姉妹
そこにあったのは、複数の培養器。
しかし、その内部には何も入っていないように見えた。
「もう私以外は先祖っ。入ってるワケがないんだからねぇ~?」
“やれやれ”と、夢芽は呆れを見せる。
「あ、これこれ♪ 私の生まれた場所っ!」
自分が育った培養器を指差した。
「…夢芽は、人造人間…なのか?」
この光景を見て、泉美はそう思った。しかし、
「違うよ~? 人造人間みたいに、人が造った人間じゃないからね~?」
「…だとしたら、お前は何なんだよ…?」
人造人間でもなければ、人間でもない。だったら何、と泉美は問う。
すると夢芽は、
「なぜか生まれた未確認生命体…とでも言っておこうかなぁ~♪」
と答える。
どうやら夢芽は、人間ではないようだ。
「私も分からないの。どうしてココに生まれたのか…とか、人間の子じゃないなら何…とか。でもね、ハッキリと分かるのは…私が、いつの間にか存在してたことだけ…」
この夢芽のよく分からない発言に戸惑う泉美。
「人造人間のように、誰かが作ったのなら私は納得がいった。けど、夢芽は全く別の何か…? 産まれても、作られても居ないなんて、ありえなすぎて信じる事なんか出来るわけがない…! ふざけないで!」
大声を張り上げ、夢芽の肩を強く掴む。
「い、イズミン…?」
痛みはモノともせず、ただ唖然としていた。
「…あれっ? この感触…」
夢芽の肩を掴んだとき、違和感を感じた。
「…人造人間なら、少し固まってしまうから、こんなに柔らかくないし…本当の人間なら、ここまで脈を感じない事は絶対にない…。脈もなければ、人間じゃないワケでもない…!?」
不思議な感覚とともに、夢芽の正体が全く分からなくなり、混乱し始める。
「だから言ったでしょ? 人間でも人造人間でも、歌聖神のような神でもない。これって、新生命体…かなぁ?」
結論を付けられない夢芽。
「…夢芽…ワケわかんないよ…」
ムシャクシャしてくる泉美。
「ワケ分かんないのは私も同じ。生まれてきた私でさえ、どうやって生まれたか知らないんだよ? こんなの本当にワケわかんない…っ」
夢芽もまた、困惑している。
しかし、そこには出自を教えてくれる先祖も、科学者も居ない。
そもそも、科学者でも解明不可能なのだけれど。
「…だから、イズミンをここに入れてあげたんだよ…?」
不意に夢芽は、こう言い放った。
「…えっ? 今、何て…?」
そう夢芽に問おうとした時だった。
いきなり夢芽は、泉美の両腕を掴んで壁に押しつけ、電気ショックで痺れさせた。
「あがっ!? ゆ、夢…芽…っ!」
軽く防御していたからか、そこまで痺れずにいる泉美。
「はぁ、はぁ…な、何してんだ…っ」
軽いショックに陥り、抵抗するチカラも激減し、泉美は夢芽に押さえつけられてしまう。
「二人きりになるチャンス、ずーっと伺ってたんだよ~?」
今度は膝蹴りが鳩尾に直撃。さすがに激痛で大ダメージを負った。
「うぐっ!! …がっ…はぁ、はぁ…。な、何の恨みが…ある…っ」
苦しみに悶えながらも、夢芽に問うことを諦めなかった。
「別に恨みは無いんだけどね…って言ったらウソになるなぁ♪ コピー出来なかったことが正直くやしいよ? でも、それが理由でこんなことしてるんじゃないよ?」
「だったら、なんで……っ」
その理由は、意外なモノだった。
「イズミン…これから私と2人で、世界を直しに行くんだよ? 私が操れない世界なんてウンザリ! 操れる世界に作り直すの♪」
なんと、自分が周囲の人間を操っていたことを明かしたと共に、破壊宣言をした!
「この裏世界を作り出したのは羅宇だけど、それが意外と予想外の産物を生み出したんだよ…。シェガンゾフ一族のような異民族を生み出したり、歌聖神のような神を創り出してしまったり、イズミンみたいな混在人間を産み出したりしてしまったの。そんな中の1人が、この私でもある…
だけど、それじゃつまらなかった…
だからこそ私は、全ての人類を思い通りに動かし、破壊神や二輝幻将、移次元警官や壊星団を作り出したのに…ぜーんぶ水の泡!! イズミンのせいだよ!」
夢芽は怒りに身を任せ、泉美を拘束し、泉美の顔面すぐ真横に鋼鉄の拳をぶつけた。
壁に穴が空くくらい異常に固い拳で。
「ち、ちょっと、夢芽…お、落ち着いて?」
あまりのあらぶりように焦り、冷静になれない泉美は、語り始めた。
「私は今まで、地球を壊滅させたくない一心で、破壊活動する人々を止めてきた。その結果、仲が悪かった王国と帝国も友好条約を結び、破壊神だった子も復興支援に励んだ。そして私は、それらを全てサポートしていくつもりだよ? 平和のために、ね」
「…正論だね~」
あっさりと認める夢芽。しかし、
「でもね? 私は世界が思い通りに動いてくれないのはイヤ。それに、イズミンが私と同格なのも悔しいのっ! 最強は私だけでいいのにっ!」
理解不能な発言は続いた。
「どうしてこうも平和になっちゃうのか不思議だよね~…。荒れてた国もあったのに、何だかんだ話し合いで平和になっちゃう。そんなだから、いざ戦争になった時には対応できなくなるんだよぉ…」
まるで戦争国家が言いそうな意見だ。
「…さっきから意味が全く理解できないし分からない。目を覚ませよ」
拘束を強引に解き、泉美は地に立つ。
「夢芽? ちょっと痛い目に遭わないと危ないみたいだね…」
泉美は、戦闘態勢になる。
「…へぇ~? イズミンも、全く理解してくれない人達の味方なんだ~? …じゃあ死んで?」
夢芽も、戦闘態勢になる。
高良姉妹の闘いが始まった………




