている。
何度も言っているが、御世はそれを偶然抹殺しているに過ぎない。それが御世が狙われ体質ながら今まで何事もなく生きてこれた由縁だ。
・・・まぁ、何の関係もない妖怪もたまに殺されるのだが。
階段で着々と妖怪を踏み潰しながら、御世はリビングに到着する。
母は朝ごはんの用意を終えていた。
御世はすぐさまご飯を食べる。
箸を白米に食い込ませるのと同時に妖怪の肉体に食い込む箸。
口に含むより先に霧散し、口に含まれるのは白米だけとなった。
「肩が痛いなぁ・・・」
左肩を回す。背後の妖怪の頭蓋に当たり、霧散。
逆回転。左の妖怪の腹部にめり込み、霧散。
右肩を回す。後ろに居た三体の妖怪が肘鉄をくらい、霧散。
逆回転。そこには何も居なかった。
「さて、ご馳走様でした!準備準備~!」
食卓を離れ、走って自室へ向かう。
無悪意の突進により目の前の妖怪が霧散。
時間にして、たった二十分程度の出来事だが、それでも周囲の妖怪のバリエーションが一新されている。
御世の一挙一動は、ほぼ全て妖怪抹殺に繋がっている。
ここで疑問点。なぜ妖怪は避けないのか。
それは彼女の狙われ体質に由来する。
この体質は、妖怪からすれば一種のフェロモンのようなもので、圏内に入ってしまうと狂ったように彼女を追い求める本能が沸き立ってしまう。
つまり、御世の周りの妖怪は皆、発情している。その為、避けることなど考えられない。殺されるがままに殺されていくのだ。
なので、御世が無防備な時を狙って襲い掛かろうとしているのだが、それは今まで実現化したことがない。
それは、御世自身が無悪意の塊だからだ。
彼女は心の芯から悪意を持たず、ただ存在するだけで妖怪からすれば脅威となりうる。
なのに狙われ体質なのだ。
言ってしまえば、別に抹消しなくとも御世が襲われる心配など皆無なのだが、御世はおろか妖怪までもがその事実に気付いていない(妖怪は酔っている為)。
ここでもう一度言っておこう。御世の一挙一動がどれだけ妖怪を殺そうと、『誰も悪くない』のだ。
残念だが今の説明の間に御世はパジャマから制服へと着替えを終わらせた。
「いってきます!」
意気揚々とドアを開ける。
とても気持ちの良い快晴。
御世の家は構造上、今の時間にドアを開けると目の前に太陽があり非常に眩しい。
眩しさに目を潰され数体の妖怪が霧散。
清らかな風と共に歩みを進める。
この時点で数体の妖怪を蹴り霧散させている。
御世は電車通学である。
駅に到着した時、御世は気付く。
電車の時間まで時間がなさ過ぎる。
御世はすでに到着している電車に走り、閉まりかけのドアに突っ込む。
するとドアは音を立てながら開き、再び閉まる。
ここで一つ補足だが、妖怪を殺すのは何も御世の行動だけではない。
あくまで無悪意の行動である。
つまり・・・
閉まり直ったドアに挟まれ一体の妖怪が霧散。
こういうことである。
御世はギリギリ間に合ったことにより遅れることなく学校に到着。
教室の引き戸を開け、閉めるときにも妖怪は例に漏れず霧散する。
むしろ妖怪の学習能力のなさが破滅を招いているような気がしないでもないが、あくまで『誰も悪くない』。
席に着き、ひと段落入れてから、席を立つ。
「ありゃ、どしたの?」
「ん?トイレ~」
御世は再び引き戸で妖怪を閉め殺しながらトイレへ向かう。
中略。
トイレから戻ってきて、まず最初に今日の予習を始める。
HRの時間まで御世は予習をするのが習慣だった。
勉強の間は妖怪達が殺されない・・・
なんてことはなかった。
御世は発生した消しかすを目の前のゴミ箱に投げた。
それは綺麗な放物線を描き、目の前の妖怪のこめかみにヒットし、そのままゴミ箱に沈んでいく。
消しかすでさえも妖怪からすれば必殺となる。
もし御世が友人に消しかすを当てようとしたならば、そこには少量の悪意が発生し、妖怪からすれば怪我は少しで済んだかもしれないが、生憎御世という少女はそういう頭を持っておらず、一番前の席という利点を使い、ゴミ箱へ直接消しかすを投げ入れる術を身に着けた。
もちろんこれも、『誰も悪くない』。
授業が始まり、体育の時間。
着替えの時、ポケットから櫛が落ちる。その櫛に貫かれ、一体霧散。
バッグにある体操服を取り出し、制服を脱ぐ。
もちろん、制服を脱ぐ際に振り回される両の腕は妖怪を抹殺することを忘れない。
着替えが終わり、体育の時間。
女子はバスケをやるので、ボールを二人一組で用意する。
パス練習で着々と貫かれていく妖怪達。
もし妖怪が見える人間が居たならば、この体育館は非常に無残な地獄絵図となっていただろう。
・・・貫くのが御世のボールだけではないからな。
数本、妖怪を霧散させないパスがあったが、それはつまり悪意があったということだ。
察するに、ペアの女子が好きではないのだろう。
こういう間柄なら、妖怪は死ぬことはない。
主食の溜まり場なのだから。
まぁどれだけ主食が溜まっていようと御世が居るだけで御世を狙わずにはいられない。
御世の体質の圏域は、今御世が体育をやっている体育館ぐらいだ。
つまり、もしその領域に全て妖怪が詰まったとするなら、それらは全て御世を襲おうと画策するのだ。
とはいえ、妖怪というのは実はそんなに多く存在するわけではない。
御世が特殊なだけで、想像以上に少ない数なのである。
ここでまたまた登場、妖怪が見える人が居たならば、御世の周りだけ妖怪のテーマパークである。というか御世が見えるかさえも定かではない。
授業が終わり、昼。
箸で妖怪を刺殺し、出入りで圧殺し、一度、廊下で転び体全体で妖怪をプレスした。
余談ではあるが、妖怪に表情はない。しかし、その時ばかりは幸せそうな顔をしていたと仲間の妖怪が証言していたようなしていなかったような。
ここで新情報であるが、御世は非常に可憐である。
なので、モテる。
昼休みになると時々告白されることがある。
妖怪からすれば、それは非常に美味しい展開だ。
なぜなら、「下心」も「悪意」の内に入るからだ。
つまり、妖怪からすれば、御世が言い寄られれば言い寄られるほど美味しい食事が待っているということ。
「下心」を好む妖怪は多く、多くの下心を集める御世を見にきたらまんまと狙われ体質に曝され、御世を狙うことしか頭になくなってしまった可哀想な妖怪も居るが、とうの昔に霧散している。
「ごめんなさい!」
断りのお辞儀で目の前の妖怪を切断して、午後の授業へ。
御世の最近の趣味はペン回しだ。
言いたいことはわかっただろう。
午後の時間中、ずっとペンを回していた御世は、午後の二時間だけで数十体の妖怪を抹殺した。
天然殺戮機とでも言うようなスピードで妖怪たちを霧散させていくが、まだまだである。
学校が終わり、帰路。
喉が渇いた御世は自動販売機で炭酸を買い、ふたを開けた。
プシュッ
爽やかな音と共に霧状で円形に広がった炭酸が周囲の妖怪を一気に滅する。
一時、御世の周辺からは妖怪が消え去ったが、圏内に入った妖怪たちでまた囲まれてしまった。
そう、炭酸は御世が持つ最強の武器といえる。まぁ戦っているわけではないが。
一方的に妖怪が殺されていっているが、『誰も悪くない』。
帰宅し、靴を乱暴に脱ぎ捨てた先には妖怪の下腹部が。
接触=死である。
例に漏れずその妖怪も霧散する。
時間は七時ごろ。御世は風呂の支度を始める。
風呂にて、御世は一番無防備な状態になるが、それでも襲われることはない。
むしろ・・・
シャァァァァァッ
御世の体を流れるシャワーの飛沫が、次々と妖怪を殺していく。
風呂は逆に安全地帯なのかもしれない。
髪や体を洗っている間も、洗剤から発生した泡によって妖怪たちは破滅を余儀なくされている。
体を洗い終わり、湯船につかる。
このときも、御世の茶目っ気により、水遊びで発生した水鉄砲が見事妖怪の心臓に直撃。
というかその前になんで自然に妖怪たちは御世の風呂に同席しているのだろうか。
風呂上り、御世は髪を乾かすためにドライヤーをコンセントに繋ぐ。
オンにした瞬間、一直線上の妖怪たちが消滅する。
御世のスイッチにより生まれた風が、届く限りの妖怪まで到達し、肉を食い破る。
ドライヤーはビームのような存在といえる。
その後ご飯を食べ、家族との団欒を楽しみ、ニィと戯れ、そうしてやることを終えた御世は、自室へ。
今日の復習を終えてベッドへ。
するとその時、圏内に居たにも関わらず自我を保っていた妖怪が一体。
それは目を疑うような速度で御世の喉元へ奔る。
このままでは、御世がその妖怪に襲われてしまう!(まぁでも無悪意の塊だから心配無用だが)
妖怪が勝利を確信したその時!
ブゥン・・・
何かがその妖怪を貫いた。
妖怪は必殺を受けながらもその正体を探す。
徐々に、しかし素早く霧散していく中で、消えゆく視界はある一つの「物体」を捕捉していた。
ブゥン・・・
ブゥゥウゥウン・・・
・・・蚊。
妖怪は、蚊に貫かれたのだった。
そう。御世の部屋に蚊がいたのも、蚊がそこを飛んだのも、『誰も悪くない』のだ。
「・・・蚊?もう、ヤダなぁ・・・」
御世は襲われる危機を知らずに脱し、そこに更に追い討ちをかける。
「蚊取り線香つかおっかな」
窓を開け、リビングから蚊取り線香を持ってきて、着火。
そこから立ち上る煙は、部屋に存在する妖怪たちを焼き尽くした。
そうして、御世には静かな夜が舞い降りる。
『誰も悪くない』、そんな夜が。
こういう下らない話をしながら登校してるんです。