結末
ニヒツと円。
「俺は、母さんを裏切り者扱いした王国は絶対に許さねえからな…!」
全力全開で戦闘態勢になるニヒツ。
「私は、王国を“平和だからつまらない”っていうくだらない理由で破壊した帝国を絶対に許さないよ…」
怒りに身を乗せて戦闘態勢になる円。
「貴様、名は?」
「芝狐村 円。キミは?」
「俺は、ヴァルバ・ゼーガ・シェガンゾフ」
ニヒツの本名は、ヴァルバ。
「…わりぃが、芝狐村…貴様には、ここで死んでもらうぞ!」
無源魔能を使い、空間の波動で仕掛け始める。
「そっちこそ、私に勝利宣言したことを後悔させてあげる!」
多属性を全力で使い、ヴァルバに対抗する。
炎なら、炎に似た何か。
氷なら、氷に似た何か。
鋼なら、鋼に似た何か。
2人は、全く同じような攻撃をしていたために、全て相殺で砕けていた。
「意外と属性あるね。まさか二輝幻将か…?」
こう言い、そして続けるヴァルバ。
「聞いたことあるぞ。いろんな属性を身にまとって、臨機応変に出し入れできて、そのうえ敵と正反対の能力で勝つ…」
「…よく知ってるね。そう、私の能力は
“多属性”
いろんな属性を身にまとって発動できる、素晴らしい能力だよ」
少し明かしてしまうが、それでも攻防は続いた。
「…」
なぜか突然、立ち止まるヴァルバ。
「…?」
さすがに突然すぎて、攻撃しようか否か迷う円。しかし、それも束の間。
「…母さんが、ヤバい!」
…あまりに均衡して決着がつかない間に、シュロナとバルミの決着がついた。
………同時に、智歌と亜久未も気づいた。
「…どうやら、決着ついたみたいだね…」
「そうね…。アタシは、2人が分かり合ったんだと思うから、それで…」
智歌は、そこまで言った時、異変に気づいた。
「…シュロナが、死の間際だ…!」
「…えっ!?」
その言葉にとっさに反応し、シュロナとバルミの方を向き、それを視認した。
「…まずい! オーラ消えかけてる!」
治癒能力持ちの亜久未は、すぐさま駆けつけた。
智歌、亜久未、ヴァルバ、円。
この中で移動が速いのは、圧倒的に亜久未。
真っ先に亜久未がバルミとシュロナの場に着き、2人の悲惨な有り様に驚いた。
しかし、同時に理解した。
「…お互いに、全身全霊の全力全開でぶつかり合ったんだね…。そりゃあこうなるワケだよ…」
それを聞いたバルミ。だが、何よりも姉の無事を優先した。
「頼むから、シュロナ姉さんを先に助けてくれ! 貴様なら出来るのだろう!?」
涙を流しながら訴えかけるバルミ。しかし、亜久未は少し意固地になっていた。
「帝国側の人間を? 嫌だよ…」
ここまできて、まだ抵抗を見せる亜久未。
しかし、そんな亜久未に怒りを露わにするバルミ。
「それでも復興支援員なの!? 目の前に倒れている人がいたら、真っ先に助けなさいよ!!」
怒鳴り散らすバルミだったが、亜久未は、この場面で言うべきではない言葉を口にする。
「それが人にモノを頼む態度? 助けて欲しいなら土下座して丁寧に頼んで? そうしたら考えてあげるよ」
怒り心頭になりそうだったが、助けて欲しい想いが強かったため、素直に土下座し、
「ツグミさん、アタシの実の姉であるシュロナ姉さんを生き返らせてください。お願いします!」
と、丁寧にお願いした。
さすがに亜久未も、そこまでしないと思っていた面が強く、
「…そ、そこまで本気なら、やってあげるから…治癒」
と、少し渋々だったが、治癒を使い始めた。
「…これ、相当ダメージが…」
あまりの大打撃で、治癒も行き届いていない部分があったが、それでも一命は取り留めたようだ。
「でも、死んでないから安心して?」
みるみるうちに回復していく。
その回復の最中に、円と智歌とヴァルバが来た。
その光景に真っ先に驚いたのは、
「…王国側の奴が、母さんを…治癒してくれてる…」
ヴァルバだった。
「…んっ…」
意識を取り戻し、シュロナは立った。
「…姉さん…! 生き返った…」
生き返ったことに感動し、強く抱きつくバルミ。
「バルミ…」
優しく、そして親切になったシュロナが、ここにいた。
「…智歌、ニヒツ…と、王国側の方々…。来てくれてありがとう…」
「…姉さん…よかっ、た…」
今度は、バルミが倒れてしまった。
「えっ、バルミ!?」
みんなして問いかけるが、シュロナだけは違った。
「大丈夫、バルミは死んでないわ。だって、心臓は動いてるし、何より笑顔だもの…寝ているだけよ…♪」
シュロナは、バルミのことを優しく抱きしめ、頭を優しく撫でる。
「…しばらく、こうしていましょう? みんなも気は済んだでしょ?」
「…まだオレは納得いかねえけど…円との対決は、お預けだな…」
「そうだね。私のライバルさんっ」
ヴァルバと円は、曖昧に終わった対決のことは忘れようとしていた。
「…ま、いっか♪」
「ボクも、どうでもいいや!」
智歌と亜久未は、すっかり元通りに戻った。
「…“平和がつまらない”ってことは無いわね…。バルミ、あなたのお陰で“平和”がどれだけ重要なのか分かった気がするわ…。ありがとう…」
寝ているバルミに、シュロナは話しかけた。すると、
「…んっ…よかった…」
寝言だったが、それは明らかにシュロナに向けた言葉だった。
………こうして、帝国も王国も平和を取り戻した。
そしてシェガンゾフ帝国は、エフティルシパ王国の復興支援に、全力で参加することにした。
…と、こうして友好的になった王国派と帝国派とはまた別の場所で、まだ泉美と夢芽が闘っていた…
そしてエミナスは、まだフォゲウスが捕まっている某所には辿り着いていなかった………




